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警告レポート、米国に蹂躙される医療と保険制度

2005-12-25 01:55:02 | 記事
「文藝春秋」2005年12月号

奪われる日本――「年次改革要望書」米国の日本改造計画
警告レポート、米国に蹂躙される医療と保険制度
関岡英之


 …(略)…
 この郵政民営化問題には、結局最後まで、おおやけにはほとんど語られなかった側面がある。日本の構造改革の本丸、あるいは政治家小泉純一郎氏の個人的執念、などと取り沙汰されてきたこの問題の背後には、米国からの執拗な圧力という、もうひとつの知られざる因子が、通奏低音のごとく伏流していたのである。

 数年後の日本はどうなっているか。どんな分野で規制が緩和され、新たなビジネス・チャンスがうまれるのか。どの法律や制度が、どう改正されるのか。経営の中長期計画や、株式の投資戦略などを検討する際、必読の文献が世にある。

『年次改革要望書』という外交文書がそれで、一九九三年の宮澤・クリントン日米首脳会談で合意されて以来、日米両国政府が相互に提出しあってきたものだ。過去十年間、日本で進められてきた「改革」のかなりの部分が、日本政府への米国政府の『年次改革要望書』の要求を忠実に反映したものだ。今年国会で成立した新会社法しかり、改正独禁法しかり。そして郵政民営化法もまたしかりである。その歴然たる従属ぶりは、「恒常化された内政干渉」とでも表現するほかはない、主権国家として尋常ならざるものだ。

『年次改革要望書』は機密文書でもなんでもない。情報公開法の手続きもいらない。私はインターネット上で偶然この文書を見つけた。在日米国大使館のウェブサイトでその日本語版が公開されており、いつでも誰でも無料で閲覧することができる。

米国が要求し続けた簡易保険の廃止

 いまからちょうど十年前、一九九五年十一月に米国政府から日本政府へ提示された『年次改革要望書』のなかに、郵政三事業のひとつ簡易保険に関して次のような記述がある。《米国政府は、日本政府が以下のような規制緩和及び競争促進のための措置をとるべきであると信じる。……郵政省のような政府機関が、民間保険会社と直接競合する保険業務に携わることを禁止する。》

 それ以来、米国政府は簡易保険の廃止を日本に要求し続けてきた。一九九九年の要望書ではより具体的な記述になっている。
《米国は日本に対し、民間保険会社が提供している商品と競合する簡易保険(カンポ)を含む政府および準公共保険制度を拡大する考えをすべて中止し、現存の制度を削減または廃止すべきかどうか検討することを強く求める。》
「民にできることは民にやらせろ」、つまり官業としての簡保を廃止して民間保険会社に開放しろというロジックの淵源は、米国政府の要望書のなかにあったのだ。
 …(略)…
 結局のところ、郵政民営化問題の本質を最も鋭く認識したうえで、日本国民の代表として誠実に行動したのは、郵政民営化法案に反対票を投じた自民党の国会議員たちであった。
 …(略)…
 小林興起氏と小泉龍司氏はともに元経済官僚だけに、この種の複雑な法律の条文の行間に潜む危険性を見抜くだけの高いリテラシーを持っていた。そして自らの信念を貫いて行動した結果、権力の逆鱗に触れ、見せしめとして徹底的にいじめぬかれた。

 郵政民営化を唯一の争点とした先の総選挙の真相は、官邸とマスメディアが演出したような「改革派」対「守旧派」ではなく、「対米迎合派」対「国益擁護派」の闘いだった、というのが私の理解である。しかし真の国益を守ろうとした自民党の勇気ある議員たちの警鐘は、単細胞的常套句の連呼にかき消されてしまった。我々国民は「小泉劇場」に踊らされ、これらの政策通の国会議員たちから議席を剥奪し、その穴埋めに、小泉総理にひたすら忠誠を誓う公募の新人を大量に国会に送り込んだ。

 小泉総理のワンフレーズに比べ、反対票を投じた自民党議員たちの説明は国民にわかりにくかったと、したり顔で指摘した識者が多い。だが「政治はわかりやすくなければダメ」などというのは衆愚政治の極みであって、成熟した民主国家なら本来恥ずかしくて真顔で言えるようなことではない。日米保険協議以来の長きにわたるいきさつのある大問題を、説明責任も果たさず、ただ「イエスかノーか」という二者択一に矮小化して国民に信を問う、などというのは容認しがたい欺瞞行為である。「自己責任」の名の下に、最終的につけを払わされるのは我々国民なのだから。

次なる主戦場は健康保険

 郵政民営化法案が成立した今、事情を知る者は次なる主戦場を凝視している。それは公務員数の削減でも、政府系金融機関の統廃合でもない。それらは真の葛藤から国民の注意をそらす当て馬に過ぎないのだ。この国には米国の手垢にまみれていない、もうひとつの官営保険が存在することを忘れてはならない。それは健康保険である。国民生活に与える衝撃は、簡易保険の比ではない。「民にできることは民にやらせろ」という主張がまかり通れば、健康保険も例外ではいられない。既に第三分野(医療・疾病・傷害保険)は外資系保険会社にとって、日本の保険市場を席巻する橋頭堡になっている。
 …(略)…

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