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第Ⅳ章 土台・1階床組 仕口と継手の原理

2020-10-21 11:52:40 | 同:土台・1階床組

               

第Ⅳ章 軸組を組む:土台・1階床組

1.木造軸組工法と継手・仕口

木造軸組工法では、部材相互の接合方法のことを継手仕口と呼んでいる。

継手:材を材長方向に継ぐ方法   

仕口:材をL型、T型に接合する方法

文化財建造物伝統技法集成 文化財建造物保存技術協会刊】より

継手とは、一材の長さを増す(材軸方向に継ぐ)ための工法、又はその部分をいう。木材の長さには限界があり、また必要とする材長の用材があったとしても、運材の難易度や経済性から適宜な長さの材を求めて、これを継ぎ合わせた方が有利な場合がある。規格化された市場品が容易に手に入りやすくなればなおさらである。

仕口とは、二材以上の材を片方または相互に工作を施して組み合わせる工法、又はその部分をいう。仕口は日本建築の特徴の一つで*、これによって複雑な部材の構成が可能になる。釘や金物によって強制的に結合する方法と異なり木材を巧みに組み合わせるので、外力に対して見かけよりも遥かに建物全体の耐力が大きい。

二材以上の材が組み合わさった状態、叉はその部分を組手(くみて)、一材に他材が差さる状態、又は部分を差口(さしくち)と言う。

                            *継手・仕口は、ヨーロッパにも同様の接合法がある。後述

1)継手・仕口の変遷

古代の継手・仕口:「一材に(あな)をあけ、他材を差しこむ」、「一材にだぼ太枘)を植え、他材にあけた孔にはめる」、「相互の材を相欠き(あいがき)(半分ずつ欠きとること)にして合わせる」、相欠きにして(せん)を打つ」「双方の材を鈎型(かぎがた)に加工して引掛ける」などの簡単な接合法だが、原理は後々まで受け継がれる。

樹木は螺旋(らせん)型に成長するため、製材された材には捩れ(ねじれ)が生じる。また環境に応じて収縮反りそり)を起す。これらの架構への影響は、古代では、接合部分の粗く逃げのある加工、接合箇所を増やす方法で避けられていた。

その後加工が精密になり、木材の弾力性・復元性、相互の摩擦を有効利用する方法へと発展し、接合部は、より合理的な形状(材が割れない、欠けない、よく密着する、などに適した形状)に進化する。

さらに、(せん)(くさび)を打つなどによる緊結の度合いの強い接合法が考案され、構成材を一体に組んで外力に耐える工法が可能になる。その結果、架構は半ばラーメン状となり、材の収縮・捩れ、外力による変動は架構によって押さえ込まれる。いずれも現場で生まれた知恵である。

注 竣工後時間が経過した建物を解体すると、押えられていた捩れが部材に現れる。⇒古材利用時の留意点。現在でも、逃げ・遊びをとる方法と緊結の度合いの強い方法を適宜使い分けることが可能。大架構では、反り捩れの影響が大きく現れやすいが、両者を併用することで防ぐことができる。

【各時代の継手・仕口の例】  文化財建造物伝統技法集成 より  

  奈良・法隆寺伝法堂(奈良時代)  

 奈良・ 当麻寺本堂(平安時代

京都・大報恩寺本堂(鎌倉時代)  

       

 京都・大仙院本堂(室町時代)  

  

大阪・八坂神社(桃山時代末)          桁継手        

  

                            

2)継手の条件

継手の理想:接合箇所が、引いても、押しても、曲げても、捻っても、長期にわたり外れず、また、一方の材にかかった力をできるかぎり他材へ伝えることができること。

継手には、下図のように、①材の一部を凹凸に加工して継ぐ方法(あり)継ぎ(かま)継ぎシャチ継ぎなど)と、②互いの材全体を鈎(かぎ)型に加工して引掛けて継ぐ方法略鎌(りゃくかま)継ぎ(ぬの)継ぎなど)がある。

通常、これらに、上下左右の動き、捻れ、接合部の外れ等の防止のために端部加工を付け加える。

付け加えられる代表的な端部加工

通常、接合箇所に求められる役割に応じ、a)b)を適宜組合わせて加工する(組合わせの種類が増えるほど加工に手間がかかる)。ただし、の系統の継手は、かかった力を他材へ十分に伝えられない。

の系統のうち、鈎形(かぎがた)を縦方向に設けてを打つ追掛け(おっかけ)大栓継ぎ金輪(かなわ)継ぎは、上下左右の動き、捻れに耐え、材相互の力の伝達も十分で、継がれた二材の強度は一本ものと変らないと言われる。

