時間の外  ~since 2006~

気ままな雑記帳です。話題はあれこれ&あっちこっち、空を飛びます。別ブログ「時代屋小歌(音楽編)(旅編)」も、よろしく。

マーチンD76 というギター

2016年05月21日 | 音楽活動

マーチンの限定生産ギター、D-76。


このモデルはアメリカ建国200周年を記念して、1975年に200本、そしてその売れ行きに応じて、1976年に1776本追加製作された。
都合、1975~1976年の間に1976本作られた。その本数は、1976年にちなんだ数であったろう。
特に最初の200本は、かなりの売り上げだったようで、後に追加製作されたのは、市場に応じたからだろう。

 

材質は、マーチンの最高峰であるD-45と同じグレードの材を使い、バックはD-35と同様の3ピースバックになっており、ヘッドにはイーグルのインレイが施され、指板には星型のインレイが施されている。
また、サウンドホールの周りにはヘリンボーンが。
かなりのこだわりを持って制作されたモデルだったと言える。

 

マーチンは当時、あまり奇抜な飾りはせず、一見おとなしめの飾りがスタンダードだった。
奇抜だったり派手な飾りはなくても、細かいところに細かいこだわりがあったりした。
少なくても、遠目でみてもわかるような飾りはあまりなく、その点地味に見えても、近付いてよく見ると、細かいところに手が込んでいる・・そんな仕様だった。例えばヘリンボーンなど。

マーチンに比べたら、ギブソンなどは遠目でも分かる派手なデザインが特徴的だった。例えばJ-200のブリッジや、ダブのピックガードなど。
そんな作風の中、D-76は星型のインレイなどはマーチンにしてはやや派手目だったので、それだけ76は特別な感じがした。

 

また、今でこそマーチンは限定モデルを多数出しているが、このギターが登場した頃は、マーチンの限定生産モデルは珍しかった。。
なので、ギター雑誌には、このD-76は今後毎年価値があがっていくのではないか・・・と書かれていた。
それを読んで、私はいずれD-76もビンテージマーチンのようなプレミア値段に上がっていくのではないか・・と思ったりした。

当時・・新品として楽器屋に並んだD-76は、D-45に近い値段であった。
細かい数字は忘れたが、当時の値段で新品のD-45は75万円前後で、D-76は数万D-45より安いぐらいの値段で、70万円ちょいの値段がついていた。
少なくても値段的にはD-45と同等クラスの値段であった。
なので、ギターの格としてもD-45と同等に思えた。

 

このギターは私にとって長年特別なギターであり続けた。


もしかしてマーチンのビンテージギターと同じような価値がついていくギターなら、手に入るうちに入手したいと何度も思った。
限定生産だっただけに、今市場に並んでいるものを入手できないと、もう入手できる機会はないか、あるいはプレミア値段のついた値段で将来たまにお店に見かける程度になってしまうだろう・・と思った。そうなるともうお手上げになると思った。

だが、貧乏学生にはとてもじゃないが手に入る値段ではなかった。
なので、楽器屋のショーウィンドウ内部に大事そうに展示されている姿を、ただただ指をくわえて見ているしかなかった。

 

当時、マーチンのギターは、そんじょそこらの楽器屋ではお目にかかれなかった。
高額なギターだったから。


お茶の水の専門店街に行けば置いてあるのは知っていたが、渋谷の道玄坂にあったヤマハショップでも置いてあった。
渋谷の方が私にとっては行きやすかったので、ショーウィンドウの内部に大事そうに展示してあるマーチンのD-76の姿を見るためだけに、わざわざ渋谷で電車を降りてヤマハショップに定期的に行っていた。

ヤマハショップのショーウィンドウ内部には、D-76だけでなく、76の隣に45も展示されていた。
つまり、D-45とD-76が並んで展示されていたのだ。
これはもう・・・私にとっては最強のラインナップであった。

 

