フィリピンの思い出1-2  スローモーション②

2009-10-29 19:30:42 | フィリピン

  見ると、三車線に並んで発車を待っている車の間を、いつもの物売りの男達やタバコ売りの少年らに交じって、片手に空き缶を持った物乞いらしき姿があるのが薄暗がりの中でなんとか分かった。五、六組はいるだろうか。
 「サー、あれはこの近くの目の不自由な者たちが共同生活している 国の施設から出て来ている者達なんですよ。付き添っているのはその家族です。クリスマス前のこの時期だけ、公に物乞いが許されているんですよ。」
と、ピーショーさんは吐き捨てるような口調で言った。
 クリスマスシーズンに限らず、物乞いが車に寄って来るのには既に慣れてしまっていた。外からコンコンとノックするのが合図だが、それに対してコンコンと合図を返すと、それは小銭を与える気はないという意味になり、物乞いも速やかに離れていくのだ。初めの頃はどうしようか迷うこともあった。しかしそんな時、ピーショーさんが、物乞いはあれで私達庶民よりけっこう儲けており、彼が仕事を終えて帰る途中、雑貨屋でたくさんのコインを紙幣に両替してもらっている物乞いの姿を見てショックを受けたことがあったこと、だから、私ひとりが与えようが与えまいが何ら関係ないこと、与えるのは普段あくどく儲けている金持ち連中がすれば
いいんだというようなことを言ったことがあった。私はその言葉を助け舟のように受け取り、それ以後、コンコンと来ればすかさずコンコンと返すようになり、いつしかそれが条件反射で出来るようにもなっていたのだった。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« LRTって知ってますか。 ... | トップ | LRTって知ってますか。 その2 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

フィリピン」カテゴリの最新記事