(「第Ⅱ章-2」より続きます。)
3.木材について
1)製材品の種類と規格
◇ 製材品は、形状により、角材(正角まさかく材、平角ひらかく材)・割材(正割材、平割材)、板材に大別される。
角 材:芯持(しんもち)材:樹芯を含み製材 強度があるので、土台、柱、小梁、大引などに使う。
芯去(しんさり)材:芯を外して製材 造作に適する。
割 材:根太、垂木、胴縁、造作材などに用いる。
板 材:製材位置で、柾目(まさめ)材と板目(いため)材に分かれる。
丸太の段階で均衡のとれていた形状が、製材で不均衡になるため、製材品には必ず反りや亀裂が生じる。
各種製材用語
木表(きおもて)と木裏(きうら) 木表:木材の外周側(樹皮側) 芯持材は各面が木表。木裏より軟質、収縮大。
木裏:木材の内側(芯側) 芯去材はどこかの面に木裏がでる。
元(もと)と末(すえ) 元:根元側 柱は元を下にする(立ち木のとおり)。末:梢側 元よりも収縮率が大きい。
節(ふし) : 枝の痕跡。折れた枝、枝打ちした枝の根元は、成育にともない被覆される。節の径は、裏(芯)側の方が表(樹皮)側よりも大きい。 表面に節が無くても、芯に近い側には節が現れる可能性が大きい。枯れ枝の節(死に節)以外、節の有無を特に問題にする必要はない。
背割(せわ)り : 芯持材は外周の収縮率が大きく芯から外周に向い干割れが生じるため、背割りを設けることが多い(柱に使用の場合に設け、横架材には設けない)。背割り面は見え隠れ部分に用いる。見え隠れ:仕上ると見えなくなる部分 見えがかり:仕上った後も、見える部分
乾燥・収縮 : 乾燥時、元側が遅く、末側が早い。そのため、製材品は、元を上にして立てかけ乾燥させる。通常、規格を示す刻印は、この状態で記されるので、建て方時には、字が逆さになる。
挽き割(ひきわ)り寸法 : 挽き割りの状態の寸法(市販されている製材品の寸法)。挽き割りの状態では反(そ)りなどがあり、表面を加工し形を整える(木取きどりまたは分決ぶぎめという)。
仕上り寸法 : 整形後の寸法。 挽き割り寸法で120㎜角の材は、仕上り寸法では115㎜程度になる。挽割り寸法と仕上り寸法の差は、一般的に3~6㎜(1分~2分)程度。120㎜角に仕上げるには挽割り寸法で125㎜程度必要(市販の120㎜角材では間に合わない)。
◇ 製材の規格
製材品には日本農林規格:JASがある。ただし、規格品は市場に流通している製材品の10%程度。
製材の等級
製材品の外観の分類
標準規格寸法(いずれも、尺・寸・分表示をメートル法表示に概略読み替えた数字である)
平割り材や板材の規格長さは、地域により異なる(関東:3.65m 中部:3.8m 近畿:4mが主流)。
2)柱に適した木材の材種 (土台・横架材についてはそれぞれの章で解説)
[ 柱 ]: 圧縮、引っ張り、曲げ、座屈に強い材(外部に面する場合は耐朽性がある材)。 国内産桧、同 ヒバ、次いで 同杉。国産杉の特1等材であれば、多少の節はあっても生き節ならば、可。
桧 : 強度 大、対腐朽 大、狂いが少なく、加工性 良。木肌は均質、緻密で、特有の芳香がある。建築用材として最も優れた木材の一つ。
杉 : 強度 中、対腐朽 中、加工性 良。国産針葉樹の代表で、木肌はやや粗く特有の芳香。
ヒバ : 強度 中、対腐朽 大、加工性 良。芯材と辺材の区別がはっきりしていないが、材質は緻密で、湿気に強い。黄色味を帯び、日に焼けるとネズミ色になる。人工林は北海道渡島半島、青森県下北・津軽両半島。津軽半島の広大な純林は、木曽の桧林、秋田の杉林と並んで、日本三大美林と称される。
米ヒバ:強度 大、対腐朽 大、加工性 良。
米ツガ:強度 小(ねばりがなくもろい)、対腐朽 小(水を吸いやすい)、加工性 良。木目は適度に細かい。比較的狂いは少ないが、釘打ちの際して割れやすい。