高額なので、おいそれとは買える代物ではないので、ショーウィンドウの内部にずいぶん長く45と76がアベックで展示されていた。
あの店に行けば本物の45と76に会える・・・そう思うと、渋谷駅でわざわざ降りるのはちっとむ苦にならなかった。

それどころか、行く時は毎回ワクワク感があった。45や76、元気かな?まだ店にあるかな?などと思って。
で、店に行ってまだ展示されてるのを見ると、妙な安心感すら覚えた。
よかった、まだあった・・などと思って。

 

考えてみれば、買うわけでもないのに、展示されてるギターを見るためだけに渋谷に行き、電車を降りてヤマハショップまで何度も行っていたわけだから、良く言えば情熱があったともいえるかもしれないが、それ以上に「何か他にやることなかったのか?」という気もする(笑)。

 

当時の私の作詞ノートには、「マーチンD-45&D-76」というタイトルで書いた詩もあったぐらいだった。メロディはつかなかったけど。
その歌詞には、「いつか手に入れたい 僕の夢」・・・そんな一節もあったように思う。

まあ、それほどD-76とD-45は、共に私にとって格別な思い入れがあったギターであった。

 

その後何十年もたって、ヒマを見つけると楽器屋巡りをしていた時期があった。
それは一種の趣味であった。
巷には、中古楽器を扱う店も増えていた。
D-45の新品や中古を見かけることは、ままあった。
だが、D-76は、元々限定生産品だっただけに、見かけることはなかった。

 

普通のD-45は、マーチンにとっては一応絶えずカタログに載っているレギュラーモデル。相当高額ではあっても、お金さえあれば買えるモデル。もっとも、その高額ぶりゆえ、おいそれとは変える代物ではないが(笑)。あくまでも「お金さえあれば」。

だがD-76となると、そうではない。あれはやはり私にとっては縁がなかったんだろう・・と思っていた。


そんなある日。
いつものように楽器屋巡りをしてたら・・お茶の水の某店で・・・なんと!!
D-76が2本置いてあったではないか。
もちろん中古である。新品であるはずがない。

で、その2本のD-76の値段を見てみたら・・・新品当時の半分ぐらいの値段。
びっくり。当時ギター雑誌には「おそらく今後毎年価値が上がっていくのではないか」と書かれていたのを強烈に覚えていたので、何かの間違いの値段に思えた。
(まあ、今にして思えば、D-76の中古は、その値段をちょっと超えたあたりの値段相場で現在は取引されているので、その値段は決して間違いではないとは思う)

 

その日は、はやる心を抑えて手ぶらで帰宅。
だが、家に帰る道すがらはもちろん、家に帰ってからも、D-76のことが頭を離れない。


貧乏学生だった十代の頃、店に展示されてた76を見るためだけに楽器屋通いをしていた自分の姿が・・日々が・・・走馬灯のように頭の中をまわっていた。
いわば、あいつは、ギターという意味では、「私の70年代を象徴する存在」だったようなものだ。

それこそ、朝から夜まで考え続けた。

だが思いはつのるばかり。胸の中や頭の中は76のことではちきれそうになった。
いてもたってもいられなくなった。
十代の頃に恋い焦がれた相手が、今自分の目の前に再び現れた。やけぼっくいに火がついた。いったん諦めたはずだったのに・・。

かつてあいつは、雲の上の存在だった。
だがオジサンになった自分は、見てくれは若い頃に比べしょぼくれてしまったかもしれないが(笑)、十代の頃に比べたら多少はお金も使えるし、あいつ(D-76)の方も少し雲の上から降りてきてくれている。

で、あいつは再び私の前に現れた。「さあ、私を手に入れて。今度こそ。」と言っている気がした。「あたしを欲しかったんでしょ?それとも、また別の人に嫁いでしまっていいの?」とも言っている気もした(笑)。

 

今こそあいつを手に入れるんだ。それしかない。

 

2~3日後。意を決した私は、加速装置でも押したようにお茶の水を目指した。
完全に早足だった。一本でも早いバスに乗り、一本でも早い急行に乗り。
お茶の水に着いた私ははやるようにお金をおろし、D-76を見かけた店にダッシュ。

