**馬耳東風**

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中国の静かな侵略(チャームオフェンシブ)

2015-11-17 | 世事諸々
アフリカへの道

イギリスにグローバル・ウイットネスというNGO(非政府機関)があります。世界の政治・経済の問題ありげな出来事を見つけては、追跡調査するという団体です。

世界で起きている違法でないまでも非道な行為、政治経済に関る不正・不明朗な行為を摘発・報道するというものですが、誰の依頼によるものか、また目的も判然としません。そこで、もう一つのNGO“余計なお世話の(人権問題の)アムネスティ”に比肩してみると(なるほど)と少しはその存在理由が理解できるかも知れません。

このNGOの最近の活動報告は中国のアフリカ進出問題で、そのタイトルは、China's Silent Army(中国の静かな軍隊)というもので、含むところがありそうです。黙々と進路の全てを食い尽くしながら押し寄せる軍隊蟻の群れをイメージして、中国のアフリカ進出を批判しているように思えます。

しかし、中国がアフリカ進出を図る以前のアフリカの状況は旧宗主国やアメリカなどにも手に負えない一面があったのです。絶え間ない部族対立、戦乱と難民の群れ、干ばつと大地の荒廃、貧困と無気力、横暴な独裁者の出現・・、そのため西側先進国はおしなべて冷淡で、アフリカへの救援は一向に進まなかったのです。

ところが、遠い国から、中国が別の目でじっとアフリカ大陸を眺めていたのです。蟻が砂糖の山を見る目でした。アフリカは眠ったままの天然資源が多く、それらを管轄する愚かな独裁者が(各国に)いて、彼らが西欧から忌避されている状況も好都合で、その上、空の食器を並べたような巨大な市場が存在している、ように思え、当時生産過剰気味の中国製品を売るのに最適な国々に思えたのです。経済援助を申し出ても十分採算に見合うと考えたのでした。

中国にとって、鉱物資源・木材資源・エネルギィー資源は戦争をしてでも手に入れたい物資ですが、それにも増して、アフリカの魅力は、その広大な未開の地で、商業、工業、農業、水産業、と全てが未開発で、中国が(寄与)出来る場所は無尽蔵に思えたのでしょう。それは、永年の頭痛の種、人口問題を緩和する糸口にもなりそうで、大きな期待を抱かせるものだったのです。

中国のアフリカ戦略は慎重でオーソドックスともいえるものでした。天然資源が豊富で、独裁者の国で、西欧から忌避されている国に狙いをさだめて、順次、国土開発と経済支援を申し入れています。了承されると、すかさず賄賂を贈り、見返りに植民地時代に掘り掛けて放置されていた鉱山の採掘権を得て、同時に森林の伐採権も確保するというものです。経済援助の内容も道路建設や港湾などのインフラ整備が最初で、これは採掘伐採した資源の搬出のためで、次に着手するダムや発電所建設も、長い目で見て、将来自分達が商工業に参入する際に不可欠なインフラだったのです。病院や学校も作ったのは住民懐柔に効果的で、(善良で友好的な中国人)の存在をアピールする必要があったからのようです。

中国のアフリカへのアプローチはアジアの国々に対するときの強面とは対象的で、イギリス人はこれをチャーム・オフエンシブと呼んでいます。甘言で始まり、徐々にボディブロウを浴びせ最後にダウンさせるというものです。

少し昔に戻りますが、2006年11月、中国の胡錦涛主席がアフリカ諸国を訪問した折、ナイジェリアにも立ち寄り、当時の大統領オルセング・オバサンジョの熱烈歓迎の辞を受けています。歯が浮くほど高揚したものでした

「21世紀は中国が世界を主導する世紀です。中国が世界を導く時、我々もその後に続きたい。あなたがたが月に行くとき我々は取り残されたくないのです」(原文のまま)

顧みて、日本も長年(中国より数倍長く)アフリカ諸国に継続的な〔外務省主導のODA〕経済支援を行って来ていますが、外交ベタの所以か、教会の献金箱にいれたほどにも感謝されず、神のみぞ知る支援に終っているのです。

中国の経済支援と外交には行き過ぎの面もありますが、必ず意図と目的があり、その成果を期待するものです。日本の外務省に見られるような漠然とした慈善意識など毛頭なく、日本はその点でも、中国に学ぶべきところがありそうです。口先はともかく、国際政治で無償の支援も奉仕も災害時以外では有り得ないことだからです。

植民地解放後のアフリカの(60年に及ぶ)騒乱と貧困は、ヨーロッパの旧宗主国に原因がありそうです。旧植民地国が撤退時に、後継者を擁立することもせず、政治の継承もしていない怠慢があったからです。被植民地国の治世権を長年奪っておきながら独立後の治世の道筋も作らなかったのは失策で、そのため、混乱の中で暴力がはびこり、覇権を争う騒乱が何年も続くことになったのです。

国連のユニセフが(貧困と餓死者のアフリカ)救済、と支援キャンペーンを始めて、少しは一般の関心も集め、国際的な募金活動も始まりましたが、しかし、国家的な本格的支援は行われず長い年月が経過していたのです。

グローバル・ウイットネスは、中国のアフリカへの経済支援のもう一つの(重要な)目的、移民問題にも言及しています。中国人を自然な流れで大量に送り出すには、需要を掘り起こす必要があったと指摘しています。アフリカはどの国も、人口過剰気味に見えても労働力は不足していて、そのため建設労働者や技術者はすべて中国本土から移住させる必要があった、と中国当局者は当時の実情を述べています。

技術者・労働者と共に商人達、中華料理の料理人と食堂経営者、従業員とその家族、親族とセットでやって来ます・・・多くの国で移住者の数は数十万人を越え、アフリカには累計三百万を越える移住者がいるとも言われているのです。

中国人はアフリカに多くのものを建設し、近代都市もつくり、溢れるほどの商品と一部に豊かさをも持ち込んで来ましたが、それはアフリカ人のためというより中国人のためではないかと、現地の人もようやく気付いて不満が噴出しているところもあるようです。当初は歓迎だったのですが・・・

現在少し遅れて(侵略が)進行中の南アフリカ共和国を例に取ると、中国製品はどこでも熱烈歓迎されていて、中国人もおおむね好感をもたれているそうです。〔安価で良品質の〕中国製品は市場を席巻していて、ここは中国か、と思われるほどだそうです。

バスやトラック、携帯電話、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、フライパンに包丁、プラスチック製品、衣類に寝具、石鹸から菓子類に至るまで中国製で、日本製品など見る影もなく、デパートもスーパーも今や中国製品を中国人が売り、生活の場を広げているのです。またマスメディアへの浸透も怠りがなく、ナイロビをハブ・ステーションにしている中国国営テレビが、ここにも現地支局を作り、現地スタッフによる現地語の自主制作番組を放映して情報番組のみならず娯楽番組も制作していて、中国製品のCMも流し、ある程度の視聴率も保って人気を博し、この国でアルジャジーラやCNNと並ぶ放送界の一角を占めているのだそうです。

中国の静かな民族移動は、見るかぎり成功しているのです。

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