【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》

古都、薬を売る老翁(壷公)がいた。翁は日暮に壺の中に躍り入る。壺の中は天地、日月があり、宮殿・楼閣は荘厳であった・・・・

小説・耶律大石=第二章_10節=

2015-04-19 16:13:42 | 歴史小説・躬行之譜

 

 1125年の晩春、遼の天祚帝耶律延禧が治世に使用された元号では保大5年の四月、春の息吹は陰山山脈南麓にも訪れていた。 五原の天祚帝は信任する耶律撒八がもたらした西夏への亡命がウイグル族の策動で立ち行かなくなったと知った。 西夏王国は1038年に、タングートの首長李元昊が漢中西北部 黄河を挟むオルドス対岸(甘粛省・寧夏回族自治区)に建国した王朝で、遼と同盟し宋に対抗する政策を採用し、しばしば宋内に兵を進めていた。 しかし、宋との軍事対立は1044年の和議成立(慶暦の和約)で 宋が西夏の地位を承認すると共に西夏が宋に臣従する代償として莫大な歳幣を獲得していた。 しかし、同年に西夏と遼の間で武力衝突が発生すると、西夏は宋・遼と対等な地位を獲得するに至っていた。

 1115年、金が燕京を制圧し王朝が成立すると 西夏は遼領土に対し侵攻を開始した。 金の阿骨打への威圧行動である。 そして、1122年3月7日、金の太祖阿骨打と入来山で戦って大敗し、完敗した遼天祚帝は西夏に亡命を打診しつつオルドスの北方、黄河北岸の五原の湿原に仮寓の宮廷を築き、時を待っていた。 しかし 同時に金の使者も西夏に来朝し 西夏王李乾順に対し遼帝の引渡しと金への臣下の礼を求めた。 李乾順は遼の復興は困難と判断し金の要求を受諾、これにより西夏は金に服属する政治的虚構を創り上げ、金により北宋が滅ぼされると、西夏は機会に乗じ広大な領土を獲得することに成るが・・・・・

 

 金と西夏の密約を知った天祚帝は潜伏地の陰山山麓の五原から江南の宋の勢力を頼って逃亡する。 少数の兵が従った。 夜陰に紛れての逃散と言えた。 包頭から南下する黄河の東を窟野河に向い、朔州を南に横切り 大原は避けて 燕雲十六州の応州に至るが、燕雲十六州を南宋から支配権を奪っていた金の兵に捕まった。 降伏した天祚帝・阿果は後に金から海濱王に冊封され長白山に送られて余生を過ごし、天会6年(1128年)8月に病死(享年54)するが、天祚帝が降伏した時点で遼は滅亡した。 そして、北遼も瓦解後寸前であった。 なお、天祚帝の末裔は金の海陵王により一族が誅殺され、断絶している。

 一方、先に帰順した耶律余睹は金の皇族の粘没喝(完顔宗翰)の武将として、都元帥府・右都監に任じられ、西京(大同)の統括に当たった。 間もなく南宋の武将・郝仲連らが軍勢を率いて、黄河を越えて遠征を仕掛けてきたので、耶律余睹はこれを迎え撃った。 余睹は、郝仲連ら数万の軍勢を壊滅させた。 金皇帝・阿骨打はこの成果に満足するが大同の奥、陰山山脈地方に逃亡した耶律大石の動向が気に成っていた。 また、燕雲十六州を手中に収めたとは言え奪還を目指す宋軍が事あれば北上をくりかえしている。 女真の故地を離れて十余年、50歳を超えた阿骨打は自らに残された時間が長くない事を知っていた。 病を隠していたのである。 

 

 阿骨打皇帝にとって、遼は滅び去り北遼も自壊するであろうが、居庸関で見まえた耶律大石の泰然自若の風貌が脳裏から離れることが無かった。 200名程度で天祚帝から逃散したとも聞く。 耶律余睹を 西京(大同)の統括に当たらせているのは 遼の残余勢力の一掃であった。 その中心に耶葎大石がいる。 阿骨打は何としても彼を配下の将に加えたいと考えていた。 居庸関で捕虜にした折、礼を尽くした厚遇で接し 機密の情報をも伝えて彼の死地を救った。 


 他方、耶律余睹と耶律大石は遼の血族である。 相互に地下水脈が連結しているように、西夏と結び 遼の再興を図るのではないか?とも感じ 耶律余睹に使者を出してその妻子を人質によこすように厳命していた。 また、燕雲十六州を手中に収めたとは言え 事あらば奪還を目指す宋軍が燕雲地方に駐留する金軍を刺激していた。 早急に打つべき政策、戦略の要を実行出来る将軍や官僚は早急に開闢した帝国には未だ育っていない。 耶律大石の智謀が欲しい・・・・・しかし、女真の故地を離れて十余年、50歳を超えた阿骨打(アグダ)には残された時間は限られていた。 彼は病を隠していたのである。

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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