ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

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Dwight Yoakam(ドワイト・ヨーカム) 「Dwight Sings Buck」

2008-03-02 | カントリー(男性)
 常にファンの期待を裏切ることなく、質の高いロッキン・カントリー・ミュージックを提供し続けてきたベテランDwight Yoakamが、自身のルーツであるバック・オウェンズ(Buck Owens)のカバー集をリリースしています。1986年のデビュー以来、ナッシュビル流のクロスオーバーだのポップだのの売れ筋志向には目もくれず、BuckやMerle Haggardらが興したカリフォルニアのソリッドなベイカーズフィールド・サウンドをベースにプリミティブなロカビリー感覚をブレンドしたニュー・カントリーで時代を席巻し続けたDwight。そのクールないでたちや振る舞いは、他のカントリー・スター達とは完全に一線をかすトラディショナルなスタイリストです。今世紀に入ってからは盟友のギタリストPete Andersonとも分かれマイナー・レーベル所属になっていますが、音楽自体のスタイルやスピリットは揺らぐ事はありません。前作「Blame In the Vain」もすこぶる出色の出来でした。


 残念ながら昨年亡くなったBuckを追悼する意味では絶好のタイミングのリリースで、カントリー・チャートでも初登場で11位にチャートイン。しかし、お約束のイベント物には終らない、先達へのDwightの尽きる事のない愛情とそれを完全に自らのスタイルに吸収してしまっているオリジナリティを再確認させてくれます。表層はBuckの確立したエレクトリック・カントリーをストレートにカバーしているようでも、そのリズム・セクションにはロック世代ならではのヘヴィネスが付加されており、全くのコピーなどには終りません。良き時代のシンプルでキャッチーな名曲のメロディがロッキッシュな現代のリズムに上手く乗っていて、唯一無二の世界が。しかも、いくつかの曲では、大胆なリズム・アレンジや解釈がなされており、聴き物になっています。キーボードによりゴスペルっぽくスタートする荘厳なイメージの"Only You"。そして原曲を思いっきり解体し、ミディアムテンポに再構築した"Close Up the Honky Tonks"は良い意味でのコンテンポラリー・カントリーに変身しててカッコよく、ハイライトと思います。この曲、今シングルになっていますね。これに続く"Under Your Spell Again" では得意の8ビートで熱く突進。ただし大胆なアレンジをしてはいても、クリアーなギターサウンド(伝説的なギタリストDon Richのそれ)はしっかりと守られている事は特筆すべきでしょう。それだけでなく、ペダルスティールも躍動感一杯で完全にリードになっている曲もあります。いやいや、能書きなどほとんど意味のない、これぞ最高の本物感を放出する現代ホンキー・トンク・ミュージック。そうして、結局いつも唸ってしまうのです。さすがDwight!

Dwight and Buck

 Dwightが他の同世代のカントリー・スターとは一味違っていたのは、一つには彼がブルーグラスを経験しておらず、純粋にカントリー・ミュージック(そしてロック、ソウルも)から自身のスタイルを確立しているからではないかと思います。そういう意味では、戦後ゴールデン・エイジのクラシック・カントリー・スター達に近く、だから彼の歌声には粘りと、ほのかにブルージーな風合いが感じられるのでしょう。ギタリストのPete Andersonに、かつてのメンフィス・ソウルの雄であるスタックス・レーベルのハウス・バンド、Booker T & The MG's のスティーブ・クロッパー(Steve Cropper)の影響を見る評価も見受けれます。また、Garth BrooksやAlan JacksonにはどうもなじめないんだけれどもDwightは素晴らしく、しっくり来る、というベテラン・カントリー・ファンの方もおられましたね。

 1956年ケンタッキー州Pikeville生まれで、育ちはオハイオ州。 子供の頃は、母のコレクションであるHank WilliamsやJohnny Cash、そしてBuck Owensらのトラディショナル・カントリー(いや彼にとってはリアルタイム)と共に、BeatlesやByrdsなどのロックにも当然のように影響されました。高校生の頃はこれらの影響を元にカントリーからロックまで貪欲にプレイ。そして、Ohio State Universityをドロップ・アウトしてナッシュビルに出たのが1970年代後半。しかしこの時代、Urban Cowboy現象でポップに偏っていたカントリー界がDwightに興味を持つ事はありませんでした。そこで、ナッシュビルで知り合ったPete Andersonとロサンジェルスへ移動。面白い事に、彼らのルーツ志向のカントリー・サウンドが、ロスのパンク・ロック・シーンにはとても新鮮で過激なものに写り、その手のバンドが出演するナイトクラブで大ウケを取ったのです。1984年に自主制作したEPをキッカケに、Reprise Recordsとの契約を獲得。1986年にファースト・アルバム「Guitars, Cadillacs, Etc., Etc」をリリース、Johnny Hortonのカバー"Honky Tonk Man"がカントリー・チャートの3位を獲得して、この後のストレート・カントリーブームの火付け役となったのです。

