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晴れときどき・・・

旧街道あるき、古戦場巡り、城攻め、図書館通いの4本立ての日々を綴ります。。

今年の85冊目「 忘れられたワルツ」

2013-10-26 11:00:24 | 読書日記
絲山秋子の「忘れられたワルツ」を読みました。180ページ。

 絲山秋子さんは大好きな作家さんです。あまり話題にはなりませんが、
新刊を見かけたら必ず手にとって読むようにしています。

 これは半年前に出版された短編集で7つの作品全てが
震災後に書かれたと思われます。
あの日以来、日本人全てが大なり小なり纏ってしまった不安とか、
影のようなものが全体に薄く塗されている様な作品たちです。

 政治がどちらへ傾こうと経済がどう変わろうと、
自分にはあんまり関係ないわ~とただ日々の暮らしに手一杯な
私のような駄目人間でも、あの日以降少し考えました。

 これはちょっと大変なことが起こるかもしれない。って・・・。
何気ない日常って何の保障もないんだって・・。
よく解からないけどこれから私たちはどうなるんだろうって・・・。

そして孤独とか絆とかについても考えるようになりました。
協調性が無くて、他人との違いばかりが気なって上手く付き合えない、
誰かに合わせようとすればする程追い詰められたような気持ちになるようでは、
それだけで生きづらく、世間からはじき出されるのではないかと、
怯えるようになりました。

 この小説にでて来る主人公達もそれぞれ考えます。
まるで袋小路に入って出られないような行き止まり感と焦り、
それでいて今も世界は晴れ渡っているかのようなのどかさ・・。

 全体的にちょっと前衛的な雰囲気というか、幻想的な要素もあったりして
久しぶりに正統派の小説を読んだなぁという気分になりました。
なかなかに深くて難解な部分もあったりして、
ちょっとセンター試験の例題になりそうな内容でもありました(笑)

 絲山秋子さんらしい、知的で簡潔でカッコイイ文章は相変わらずで
それだけで私は読んでよかったと思ってしまいます。

今年の83冊目と84冊目「 百年法 上下」

2013-10-25 07:12:45 | 読書日記
山田宗樹の「百年法 上下」を読みました。394ページと413ページ。

 以前本屋大賞候補になったりして評判になっていましたが、
あまりの分量に躊躇しておりましたが、ラッキーちゃんが読んだと聞いて
更に興味が湧いて遂に手に取りました。
なにしろ堂々の上下巻800ページ!読み応え抜群であります。

 とある偶然から人類は「不老」を手に入れたというSF小説です。
ヒトの老化を止めるウイルスが発見され、それを人体に注入すると
その時点で老化が停止します。

 当然ですが人々は挙ってその処置を受け、
今や巷は20代の男女で溢れかえることになるのです。
女性はいつもでも若く美しく、
男性も元気いっぱいでいつまでも働けます。
病気や交通事故などでは死ぬのでですが、
老化が原因の病気にはかかりません。

 これで世の中が幸せになるかと言えばそうでもなく、
様々な問題が発生します。
つまり世代交代が全く行われなくなってしまったのです。
親も子も老化しませんから全て見た目は同年代です。

 そこでその弊害を解決すべく生まれたのが「百年法」。
それは、不老処置をしてから100年経過した時点で
強制的に死ななくてはならないという法律です。

 ねっ、あらすじだけでも相当面白そうでしょう?
面白いのです、物凄く。
ただし、800ページを読むだけの時間と忍耐力さえあれば・・。
あと、細かい突っ込みを入れるのを取りあえず我慢できれば・・。

 展開も中々スリリングだし、
これは連続ドラマで1クールいけると思います。
俳優さんも全員20代の若手を揃えればいいので。。

 ただ、その面白い展開の中でどうしても考えさせられます。
歳月を重ねて、有限の中で生きるということの意味を。
永遠という言葉が持っている本当の意味を。

 今を生きる我々は先人から貰った「襷」をしっかり握り締めて、
次の世代に渡さなくてはならないのだと思います。
決して一人で走りすぎても、
途中で棄権してもいけないのだと思いました。

今年の82冊目「輝く夜に」

2013-10-24 07:08:58 | 読書日記
 百田尚樹の「輝く夜に」を読みました。210ページ。

 12月に映画が公開される「永遠の0」。
本屋大賞を受賞した「海賊と呼ばれた男」。
百田尚樹さんの本は今や空前の大ヒットになりました。
電車の中でも「海賊と呼ばれた男」を読んでいる人をよく見かけます。
毎回違うテーマの内容でいつも新鮮な驚きと感動を届けてくれる百田さんの小説が
売れないわけは無いと思っていましたからとても嬉しいです。

 「海賊・・」は上下巻の大作ですが、今回読んだ「輝く夜に」と言う作品は
文庫で200ページの短編集ですから、かなり取っ付き易いのではないでしょうか。

 が、侮ってはいけません。少なくともこの本を電車の中で読んではいけません。
いい大人が人前でぽろぽろと涙を流してしまうことになるからです。

 200ページの中に全部で5話ですから1話40ページのたわいない話なんです。
一生懸命頑張って生きているのに、ちっとも良い事が無くて、不運続きで、
地味な主人公達に起こる奇蹟に、そんな上手い話があるわけ無いだろうと
半分苦笑しながらも、すっかり感情移入してしまいました。
そして1話読み終わるごとに、嬉し涙が溢れてきて、
しばらくぼぉっとしてしまいました。
まさに「百田マジック」です(笑)

 こんな話を書いてくれた百田尚樹さんにお礼を言いたいです。
去年、この本にサインを貰えばよかったと激しく後悔しています。

 この短編を眠る前にベッドで一つずつ読んだら、
その夜はよく眠れるのではないでしょうか?
厳しい現実からちょっとだけ離れて夢を見たっていいですよね?

