【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》

古都、薬を売る老翁(壷公)がいた。翁は日暮に壺の中に躍り入る。壺の中は天地、日月があり、宮殿・楼閣は荘厳であった・・・・

小説・耶律大石=第二章_08節=

2015-04-17 18:07:23 | 浪漫紀行・漫遊之譜

 馬に荷降ろしを手伝わぬ将兵たちが 大石たちをいつの間にか取り囲んでいた。 何時しか 満月が頭上に在った。 太陽が沈むまえからその場所にあったのであろうが、日暮れと共に明るさを増し 星の輝きも共演しだした。 寒さが空気を透明にして星と月の輝きで視界は明瞭であった。 その月と星の明るさの下、 見事な駿馬が二頭佇んでいる。 背中の覆いを取り外された馬の姿に取り囲む将兵たちの口元から、ざわめきのため息が漏れる。  「統師殿、 三日遅れましたのは、満足できる馬を求めていたからでございます 」  「そうであろう、 そうであろう。 鞍も見事じゃー 」 

 「はい、 その鞍は 鳥海の商人が ぜひ、チムギ殿と楚詞皇子にと準備したものでございます。 彼とは長き付き合いがあり、 西夏では有力な商人でございます 」   「そうであったか、わざわざ チムギ殿にとの事であれば ウイグルの民かな・・・」

 「はい、そうです。 なんでも セデキ・ウルフ殿に二三度お会いしていると 言っておりました 」   「そのような御仁なら、今後の兵糧など お世話願えれば ありがたい、お礼の文を出さねば のぉー・・・・・・そうじゃ、遥を兄の時の下に連絡にやらねばならぬ・・・・急ぎではないが、礼状を携えて二三日中に向かわせよう。 ・・・・・チムギ殿 良き馬じゃー 着替えて一回りして来ぬか、 この月明かり 別状あるまい。 遥、汝 伴をするがいい 」 

月明かりが雪面を細微な青白い色に染めている。 その上を 四頭の馬が駆けていた。 先を競う二頭。 一頭は月毛、ただ 一直線に地を蹴って行く。 それを連銭葦毛が見守る様に、余裕をもって追う。 二頭の後を栗毛が追尾して走る。 その後を一頭が少し離れて、一頭が追っている。 最尾を駆けているのは小柄な女性のようだった。

 何亨理が鳥海から北庭都護府・可敦城に戻った二週間後に、120余頭のラクダを曳く隊商が雪を突いて、訪れてきた。 大石が認めた礼状を懐にした耶律遥が可敦城を離れて十日目である。 大石は北側中央の小部屋、今は彼の執務室に充てている暖炉のある部屋で隊商が近づいてくるとの物見の報告を受けていた。 この厳冬期に蒙古高原に立ち入る隊商が何者であるかは、大石には判っていた。  隊商一行は80余頭を近くの窪みに留め、残るラクダを曳き城内に入ってき来た。 何亨理は城門の傍にて隊長を迎え、にこやかに礼を交わし、手を取る様に耶律大石の下に案内した。 

「統師殿、 こちらが鳥海の商人、忠弁亮殿 約束の物を持ち至りました 」   「おぉ、 それは それは。 先般、 何亨理が痛くお世話になった。 また、見事な駿馬を よく探して下された上に、望外な鞍までチムギ殿と楚詞まで頂いた。 重ね重ね お礼を申し上げよう」 


 「いや、お礼などと・・・・、 お礼のお言葉は、耶律遥さまが届けて下された御文にて十分でございます。 本日は 御文にてご注文を賜りました兵馬の餌、ラクダにて持参いたしました。 この時期でございます、兵馬などの餌は至る所に備蓄が御座います。 町値よりもの高値でお引き取り願えます事、こちらから お礼申し上げねばなりません 」