もしも、この数日間の間に売れてしまっていたらどうしよう。
そうなったら、かつて自分をふった同じ相手に、何十年も後にまたしてもふられてしまうことになってしまう・・・そう思うと、不安になった。


待っててくれ、今行くから。

そして、そのお店に着いた。で、多少は落ち着いたそぶりで、悠然ぶって歩き、D-76の置いてあった場所をピンポイント的に目指した。
すると・・

 

あ・・あった!
まだ、あいつは待っててくれていた。

しかも2本まだあった。

で、店員に言って、2本とも弾かせてもらった。
弾き比べると、同じ76でも、音が違う。
というか、一本のほうが明らかに良く鳴っている。

 

「こいつだ!」

 

で、そのより鳴る方を・・・長い時間弾きはじめた。
すると、私が弾いてる76を見て、店員がボソッと言う。

「あちらの76より、そちらの76の方が、よく鳴りますよ。激鳴りです。それは前のオーナーがプロのギタリストで、大事に弾いてきた1本なんです。やむにやまれぬ事情で手放したらしいんです」


決まった。

昔好きだっけど、フラれた・・というより、自分には手が届かなくて諦めた相手を、長い年月を経て、自分のものに・・・した瞬間だった。


さて。
このマーチンD-76。
店などで、これ単体だけを弾いてるとあまり気付かなかったことがある。
我が家にはD-28もあった。HD-28カスタムであった。

その28と、新たに我が家に来た76を家でじっくり弾き比べてみると、28との音の違いが分かった。

28は高音と低音が際立っている。高音は青空にジャーン!と抜けていき、低音はドーンと鳴り、非常に厚みのある迫力を誇る。それはピックで弾くと、特に分かる。特に私の持っているHD-28カスタムは、多少弦高が高めなので、ついピックで弾きたくなる。その迫力ゆえに。

 

一方76は、高音、中音、低音、まんべんなく鳴ってくる。高音・中音・低音それぞれの音域に存在感がある。なので、ピックでもいいが、指弾きにもよく合う。
ピック弾きだけなら28の方が迫力あるかもしれない。
だが、バランスやオールマイティさでは、76のほうかもしれない。

もちろん、28のほうも、オールマイティに使える。そのへんは、さすがマーチンなのだ。
だが、76は、更にそれ以上のオールマイティぶり・・そんな感じだ。


ここでふと思う。

案外マーチンのドレッドノートタイプのよく鳴るモデルというのは、安易な弾き語りには敷居が高いかもしれない。
というのは、ちょっとやそっとの気楽なボーカルだと、ギターの音の存在感に埋もれてしまう気がするのだ。気楽なボーカルだと、伴奏のギター音の存在感に負けてしまいそうなのだ。


高音のキラキラ、低音のブーミーさに。76になると、さらに中音の充実ぶりも加わってくる。
音に存在感があるということは、功罪双方の要素があるのかもしれない。


弾き語りでマーチンよりギブソンを愛する人というのは、そのへんもあるのかもしれない。

ちなみに私は、マーチンで歌おうとすると、知らず知らずのうちにかまえていたり、歌いながらギターの音に聴きほれてしまったりすることがある。
一方、ギブソンで歌うと、歌いやすかったり、自分の歌に専念できるような気になることはある。
なので、どちらも好きだ。

 

ギターには色々なタイプのモデルがあるし、音の傾向や音色も色々。用途も様々。
音に存在感があるギターは、歌い手を選ぶのかもしれないし、弾くからにはそれなりのものが必要になってくる。

 

私を弾いて歌うなら、しっかり歌いなさいよ・・・とでも、76は言っているようだ。


やはり、若いころ高根の花だったこの子は、今でもプライドが高い(笑)。

 

 

 