追掛け大栓継ぎ上木(うわっき)下木(したっき)*があり、接続面が斜めのため、上木を落とし込むと相互が密着、金輪継ぎは二材が同型であるが(向きは逆)、を打つと材相互が密着する⇒梁・桁に使う。次回以降解説。*上木、下木 後掲。  

 

3)仕口の条件

仕口の理想:接合箇所が、引いても、押しても、曲げても、捻っても、長期にわたり外れず、また、できるかぎり一方の材にかかった力を他材へ伝えることができること。

仕口の基本形は、ほぞ差し(あり)掛けである。通常、この基本形に、引抜き上下左右の動き捻れ、接合部の外れ、などの防止のための端部加工を付け加える。

◇蟻掛けに付け加える加工          ・胴付:ほぞの根元周りの平面をいう(英Shoulder)。日本建築辞彙より 明治39年発行

◇ほぞ差しに付け加える加工 

ほぞ差しは、強い力で引き、あるいは左右にゆすり続けると引き抜ける。特に、1寸:30㎜程度の短(たん)ほぞは、容易に抜ける)。ほぞ差しだけでは上下左右の動き、捻れに十分に耐えられないため、引抜き防止上下左右の動き捻れ防止の加工を付け加える。

ア)引き抜き防止のために付け加える加工 

イ)上下左右の動き・捻れの防止のために付け加える加工

4)継手・仕口の加工(刻(きざみ)

継手・仕口の加工のことを、刻み(きざみ)と呼んでいる。

継手・仕口は、木材の弾力性・復元性、材相互の摩擦を利用するため、相応の加工精度が必要。現在は、加工機械で大体の継手・仕口が加工できる(追掛け大栓継ぎ金輪継ぎも可能になった)。

般に、継手・仕口を刻める職人がいなくなったから、あるいは、継手・仕口の加工に手間がかかるから、継手・仕口を使った建物はつくれない、と言われているが、事実ではない。刻める職人は各地に居り、また各種加工機械の出現で従前のようには手間もかからなくなっている。

継手・仕口による建物が少なくなった理由として、①設計者が、継手・仕口の存在と継手・仕口の原理を忘れてしまったこと(日本の木造技術への無理解)、②手間の省略を、工程、工期、工費の《合理化》と見なす傾向があること、が挙げられる。建物を確実につくるために必要な作業と手間は無駄ではない。

5)継手・仕口の下木(したっき)、上木(うわっき)

継手・仕口は、先に据える材(受ける材)と後から据える材(載せ架ける材)とで構成される。

現場で先に据える材(受ける材)を下木(したっき)後から据える材(載せ架ける材)を上木(うわっき)と呼ぶ。木、下木は、現場でどこから組立てを始めるかによって決める

 

6)継手・仕口の呼称

追掛け大栓継ぎ金輪継ぎなどを除き、継手・仕口の呼称は、以下のように付けられている。

a)形状による名称      :蟻  鎌  腰掛け  ほぞ差し  栓  楔(くさび)  目違い など

b)形状に作業の内容を付ける :大入れ(おおいれ)にする  胴付(どうづき)(小胴付)を設ける  割り楔(わりくさび)で締める 込み栓(こみせん)を打つ シャチ栓を打つ(差す) 蟻落とし  寄せ蟻  蟻掛け など

c)部位の名称に形容詞を付ける:長ほぞ (たん)ほぞ  小根(こね)ほぞ (ひら)ほぞ(または横ほぞ) など

d)a)b)c)を組み合わせる:腰掛け 鎌継ぎ鎌継ぎ+腰掛け 腰掛け鎌継ぎ 目違い付き腰掛け鎌継ぎ+目違い 小根ほぞ差し 割り楔(わりくさび)締め小根ほぞ差し+割り楔締め 根ほぞ差し割楔締め 目違い付き小根ほぞ差し割楔締め+目違い                

を用いて継ぐときは蟻継ぎを用いて他材に載せ架けるときは蟻掛けのように呼ぶ。

継手・仕口の呼称は、地域、大工職により異なる(茨城では蟻落とし下げ蟻と呼ぶことがある、など)設計図には、呼称だけではなく、簡単な図を示すと混乱が起きない。

 

参考 ヨーロッパの木造建築(軸組工法)の継手・仕口例

  

スイスの継手仕口例Fachwerk in der Schweiz Birkhauser Verlag

このような発案は、「机上」では絶対に生まれない。そして、人が「現場」で考えることは同じ。だからこそ、「異なる地域」で「同じ方法」が生まれる。技術の習得は、現場で行われるもの。「机上の論」>「現場」のとき、技術は衰退する。

 

 

ドイツの継手仕口例Handwerkliche Holzverbindungen der Zimmerer    Deutsche Verlags Anstalt,Stuttgart

 

 

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