3)柱材の単価と材種の選択
木材の価格は、外国産材の方が国産材よりも低いと考えられ、工費の低減を目的に、外国産材が選択される傾向がある。
参考 正角材(特1等)の水戸の実勢単価(「積算資料」2020年9月号による)
2005年の単価表と入れ替えを行いました。15年前は、ヒノキ85,000円/㎥、杉48,000円/㎥、ベイツガ44,000円/㎥でした。
〇 杉と米ツガの単価は、3m材については大きく異なる訳ではない。総価格でも、杉材、米ヒバ材とも同程度で、また若干高くなったとしても、工事費全体での占める割合は大きくない。米ツガは、オイルステイン等の塗料のノリが良いので用いられるが、木造軸組としては、ねばりおよび耐久性の点で、日本の気候の中で成長した国産の杉が適している。
〇国産材についても、銘柄品にこだわらない方が得策である。一般に地場産材の方が、価格も安く、その土地の適材であると言う棟梁もいる。
〇実際の木材の購入は、床柱等の特別な柱を除き、ある等級の材を30~40本まとめて購入し、節の状態等に応じて使いわけされる。設計見積りを行う場合は、特別な柱を除き、㎥単位で表記し、金額を入れる。詳細については、別途材料調書(内訳書)を作成する。
〇真壁仕上げの柱:雨風のあたる外部については、予算が可能ならば、多少の節があっても桧を用いるのが適切。ヒバまたは杉でも可能。外部・内部ともに「特等」以上。客間などの場合は、必要があれば「特等1面無節~4面無節(表しとなる面数)」。通常では「特等上小節」であれば、節はあまり気にならない。「特等小節」と併せて、使う場所の検討が必要。
〇大壁仕上げの柱:柱は覆われてしまうので「特等小節」でも可能。米ツガは、大量に輸入されるため安価と思われ用いられることが多いが、ねばりがなく、耐朽性が小さいため、仕上げ材によって覆われ結露のおそれのある部分の使用(土台・柱等)には、不安がある(断熱・保温材の使用にあたっても注意)。国産材の杉または桧の使用を勧めたい。
4)柱の太さの違いと強度
一般的に、10.5cm(3.5寸)角の柱、12.0cm(4.0寸)角の柱が用いられる。
柱の寸面を決定することは、軸組全体の強度をどのように考えるかに等しいと言ってよい。通常では、土台や梁桁といった柱に取り付く横架材の幅の寸法は、建物にかかる様々な荷重や外力をより効率よく伝えるために、柱幅と等しくする場合が多い。
◇ 通し柱は12cm角以上 : 建物の隅や中央部分に立てられ、柱の側面に2方向~4方向の胴差・梁が取り付く通し柱と横架材の組み方はさまざまであるが、横架材が取り付くためには、柱の側面の一部を欠き取るために、最低12㎝角が必要とされる。
◇管柱も通し柱と等しく12cm以上とすることを勧めたい : 管柱は、1階では土台と胴差・梁の間、2階では胴差・梁と軒桁・小屋梁の間に立つが、力の伝達にとっては、通し柱と等しく12cm角以上とする方が適切である。
住宅金融公庫の仕様基準では、2001年度より、隅柱の規定が以下のように変更された。 ・「隅柱(出隅、入隅とも)は12㎝角以上とする。」 ・「隅の通し柱は、『耐久性の高い樹種の使用』『防腐、防蟻薬剤処理材の使用』『真壁で軒の出90㎝以上の場合』、『外壁板張り仕様』『外壁通気工法仕様』のいずれかの場合は12㎝角以上、その他の場合(ベイツガなど)は13.5㎝角以上とする。」
◇10.5㎝角と12㎝角の柱材の強度を比べると以下のようになる。
1.材の材軸方向の可能負担荷重は断面積に比例する : 10.5㎝角(仕上り10.0㎝角):断面積:100㎝² 12.0㎝角(仕上り11.5㎝角):断面積:132.25㎝² ∴32%増し
2.座屈を考慮した場合の許容圧縮力は断面積に比例する : 12㎝角は10.5㎝角の32%増し
