ダイアリー・オブ・カントリーミュージック・ライフ

現代カントリー・ミュージックのアルバム・レビューや、カントリー歌手の参考になりそうな情報を紹介しています

パティ・ラブレス Patty Loveless - Mountain Soul II

2009-10-24 | カントリー(女性)

 2001年にアメリカ本国の評論家に絶賛されたパティ・ラブレス「Mountain Soul」。彼女のパフォーマンスが、フル・アコースティックのマウンテン・ミュージック~ブルーグラス・スタイルで堪能できるのですから、それも当然でしょう。しかしそれだけでなく、チャート・アクションや売り上げなんぞ全く眼中にないプロダクションにもかかわらず、30万枚のセールスも達成したのが「Mountain Soul」の凄さでした。当然、続編への期待は膨らむわけで、この2009年にようやく「Mountain Soul Ⅱ」が実現したのです。2000年代に入ってその”熟練されすぎた”歌声(どこが悪いん?)のために、ヒットチャートやラジオからは少しづつ縁遠い存在とはなっていったパティ。しかしそれが逆に功を奏して、自身の理想とする、カントリー・ミュージックとしての基本をシッカリと意識した音楽を制作するようになり、軸がぶれない、すこぶる質の高いアルバムをリリースし続けています。そのスタート地点となったのが、「Mountain Soul」だったのです。



Mountain Soul


 「Mountain Soul」は、アパラチアの活気ある炭鉱の町~~工業化が進んだ時代、その燃料をまかなうべく炭鉱がさかんになり、そこに集まった多くに人々によってカントリー・ミュージックの基礎が形作られた~~をノスタルジックにイメージしたジャケットからも感じられる、なかなかハツラツとした雰囲気でまとめられていました。対して、「Mountain Soul Ⅱ」は、続編ですがちょっぴり肌触りが変わっていて、いずれの曲も実にブルーな響きを持ってるのがポイントですね。選曲の方も、パティ自身の作品をアレンジし直して再録したもの(4曲)や、伝承曲のアカペラ、そして教会さながらのサーモン調など、前回に対して上手く変化を付けています。カントリー寄りになってますね。新曲もあり、新たな挑戦も感じられるところが素晴らしい。




 かつての作品の再演としてフィーチャーされているのが、"A Handful of Dust"(「When Fallen Angels Fly」、CMAアワードでアルバム賞受賞)、"Half Over You"(デビュー作「Patty Loveless」)、"Blue Memories""Feeling of Love"(「On Down the Line」)。ホントは、こういう風にやりたかったのヨ!ってな思い入れで選曲したのでしょう。「On Down the Line」からの2曲には、シンガーとしての成熟や、現在の彼女が持つjアーティストとしての強い意志を感じました。コンテンポラリーなアップテンポ曲だった"A Handful of Dust"では、ドラムなしのアコースティック・アンサンブルで見事に躍動感が出せる事をアピール。パティの歌声のキレが全盛期と変わらない事にも感激します。お気に入り曲だったので、この別バージョンは嬉しいですね。しかし、それにも増して素晴らしいのが、スローの"Half Over You"。旦那であるEmory Gordy, Jr.による、哀感あふれるアコースティック・ギターの深い響きが曲のトーンを支配し、心の痛みやそれによって得られる真実を聴き手に訴えるパティの歌声とブレンドします。カントリーでしか味わえない、深みと和みの時間がそこにあるのです。なお、"Big Chance"は、アルバム「Dreamin' My Dreams」のモノをそのまま収録しているようです。

            



Half Over You


 アルバムの中盤にゴスペルタッチのアカペラ曲をラインアップして、チョッとクリエイティブな演出をしています。伝承歌の"Friends In Gloryland"では、アカペラでヴィンス・ギルレベッカ・リン・ハワードの2人とエモーショナルに掛け合い。気心の知れた3人の歌声はスピリチュアルでライブ感に溢れてます。そして"(We Are All)Children of Abraham"へと自然につながって行くのです。パティとThe Burnt Hickory Primitive Baptist Congregationとの、コール・アンド・レスポンスが繰り替えされるこのゴスペル曲、一見伝承歌のようですが、パティと旦那Emoryのオリジナル。そのコール・アンド・レスポンスの雰囲気は、我々が思い浮かべるブラック・ゴスペルのそれとはチョッと違う、より古い形式やハーモニーを取り入れているようです。あくまでカントリー・ミュージックのルーツに拘ってアレンジです。



 カントリーの伝説的ソングライターHarlan Howardの1965年の名曲を取り上げた"Busted"で聴かれるブルーグラス・スタイルより、ミニマムで味わいのあるアコースティック・アンサンブルが好ましいスロー・ナンバーの比率が高い事が、この「Mountain Soul II」の聴き所と言えると思います。先に触れた"Half Over You"の他にも、Emoryがかつてジョージ・ジョーンズの為に書いた"When The Last Curtain Falls"や、この人も盟友であるJon Randallのペンによる新曲"You Burned The Bridge"が聴きモノ。前者は、イントロで圧倒する泣きのフィドルに導かれたカントリー・バラードの王道、パティのこれまでの名演に名を連ねる資格は十分。後者は一転、柔らかな肌触りの生音とモダンな曲想が素晴らしく、パティも流れるようにスムーズに歌っています。一見レトロ志向と思われがちなこのアルバムにあって、パティの目指すこれからのカントリー・バラードを1曲入れてみましたってとこかな。この曲はイイ!また、70年代のシンガーソングライター、Barbara Keithのフォーク・バラード"Bramble And Rose"をピック・アップしてるところにも、新たなカントリーの姿を模索する意志を感じます。

          



Bramble And Rose


 そしてラストに控えるのはとっておきの逸品。エミルー・ハリスとPaul Kennerleyによる"Diamond In My Crown"は、エミルーがハーモニーでデュエットしている事ももちろんですが、ポンプ・オルガン(Pump Organ)のみによるビンテージで、曲が進むにつれて荘厳になっていく響きが聴きモノです。この志の高い、アーティスティックなカントリー・アルバムを、見事に神々しく締めくくってくれます。

         


Diamond In My Crown


 彼女の音楽にかける純粋で気高い思いは、今回埋め込んだPV(口パクの簡易なイメージ・ビデオ)で見られる、ほとんど化粧気のない地味な姿から感じ取れます。パティの近年の活動は、ほぼ同年代で、実力派女性シンガーとしてライバルとも言えたリーバ・マッキンタイアのそれとは好対照でした。エンターテイナーとしてその活動テリトリーを拡げて行ったリーバ。対してパティは、カントリー・ミュージックの本質を深く掘り下げていく形で今日まで意欲的な創作活動をしてきたと言えるでしょう。ポップ・ソングや華やかなメインストリーム・カントリーを楽しまれている方々には、決してお勧めとはいきませんが、こんな音楽・アーティストが存在する事は知っておいていただきたいです。




※オマケに、最近お気に入りの映像を埋め込みます。10年前くらいか。
            





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