Act Naturally ～ ビートルズ(The Beatles)とカントリー・ミュージック

　　時代は古くなりますが、史上最も有名なロックバンドのカントリーに関する話題を。

　ロック・アーティストによるカントリー・ソングのカバーはあまりないのですが、御大ビートルズは１曲"Act Naturally"(Morrison/Russell)をやっています。バック・オウェンズ(Buck Owens)の1963年のヒット曲。バックバンドBuckaroosの爽快でエレクトリックなロック風味のベイカーズフィールド・サウンドにより一時代を築いた人。ここでビートルズは、同時代のアメリカの最新サウンドをイッチョやってみよう、という感じでロック・バンドらしくリズムを強調つつのストレートなカバー。ボーカルのリンゴ・スターのカントリー好きを反映して、とよく言われるのですが、誰の発案でどのような経緯でこの曲が選ばれたのかは聞いた事がありません。彼ららしく、本当に軽く勢いで選んだのかもしれませんね。

　　バック・オウェンズ(右)とギタリスト、ドン・リッチ

　当時のイギリスのビート・グループは、ブルースやR&Bを起点にしている連中がほとんどでそれがブリティッシュ・ロックの特徴なのですが、そういう意味ではビートルズは、確かにR&Bの影響はもちろん強いものの、少し異色な存在でした。先のリンゴだけでなく、リード・ギタリストのジョージ・ハリソンも、カントリー・ギタリスト、チェット・アトキンスを信奉し、初期のライブではチェットにならってグレッチ社のギターをよく弾いていました。ポール・マッカートニーの名曲"All My Loving"でのギター・ソロは、チェットの影響大の名演として有名。しかし、それにも関わらずです。そのビートルズのルーツとしてカントリー・ミュージックがもっと語られれば、ルーツ・ミュージックとしてのカントリーが少しはクローズ・アップされるのにと、はがゆさを感じています。やはり、カバー曲の数が少ないからでしょう。

　ビートルズのメンバーは、少年期の頃のカントリーとの接点について、少ないですがコメントを残しています。まず、ジョン・レノン。カントリーも聴いていたと明言していて、ギターを弾けない頃からハンク・ウィリアムス(Hank Williams)の物まねを始めて、ハンクの"Honky Tonk Blues"を演奏してたそうです。ジョンによると、プレスリーはカントリー・ロックだけど、カール・パーキンスは正真正銘のカントリーだと。次に、ジョージ・ハリソン。お父さんが船乗りでアメリカでジミー・ロジャース(Jimmie Rodgers) のレコードを買ってきて、ジョージはそれで初めてカントリーを体験。ジミーの"Waiting for a train"を聴いて、ギターを始めています。リンゴはとにかくカントリー好きだったようで、少年の頃のパーティでハンク・ウィリアムスやハンク・スノウ(Hank Snow)の曲がかかっていた事を覚えています。ポールのコメントは見た事がありませんが、彼もカントリー・ファンだと言われています。こうして見ると、彼らの音楽に携わるきっかけにカントリーがあった事が興味深く、また具体的に歌手や曲名を挙げるところにカントリーへの愛情を感じます

　　　ハンク・ウィリアムス

　ジョンは、"I feel fine"の発表当時に、この曲がカントリー風であり、自分達らしい曲調だ、ともコメントしています。この時期のアルバム「Beatles for sale」はアメリカ南部の香りがするとてもアーシーな作品で、私はその中の"I'm a loser"での、ボーカルが低く下がるところはジョニー・キャッシュのパロディで、そして次の"Baby's in black"のタイトルはそのキャッシュのニックネームMan In Blackから拝借したに違いないと信じています。それを裏付けるコメントは聞いた事はないんですが。。。

　さて一方、近年のカントリー・アーティストによるビートルズ・カバーとしては、なんといっても１９９５年の企画アルバム「Come together-America salutes the Beatles」がありますね。ウィリー・ネルソンの"One after 909"が渋くてカッコイイですが、Suzy Boggusと、先にも触れたジョージのレジェンド、チェット・アトキンスによる"All My loving"のアコースティック・サウンドが素晴らしいです。個々アーティストで浮かぶのは、やはりアリソン・クラウス。ポールの"I will"を歌っていて、彼女のブレイク作「Now that I've found you」に入っています。また、先にあげた"I feel fine"も、８０年代にSweethearts of the Rodeoという女性２人組デュオがカバーしています。他にも探せばあるかもしれません。