 200ページ分の幸せが詰まっているこの500円の文庫本を
全ての「更年期少女」の皆様に捧げます。
内容は敢えて書きません。
自分で手にとって読んでひとときの幸福を味わって、
いい夢を見て、それが明日頑張る力になりますように。。

今年の81冊目「 微笑む人」

2013-10-12 20:09:32 | 読書日記
貫井徳郎の「微笑む人」を読みました。288ページ。

 本を置く場所を確保したいから、妻子を殺害する。
あと一年待てば異動するのに、気に食わない同僚を殺害する。
入手困難なゲーム機が欲しくて、持っている同級生を殺害する。
隣の社宅の飼い犬が恐いので、出て行って貰うため飼い主を殺害する。

 こんな無茶苦茶な理由でいとも簡単に人殺しをする人間の周囲を
取材する小説家に犯人を知る人物は揃って
「彼はそんな(人殺しをするような)人じゃない」と答えるのです。

 背が高くて、高学歴なエリート銀行員は、
温厚そのものの性格で男女問わず絶大な人気と信頼を得ていて、
逮捕された後でさえも、静かな微笑を絶やさない人物でした。

 この小説はこのなんとも薄気味の悪い、
モンスターのような殺人者が主人公です。

 殺人の動機があまりにも常軌を逸し過ぎているために、
かえって疑いを持たれることがなかった人物。
彼のことを周囲はみんな褒めちぎるのです。
彼が感情を露にした様子を見たことがないと・・・。

 目的を達成する為には他にいくらでも方法があるのに、
何のためらいもなく「殺人」という手段を使う主人公の
本当の姿を求めて物語は進行していきます。

 しかし「本当の姿」って何だろうと疑問が湧くのです。
他人が他人を知ることって何処まで出来るのだろうって・・。
全ての人が納得のいく動機を探し当てれば、
それが「真実」といえるのか?

 このミステリーは決してすっきりした終わり方をしません。
そのせいで評価が大きく分かれてしまっているのですが、
これは敢えて作者が「あなたにとっての真実は、隣の人から見たら
そうではないかもしれませんよ。」と問いかけているのだと思います。

 そんなことを考え出したら、足元の地面が崩れていくようで、
非常に不安な気持ちになるのですが、それも作者の狙いでしょう。

 貫井徳郎さんの作品では「乱反射」という長編が好きなのですが、
あの小説の世界観を更に一歩進めたような気がして、私はいいと思いました。

今年の80冊目 「ジヴェルニーの食卓」

2013-10-11 08:55:17 | 読書日記
原田マハの「ジヴェルニーの食卓」を読みました。233ページ。

 まず、モネの「睡蓮」の表紙が物凄くステキです。
これだけで読まなくてもいいくらいステキです(笑)
表紙にカバーを掛けないで電車の中で読みたいです。
私が読む本でそんな本はホントに希少です(爆)

 絵画に知識も興味がない私でも「印象派」の画家達が
描く世界は一度は見たことがあるし、作者の名前も聞いたことがあります。
この本は西洋美術に造詣が深く、キュレーターの資格をお持ちでもある
原田マハさんが描くその「印象派」と呼ばれたの画家の物語です。

 南仏ニースの太陽のように明るく鮮やかな色彩を愛したマティスと
天才ピカソの晩年の静かな交流を描いた「美しい墓」
「エトワール」は踊り子を描く鬼気迫る執念を
最後まで持ち続けたドガが主人公です。
貧しい印象派の画家に画材を売り続けた絵の具屋と
セザンヌやファン・ゴッホとの絆が感動的な「タンギー爺さん」
そして表題作のモネとその家族の物語「ジヴェルニーの食卓」

 一つ一つの物語がその絵画を象徴するように静かで優しく感じられるのは
彼等を深く敬愛しながらも決して出過ぎず、影に徹した女性達の目線で
語られているせいかもしれません。
彼女達は一人の天才芸術家が、いかに心地よく制作活動に打ち込めるかを
常に先回りして考え、全力でサポートします。
見返りを一切要求しない無償の愛ともいえるその姿に驚嘆しつつも、
天才というものはそれほどのオーラを放つものなのかと想像しました。

 この本を読むと誰でもその絵画を改めて観て見たくなると思います。
一般人に判り易い優秀な印象派の解説書でもあるのです。
と同時に彼らが活躍した20世紀初頭のパリの華やかさ、
ヨーロッパの真ん中にあるフランスという国の
底力を見せ付けられた気にもなりました。
更に、その印象派の画家達がインスパイアされたという
日本の浮世絵の斬新さとかっこよさを再認識いたしました。

 芸術の秋にお勧めの一冊です。。