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8 コメント

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'70s Martin (roentogen)
2017-04-24 22:45:01
1980年代の学生時代に、マアチンを買いました。
著名なルシアーからカワセ経由のものでした。
最初は18と聴いていたので、D-18かとおもいきや、ゼロゼロゼロって、何だ?と思いましたが、手にしてみたらカワセラベルの70年代のトリプルオーでした。素晴らしい音です。
Unknown (だんぞう)
2017-04-25 22:22:08
はじめまして。
書き込み、ありがとうございます。
カワセ楽器、懐かしいです。カワセで扱ってる楽器、評判よかったです。

トリプル0のギター、私も持ってますよ。
弾きやすいし、バランスも良いし、私も大好きなギターです。
お互い、大事に弾いていきたいですね。
うれしい (zoro)
2018-12-08 17:26:05
D-76というギターを気に入っている人がいらした、、、

とってもうれしい。

昔、Gutsという音楽雑誌が有り、載っていた石川鷹彦氏のMartin D-76にあこがれてました。
社会人になり、会社の健康診断後に時間が空いたため、ぶらりと楽器店に足を踏み入れたら、、、
Martin D-76が飾られてました。

高嶺の花だと思っていたMartinについて、まったく知識がなかったため、Martinを調べることから始めました。
そしてあらためて、、D-76を探し、関東にある中古ギター屋さんを巡りました。

何本か弾いた後にたどりついたのは最初に飾ってあったD-76の前でした。
それから2ヶ月間、休みの日はこの楽器店に通いました。
現在、目の前に鎮座しているD-76との思い出です。
このD-76と比べるためにたくさんのギターを入手しました。
それも楽しい思い出となっています。
Unknown (だんぞう)
2018-12-08 20:23:38
zoroさんもD-76をお持ちで、D-76が大好きなんですね。
嬉しいです!
しかも楽器屋に飾られてたD-76を見るために、その楽器屋に通ってただなんて、、、私も同じじゃないですか。
私も楽器屋に飾られてたD-76とD-45を眺めるために、電車を途中下車してその楽器屋によく行ってましたから、そのきもちは、よくわかります。

嬉しいなあ。

GUTSという音楽雑誌、覚えてますよ。
新譜ジャーナル、ギターライフという雑誌もありましたっけ、、、遠い目(笑)。
通ったのは、、 (zoro)
2018-12-08 23:16:42
私、、、見るだけにとどまりませんでした、、、

「それから2ヶ月間、休みの日はこの楽器店に通いました。」

これ、行くたびにその楽器店でずっと弾いてました。
それを許してくれるお店だったので、通ったんだと思います。
ちなみにその後、この店に3年間通い、、計4本のMartinを買いました。
1本目がD-76。
4本目はD-45でした。(苦笑)

Unknown (だんぞう)
2018-12-09 10:59:26
弾かせてもらえたんですか。
いいお店ですね。
私は、、、自分の技量の問題もあり(笑)、弾かせて下さいとはとても言えませんでした。
もっとも、弾かせてもらったら最後、欲しくてたまらなくなったかも、、、。

D-45は、私の周りで、持ってる方がたまにいました。
でも000の45を持ってる人は周りにひとりもいなかったので、私は45は000-45を買いました。
今、自宅で手癖のように一番弾くギターは、00045です。
お店 (zoro)
2018-12-09 20:11:22
弾かせてもらえるお店でした。
今はもうそのお店は無いので残念です。
当時は、ゆったり世間話できる小さいお店がたくさんありました、、、
良い時代でした。

OOO-45!!
26年前に水道橋にあるお店で、「興味ある?」と言われ、試奏したOOO-45があります。
今にしてみれば、、購入しなかったことを思いっきり後悔しています。
当時は1930年製のOM-28を追いかけていました。
人生はうまくいかないものです。(苦笑)
Unknown (だんぞうだん)
2018-12-10 09:53:19
そういう店にこそ残ってもらいたいですね。

000-45の良いところは、弾きやすいところです。
ボディサイズも、弦のテンションも。
000サイズに慣れてしまうと、ドレッドノートやジャンボは、やはり大きいなあと思います。
抱えてみると実感します。
ただ、低音はあまり出ません。

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