3.曲げに対する強さは断面2次モーメントに比例する : 10.5㎝角(仕上り10.0㎝角)の断面2次モーメント: 833.33 ㎝⁴ 12.0㎝角(仕上り11.5㎝角)の断面2次モーメント:1,457.50㎝⁴ ∴74%増し
なお、芯持材の場合、10.5㎝角は末口径5~6寸(40年もの以下)の原木、12㎝角は末口径6~7寸の原木(4, 50年もの以上)から挽かれるので、一般に12㎝角の方が良質である(節が少なく、赤身が多い)。
参考 木材費と総工事費 例 総工事費に占める木工事費(木材費、大工手間)の例
最近の設計例(木造2階建住宅、延約170㎡:51坪 漆喰真壁造、屋根ガルバリウム鋼板葺き)の場合
総工事費に占める木工事費:約28% 内:木材費 約47% ∴総工事費に占める木材費 :約13% , 大工手間 約53% ∴総工事費に占める大工手間:約15% (木材費には補足材も含む。大工手間は手元も含み約5人/坪)
木工事費が木造建築の総工事費の中で占める割合は、一般的に25~30%程度。 木工事費の内、70~50%が人件費(大工手間)で、材料費は30~50%である。 ∴木材費は総工費の10~15%程度。 総工事費節減のために、木材費だけを節減しても、効果は小さい。
木造建築において、適切な材種・材寸の 採用、必要不可欠な手間の確保は、建物の 強度・耐久性と建物の質を左右するきわめて重要な要件である。 総工費低減のために、材料の質を落とし、工程の《合理化》:大工手間・人件費の削減:のために架構を簡略化する・・ことは、「合理的」な判断ではない。また、法令の規定さえ充たしていればよい、とする考えも安易に過ぎる。
設計者は、何が適切で、何が必要不可欠 かについての判断を委ねられている、との認識が必要。
二階建 骨組姿図 日本家屋構造より
参考 木材の特徴
1)木材の特徴
a 軽く、加工が容易である(気乾*比重は、通常の材で0.3~0.9程度)。*下注参照
b 一本ごとに成長状況が異なるため、同種の材でも一本ずつ性質を異にする。
c 螺旋状に成長するため、捩れる性質があり、また、気乾状態でも、10~15%の水分を含み、置かれた環境に応じて、水分の吸・放出を繰り返し、収縮を起す。この性質を維持することが必要である(真壁造りにして柱を表しにしたのはそのためであろう)。
注1 樹木の成長、辺材(白太)と心材(赤身)、含まれる水分(結合水と自由水)
『木材工業ハンドブック』(丸善)より
樹木は、樹皮、形成層と木部からなる。
木部は、形成層に近い辺材と、内側の心材とからなる。
根から吸収された養分・水分は、辺材部を上昇して葉に至り、つくられた光合成物質が樹皮部を降下して形成層に供給され細胞が増殖し、螺旋状に成長する。細胞の成長速度は、年間を通してみたとき季節により異なり、年輪(年間の成長幅)を形成する(季節が明確でない地域では年輪ができない)。
細胞の細胞壁は糖類主体の高分子化合物で、分子レベルで水を引き寄せ(結合水と呼ぶ)、状況に応じて水分の吸放出が行なわれる。結合水は、木材の乾燥重量の最大30%の水を吸収できるという。この部分は、木材に加工したときに、白太と呼び、水分・樹液が多い。
樹木の成長とともに、初期につくられた形成層・辺材部は活動をやめ、微細な細胞内孔が残るが、この内孔も水分の吸放出を行なう(この水は普通の水で、自由水と呼ぶ)。この部分が心材部(死んだ細胞の集まり)で、細胞を形成していたセルロース、リグニン(接着剤の役割)、タンニンなどが沈着し赤味を帯び、木材に加工したとき赤身と呼ぶ。
注2 木材の含水率、木材の乾燥
木材の含水率とは、すべての水分を蒸発させたとき(全乾状態:後掲)の重量に対する、ある水分状態の重量の比率を言う。
伐採した樹木を大気中に放置すると、最初に自由水が蒸発し、自由水が蒸発し終ると、結合水が蒸発を始める。この時点を繊維飽和点(ESP含水率)と呼ぶ。