 

 Dwightは2007年のCMA Awardsにあわせて開催されたイベントで、CMAからInternational Artist Achievement Awardを授与されました。長年の世界レベルでの演奏活動が評価されての受賞です。1992年にはカントリー・ゴールドにも出演していますね。ナッシュビルの業界的なものには決して媚びてこなかった彼ですが、その偉大さはCMAも何らかの形で認めざるを得なかったというところでしょう。

 ●DwightのMySpaceサイトはコチラ

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7 コメント

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何時もながら情報有難う御座います (kiyuzuka)
2008-03-04 20:14:21
今Dwight YoakamのPopulation Meを聞きながら書いています。懐かしい感じのカントリーですね、Alan Jacksonは私の感想ではジャズに近いものがありますがどちらも好きですね、男性歌手はあまり聞いたことがないので記事を参考にこれからも聞いていこうと思います、これからもよろしく。
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ドワイト、素晴らしいですね (yy harley)
2008-03-05 17:14:23
ドワイトのこのCD、バック・オーエンと交互に聞いていますよ。
バック追悼の意味でも素晴らしいできですね。

ドワイトは歌ばかりでなく、映画にも出演しており、悪役で素の顔をさらけ出しております。(薄くなった頭もね)

そんな彼もギターを持ち、細身のジーンズをはき、HATを被ればカントリースーパースターそのものです。

ドワイトの才能の深さにビックリします。
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Dwight (bigbird307)
2008-03-05 22:42:10
kiyuzukaさん、yy harleyさん
コメント頂き有難うございます。

Dwightは我が国では根強い人気がありますね。全曲弾き語りでCDケースにタイトルのステッカー貼っただけ、なんてニクイ作品もありました。他の人ではありえないクールさです。まだまだ活躍して欲しい。頭の事は敢えて触れなかったのですが・・・

またよろしくお願いいたします。
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個性が光る (t@ke)
2008-03-08 14:05:44
ただのコピーに有らずDwightの個性が光る一枚です。
改めてBuck OwensとHarlen Howardの偉大さをも再認識しました。
しいて注文をつけるとHarmony vocalが
Dwightの個性について行けてない気がします。
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Re:個性が光る (bigbird307)
2008-03-09 10:03:36
t@keさん、有難うございます。

さすがしっかりチェックされていますね。確かにDwightの作品はかっこいいコーラスがポイントのものが多いですね。"Love Caught Up To Me"とか"Gone"などなど。"Gone"ではCarl Jacksonがハモってました。

またよろしくお願いいたします。
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フリークいますね。 (Rice)
2008-03-26 00:25:56
 私の廻りにもDwight Freak が何人かいます。
このCDは待ちに待った作品でした、期待に応えていると思います。 辛口の人は曲数が少ないと言ってますが、、、
 去年Hawaiiのライブの時小さい頃おじいちゃんから聞いたBluegrassの曲ですと言ってやりましたよ。
 もちろん全然Bluegrassっぽくはありませんでしたけど。
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Dwight (bigbird307)
2008-03-26 23:27:04
Riceさん、有難うございます。

ブルーグラスの経験が無い、とは少し言葉が違いましたね。少年期、本格的なブルーグラス・バンドで一定期間活動してない、と言うべきだったでしょう。以前のラルフ・スタンレーとの共演ライブも見た事があります。

実は私も生ドワイトを体験しています。カントリー・ゴールドでなく、ボストンで見ました。独身の頃、会社の夏休み期間中に観光も出来そうなボストンでコンサートがある事を知り、チケットマスターでチケットを取ったのです。前座が当時ヒットを飛ばしていたディーナ・カーター。例のアコースティック・アルバムが出た頃で、このコンサートでは、アンコールで弾き語り曲を相当数やってくれました。隣には5人家族がいて皆大盛り上がりで見ていたのが印象的でした。

またよろしくお願いいたします。
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