国鉄があった時代blog版 鉄道ジャーナリスト加藤好啓

 国鉄当時を知る方に是非思い出話など教えていただければと思っています。
 国会審議議事録を掲載中です。

民間からの提言、「国鉄は日本輸送公社に脱皮せよ」(S43.7.17)

2018-07-16 23:52:50 | 国鉄思いで夜話
本日は、昭和43年に、産業計画会議が提言した 「国鉄は日本輸送公社に脱皮せよ」 を取り上げてみたいと思います。
産業計画会議と言われてもピンと来ない方も多いと思いますが、戦後の9電力会社への事業再編による分割民営化(九電力体制)を実現するなど、電力王と呼ばれた、松永安左エ門氏が設立した、民間初のシンクタンク・電力中央研究所の中に作った、私的なシンクタンクでした、その内容は多岐にわたり。
第1次勧告「日本経済立て直しのための勧告」(s31.9.14)から始まり、第16次勧告「国鉄は日本輸送公社に脱皮せよ」(s43.7.17) で終わっています。
松永安左エ門氏が引退後は、シンクタンクを引き継ぐものはなく、解散となっていますが。
国鉄に関する勧告は、昭和34年にも一度行われていますので、この提言は2回目となります。
特にここでは、現状の赤字を垂れ流す状況の原因は、貨物輸送【特に短距離輸送】とローカル線輸送にその原因があるので、この二つは国鉄から分離して、トラックなり、バスに任せるべきであると明言しています。
特に、この頃は赤字83線として国鉄部内でも若手課員を中心とした研究チームが立ち上げられ、輸送量の極端に少ない路線を中心に廃止のための手続きなどが進められていくのでした。
ただ、このときに注意しなくてはいけないのは、こうした提言は最もなのですが、廃止を進めようとする反面で、赤字必至のローカル線が鉄建公団の手で勝手に進められてしまうという矛盾が生じていました。
鉄建公団が、何故(なにゆえ)作られたのかという点を最初にお伝えしておく必要があるかと思います。国有鉄道路線は、明治期に公布された鉄道敷設法が根拠法であり、鉄道建設審議会【国鉄本社内に設置】が決定していったのですが、国鉄の財政事情もありその建設を十河総裁は渋っておりました。
新線建設が進まないことに業を煮やした田中角栄が、大蔵大臣就任後、鉄道建設公団を国鉄が出資する形で設立させたのが始まりです。
それ以降は国鉄の意向に関係なく、予算付けが行われ、鉄道建設が行われることになったのは、皆さんもよく御存じだと思います。
国鉄としても、廃止しながら新しい路線が開通するという矛盾もありました。
時の総裁は磯崎氏でしたが、マル生運動での対応も含めて、頭は切れるのでしょうが胆力がない人だったんだろうなぁという印象を受けます。
逆に、その辺で腹が据わっていたのは、十河氏で、昭和30年代の労働争議も、田中角栄氏からの新線建設圧力も跳ね返す、そんな強さを持っていたように感じられます。
歴史にIFはないとしても、磯崎氏に腹芸と言いますか、政治家を手玉に取るくらいの胆力があったら、ローカル線の建設をされるがままにされたり、マル生運動を始めておきながら最終的には現場管理者のはしごを外すようなことはなかったと思うのですが。
この辺のお話は、今回のお話とは関係がないので話を戻したいと思います。

画像は、本文とは直接関係ありません。

この、提言では。
国鉄がその力を発揮できるところに注力するべきであると明言しており、モータリゼーションの発達などで、ローカル線輸送は鉄道で輸送するよりもバスの方がコストが下がるであろうとしています。
さらに、近距離の貨物輸送も鉄道ではなくトラックに任せる方が良いのではないかと明言しています。
以上のような各種輸送機関の特性から見て、国鉄が担当すべき輸送分野は前記中の
 (1)幹線旅客輸送
 (3)通勤通学輸送
 (4)中・長距離大量の貨物輸送
の三つであることは明らかで、
 (2)ローカル旅客輸送
 (5)近距離貨物輸送
の二つにおいては、バス、トラックに任せる方が適当であると考えられる。そして、国鉄としては、前記した三つの担当分野の中において、私鉄、長距離トラック、航空機等との負荷分担を考慮しつつ、自己に課せられた任務を遂行して行くようにしなければならない。