さらに結合水の蒸発は続くが、ある水分状態になると止まる。この状態を気乾状態と言い、このときの含水率を平衡含水率(EMC)と呼ぶ。(平衡含水率は温度、湿度により異なるが、標準的な数値として15%が使われることが多い。)
平衡含水率を越えて人工的に乾燥を続ければ含水率0%になり、その状態を全乾(絶乾)状態と呼ぶ。全乾状態の木材を通常の環境に置くと、平衡含水率の状態に戻る。
通常、大気中に6ヶ月程度の放置で表面に近い部分が平衡含水率状態に達し、さらに6ヶ月程度の放置で全体が平衡含水率状態(気乾状態)になる(乾燥材としての理想状態)。
注3 木材の収縮とその特徴
収縮率は、梢側:末>根元:元、周辺部(白太)>樹芯部(赤身)であるため、製材品は、切断位置によりくせが異なり、反りや亀裂が生じる。
木材の部位と収縮率 製材位置と材の収縮
構造用教材 日本建築学会より
d 材料の軸方向の圧縮・引っ張り、材を曲げる力、材を切断する力(剪断)に対しても相応の強度があり、また弾力・復元力がある。ただし、その大きさは、同種、同寸の材でも異なる。
注 これは過酷な環境で地上に立ち続けるために樹木が備え持つ性質で、木材に加工されても引き継がれる。丸太材は樹木の性質をそのまま引き継ぐが、その際でも「捩れ」は避けられない。継手・仕口を使った工法の軸組が「半ばラーメン状」になるのは、木材の弾力・復元力のため、接合部がRC造のように剛にならないからである。
木材の強度例 (単位N/m㎡) 1N=0.102kgw(kgf) 実験値と法令の定める「基準強度」および「許容応力度」の関係
2000年の法規改訂にともなう告示第1452号で、「基準強度」「許容応力度算定式」が規定された。ここでいう「実験値」とは、破壊実験で得られている実際の強度である(日本木材加工技術協会編「日本の木材」のデータをNに換算)。同種の材でも強度に幅があるため、基準強度、許容応力度が実際の強度の1/5~1/10程度の低い数値に設定されている。なお、「甲種構造材」とは、主として高い曲げ性能を必要とする部分に使用されるものを言う。
正確に構造計算を行うには、建物ごとに、そこに使用されるすべての材について、その強度・性質をあらかじめ測定する必要が生じるが、現実性に欠ける。法令仕様の耐力壁で軸組の強度を得る考え方は、計算を簡便にするための策であり、木材の強度を上表のように安全側に押さえている。 注 江戸・明治期までにほぼ完成した「軸組工法」は、同種、同寸の材でも強度・性質が異なることを承知の上で考案された工法である。
e 適度の水分と酸素(空気)が供給され続けると、容易に腐食し(木材を好む微生物が繁殖する)、またシロアリなどが成育しやすい環境となる。
大壁仕上げ(特に両面大壁)では、壁内部に湿気が滞り、木部下部に腐食やシロアリが発生する。防火構造、断熱工法で多く生じ、防腐・防蟻剤塗布、通気工法は、その対策として生まれた。
f 250~260℃程度で発火する(材種による)。
柱や梁材が着火後完全に燃え尽きるには相当に時間がかかり、通常の火災では、表面が炭化した後、芯部分が燃え残り、軸組の形状が残っている場合が多い。 鉄骨造の場合は、火災によって、軸組の形状が大きく変形する。
なお、近年、捩れ・収縮の解消、強度の一定化、木材の効率的使用などを目的に、欧米で開発された集成材の使用が増え、また推奨されている(エンジニアリングウッドなどと呼ぶ)。ただ、集成材の歴史は120年余(日本では70年余)である。特に、外部に使用する場合には、湿気、紫外線による接着剤の劣化に留意が必要(欧米と日本の環境の違い)。
引用・参考資料 木造伝統工法 基本と実践 彰国社 構造用教材 日本建築学会 木材の知識 日本住宅・木材技術センター 建築材料 理工学社 木材工業ハンドブック 丸善 木材なんでも小事典 講談社