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気になる News & 記事 2007.01.25

2007-01-25 21:23:46 | 政治/社会
『Newsweek』 2007.01.31号

 格差地獄はここまできた

 シンガポール: 成長を続ける「グローバル化の優等生」でも金持ちと企業だけが潤い、庶民の暮らしは貧しくなっている

 人口430万人の小さな都市国家シンガポールは、グローバル化の波を最大限に利用した国といわれる。この10年間に、外国から積極的に投資と人材を受け入れ、法人税を大幅に下げ、バイオ、製薬、金融サービスといった重要産業の育成を奨励。諸外国と自由貿易協定を結んできた。
 おかげで、過去3年間のGDP(国内総生産)成長率は平均7・6%。先進国としては驚異的な伸び率だ。雇用創出率も高い。
 ただ、一つだけ問題がある。その恩恵が国民全体に行き渡っていないのだ。新しい統計によると、中間層は経済成長の果実をまったく味わっていないし、貧困層30%は5年前より生活が苦しくなった。
「高成長を遂げながら、実質賃金の中間値は伸び悩み、低所得層が貧しくなるという新しい現象が起きている」と、シンガポール経済学会のヨー・ラムキョン副会長は指摘する。
 これはシンガポールだけの現象ではない。先進諸国全体で賃金が伸びていないのだ。だが、賢明かつ透明性の高い統治で知られるこの国でさえ、グローバル化のもたらす富の大半が金持ちと多国籍企業に集中してしまうとは意外だ。

 庶民の労働を奪う外国人

 政府が自国経済の国際競争力を伸ばすため、企業のコスト削減を促した結果、人件費は大幅にカットされた。公式統計によると、この5年間で最富裕層10%の所得は年2・3%伸びた(利子や配当などの不労所得を除く)。
 その一方で、最貧困層10%の労働所得は年に4・3%も減っている。しかも政府は勤労者の年金、公共住宅、医療費、教育費のために被雇用者と雇用者が積み立てる中央積立基金について、企業側の拠出率低下を認めた。
 こうした要因が重なって、個人消費の伸び率は予想を下回り、過去2年間は3%にとどまっている。
 シティグループ・グローバル・マーケッツ・シンガポールのエコノミスト、チョア・ハクビンに言わせれば、「個人消費(の不足)が景気拡大の足を引っ張っている」。それで痛手を負うのは、シンガポール経済のなかで存在感が大きい小売業界だ。
「(小売業は)高度成長の勝ち組ではない」と、コンサルティング企業センテニアル・グループのマヌ・バスカランは言う。
 労働の現場では外国人との競争も厳しい。窓枠施工業者のタン・ブンスーは、インドネシアやバングラデシュから押し寄せる移民との「死に物狂いの競争」を嘆く。街路清掃や警備員の仕事も低賃金の移民に奪われる。仕方なく職業を変えたり、安い仕事をたくさんするシンガポール人が増えた。
「経済成長のことは話に聞くが、私には実感できない」とタンは言う。「金融業は景気がいいとしても、建設業はさっぱりだ。(アジア経済危機のあった)97年よりも生活が苦しい」

 「最下層」の出現は想定外

 この事態は、いずれ大問題を引き起こすおそれがある。「この傾向が放置されたままだと、最下層階級が形成され、社会の不安定要因になるかもしれない」と、ヨーは警鐘を鳴らす。
 最下層階級などという存在は、シンガポールの国家構想のなかで想定されたためしがない。政府は今こそ予防策を講じるべきだろう。
 昨年、政府は勤労者用の福祉政策として、実験的に低所得者に一時金を支給した。低所得の勤労世帯数を減らすため、この制度を定着させることが検討されている。
「さまざまなやり方を試みるが、原則は同じだ。努力する人には手を貸す」と、リー・シェンロン首相は昨年11月の国会演説で述べた。
「低所得層に有利な方向にバランスを取ることが必要だ。グローバル化は社会の安定を損なう」
 2月の予算案演説で、リーは国内における貧富の格差問題を大きく取り上げると予告した。現実を知ることは大切だ。きっと演説は重要な第一歩になるだろう。

 ソニア・コレスコフジェソップ(シンガポール)

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