 「約束を違えず、しかも このように早く運び来られた、 ありがたい。 見ての通りの砦、鳥海は近い 今後の兵糧など お世話願えまいか・・・・」 
 「それは 当方にとって、誠にありがたきこと いつなりとも ご命じ下されば万難を排して最善を尽くしましょう。 ・・・・・統師殿、 一つお願いがございます・・・・・本日 他に80余頭のラクダを近くの窪みにて留めていることは ご存知でしょう。 明日 北のメルキトの地にこの場にて荷を下ろした駱駝ともどもで120余頭のラクダ隊商を曳く旅に出る予定でございます・・・・」   「このように 寒き中を・・・・・」 

 「いや、我等にとって、 雪は何れであれ、飲み水に成り、また 遊牧の民は冬営地に集結しており、 なにかと都合がよろしいのです。 お願いと申しますのは、 タタルが金の権勢に尾を振り、なにかと我々に嫌がらせを働きます。 通行税を出せとか・・・・ 拒みますれば、後日 隊商を襲い 略奪を働きます・・・・・」

 

 「では、 隊の護衛が必要とのことかな・・・・」   「はい、さようでございます。 いかがでしょうか、 勿論 その費用は私の方で・・・・」  「旅は幾日の要する 」 
 「メルキトへの往復には 約ひと月と考えておりますが・・・・」  「なれば、草原が芽吹く前には 帰ってこられる のぉ  して、 いか程の兵が必要かな・・・・」 


 「二十名もお貸し願えれば・・・・・」 
 「たやすいこと、若き兵ゆえ、 北の地を見るのもよいことだと思う。 多くは帝都にて生まれ、キタイの故地を知らぬ契丹人じゃ、 草原の民の生活を学ぶには絶好の機会。 当方からお願いしたい事ではないか・・・・・・ 忠弁亮殿、 改まって 一つ私の願いも聞いていただけまいか・・・・」

 「はい、 いかような・・・・・」 

 「タタルの件もあり、楚詞と言う我が弟を東方に向かわせ、タタルの動きを調べさせたい。 楚詞のことは、ごぞんじであろうか 」  「先般、何亨理さまより 詳しく覗っておりますが、私くしも西夏の商人、遼の耶律敖盧斡さまの善政とご無念の経緯は熟知しておりました。 その耶律敖盧斡秦王さまの皇子で在られると聞かされ、 お会いできる喜びで参りましたが・・・・ 」 

 「では、この砦に 燕京の石抹言殿が娘チムギ殿が寄宿している事も聞いておられることであろう。 この砦は将兵のみにて、楚詞が離れるとあらば女人ひとりでは寂しかろう。 まして 危険な旅に向かわせるわけも行かず・・・・・・西夏に向かわせたいのだが、興慶は行かぬと言うであろうと思案して居った。 興慶には縁者のセデキ・ウルフ殿がおられるが、楚詞を追って無理にウルフ殿の下僕を付けてもらい、この地にまで付いて来て滞在しているのだが・・・・・ そこで ひとつ、鳥海にて春までお世話願えまいか・・・・・ 」

 「それは こちらから願っても叶わぬ喜び、光栄でございます。 チムギ殿のご尊父・石抹胡呂さまは私どもウイグルの父 その姫様をお預かり叶えれば 家の誉れ、家内はビックリ仰天いたしましょうが身を以て献身いたしましょう。 また、セデキ・ウルフさまは西夏のウイグルが要。 何亨理様と私くしの親しき仲もセデキ・ウルフさまとの縁、それとなくお耳に入れておきましょう 」 
 「 忠弁亮殿、それは ちと・・・・チムギも望むまい。 商家の娘として接していただきたい。 なれば、チムギも納得するであろう。 ここを離れる時 その旨を認めた文を持たせて、 忠弁亮殿不在の館に向かわせたいが・・・・・」

 「誠に光栄なお話、 家内宛への文は今夜にも 明日の朝、出立する前には必ず何亨理様に託しておきましょう。 いやいや、愚妻の驚く顔が目に浮かびます・・・・・統師殿、ご挨拶が長くなりました。 明日の準備もございますれば、 失礼させていただきます。 護衛の方々には 明日の早朝に ご挨拶させていただきます 」

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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