以下に、当時の資料を添付させていただきます。
さらに、過剰な国鉄負担についても触れられています。
再び引用させていただきます。
(3)国鉄は公共性を重んじなければならないことは、日本国有鉄道法の第一条に規定されているところであるが、この「公共性」の定義かはっきりしていないために、種々雑多にして性格曖昧な「公共負担」を背負い込み、その結果膨大な赤字を生じている。前記1の赤字線区もその一つであるが、その外にも、独立採算制の下において経済理論的根拠不明な各種の割引制度がある、通勤通学定期券、学生割引、貨物等級、暫定割引等がそれである。
 以上のような不合理も、大正時代のように、国鉄だけが唯一の近代的輸送機関であったときには、そのときの情勢から、必ずしも不合理でなかったのかも知れない。しかし、国鉄以外にバス、トラックないしは航空機という強力な競争相手が出現した今日、国鉄のみか|口態依然たる「乗せてやる」「運んでやる」という態度に終始し、公共負担というハンディキャップを負っているのでは、赤字になるのも当然といわねばならぬ。しかも、国鉄の当事者の大部分が、その旧態たる所以を覚らず、相も変らぬ鉄道万能時代のつもりで、サービスを忘れ、ハンディキャップをハンディキャップと考えないのでは、何ともすくいようはないのである。

以上のように、国鉄は時代が変わったのであるから、国鉄の力を有効に発揮できない部分には手を出すべきでは無いと明言すると共に、国鉄自身も何時までも、「乗せてやる」「運んでやる」という態度ではダメだと明言しています。
そして、政府に対しては、下記のように勧告しています。
再び引用させていただきます。

政府に対する勧告

 政府は、国としての最適輸送体系の下に、各種輸送機関の担当すべき役割を明らかにし、それら各機関の自由公正なる競争によって、国民生活ならびに経済活動に一層の便益を提供せしむるように努力すること。
 この目的を達成するため、国鉄に対して次の具体的措置をなすこと。
(1)鉄道敷設法ならびに日本鉄道建設公団法を廃止すること。
 (2)国鉄を改組して「日本輸送公社」とし、現在の国鉄の組織と技術力を十分に発揮せしめると共に、幹線鉄道に並行し、また幹線鉄道を短絡する線区に限り鉄道以外の他の輸送手段との綜合運営を可能ならしめること。
 (3)前記「日本輸送公社」に対する監督は、大綱を指示するにとどめ、経営については十分な自主性を認めること。
 (4)いわゆる公共負担の内容を検討し、筋の通らぬものはこれを廃止すること。なお、どうしても残す必要のあるものは、これを国家財政で負担し、「日本輪送公社」には負担せしめないこと。

と書かれていますが、残念ながら未だに総合交通体系と呼べるものが誕生していないのはどうしたわけでしょうか。
さらに、国鉄に対しても下記のような勧告を行っています。
再び引用したいと思います。
国鉄に対する勧告

 国鉄は、前記の「日本輸送公社」として再出発するに当り、国の輸送体系の中にあって、自己の担当すべき輸送目標を
a.幹線旅客輸送
b.通勤通学輸送
c.中・長距離貨物輸送
の三つに集中し、ただ鉄道のみにとらわれることなく。バス、トラック、エアーパス、カーフエりー、パイプライン等のすべてを綜合的に自営または共同運営して、独立採算創の上に立って徹底的な輸送の合理化とサービスの改善を行なうこと。具体的措置としては、
Ⅰ 幹線輸送を積極的に押し進め、そのサービスを改善する見地から、

 (1)幹線は少なくとも複線化し、輸送能力を拡充すること。
 (2)幹線輸送に必要な中距離都市間の航空機、貨車・コンテナーのための力一フエりー、石油・ガスのパイプライン等の自営または共同運営をすること。
 (3)ローカルの不採算線を勇断をもって廃止し、バス、トラックに譲ること。(廃止目標は50%、10、000km)
 (4)中間の小駅を廃止し、重要駅の施設を充実すること。(幹線存続駅全国で200駅内外)
 (5)公社の所有する広大な土地、建物、その他の設備を。流通機構全般の能率化の立場から、常に最高度に利用し、更に経営の合理化をはかるため線路敷、駅施設等の地上、地下を道路、パイプライン、送電線等の敷地、パス、トラックターミナル、ヘリポート、パーキング場等に利用すること。

Ⅱ 通勤通学輪送、とくに大都市周辺のそれに対しては、
 (1)幹線輸送と通勤通学輸送を区別し、相互に独立して運営すること。
 (2)民営の通勤通学輸送機関との連繋運営を強化すること。
Ⅲ 経営全般に対しては、
 以上の改革を行なうには、かなりの配置転換と人員整理を行なわねばならない。もし全職員の協力か得られなければ、このことは殆んど不可能である。この打開のため国鉄首脳部はまず管理部門の大巾な縮小を行ない、民間企業並みの経営努力につとめるべきである

このように見ていくと、実現は簡単にはいかないまでも傾聴すべき部分は幾つかあるような気がします。
特に、 (1)鉄道敷設法ならびに日本鉄道建設公団法を廃止すること。であったり、
「日本輸送公社」に対する監督は、大綱を指示するにとどめ、経営については十分な自主性を認めること。

としています。

参考 産業計画会議レコメンデーション(勧告)一覧

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