第Ⅵ章 軒桁まわりと小屋架構:屋根形状と小屋架構,和小屋組

2021-10-12 12:14:45 | 同:軒桁まわりと小屋組

                                    PDF「第Ⅵ章 軒桁まわりと小屋架構」5.合掌方式まで A4版18頁

Ⅵ 軸組を組む:軒桁まわりと小屋架構 

1.屋根の形状と小屋架構

小屋架構の方式は、「束立(和小屋)」「トラス(洋小屋)」「登り梁」「合掌」に大別できる。

小屋架構の方式により、屋根の形状も自ずと決まる。(△は、可能だが仕事が面倒。)

 方形:ほうぎょう

束立和小屋方式は、上表に示すように、屋根形状の自由度が高い。

わが国の場合、当初の小屋組は大部分が合掌であるが、徐々に束立和小屋組に変わる。

和小屋組の採用により、複雑な形状の屋根も可能になる (例:桂離宮など書院造の建物の屋根)。

 

桂離宮 古書院:1615年頃、中書院:1641年頃、1650年頃までに別荘として完成。新御殿は1662年頃の竣工。

八条宮智仁親王、智忠親王二代によって造営。新御殿は後水尾院を迎えるために増補。

 

写真左:中央右、池に向かって建つ古書院、雁行形に中書院、(楽器の間)新御殿 日本の美術№79 

写真右:手前は古書院 竹簀の子(たけすこ)りの月見台    日本の美術№201(至文堂)より 

 

平面図 各図は桂離宮御殿整備記録 図面編(宮内庁)より   図中の文字は編集によります。  古書院 桁行断面図(小屋組の筋交いは修理時の際に追加)文字は編集によります。

 

 

桂離宮の屋根と小屋伏図  航空写真から屋根のみトレース 囲んだ部分が右の小屋伏図 増築を重ねたため、谷が多く、雨仕舞が難しい。

 

小屋の架構は、単に屋根の荷重を支えるだけではなく、軸組頂部を固める重要な役割を持つ。

また、すべての部材が組み上がれば、切妻屋根は逆V型の形状、寄棟・入母屋・方形屋根は逆舟型の形状になる。構成部材相互が確実に組まれていれば、立体として外力を受けることになり、きわめて強固になる(各種の継手・仕口が考案された一つの理由⇒接合が簡易であると、立体として働かない)

洋の東西を問わず、古来、立体形状のもつ力学的な特性が活用されてきたが、日本では現在、特に木造建築では、活用されることが少なくなった。

 

2.束立(和小屋)組方式

構成部材軒桁小屋梁小屋束・(二重梁つなぎ梁)・母屋・棟木垂木 

     通常、軒桁小屋梁材にはマツまたは米マツ等の曲げに強い材で、軒桁には平角材小屋梁には平角材丸太・(丸太)太鼓(たいこ)落としが使われる。

軒桁と小屋梁の組み方 折置(おりおき)(下梁置):先ず上に小屋梁を架け、次いで軒桁を架ける。小屋梁ごとにが必要。

           京呂(きょうろ)(桁露) :先ず上に軒桁を架け、次いで小屋梁を架ける。の位置は軒桁の断面次第で任意。

小屋梁の特性    :小屋束を通じて屋根の荷重を受けるため、曲げの力がかかる。梁材の長さには限界があり、梁間が大きいときには、敷桁(しきげた)敷梁(しきばり)中引梁(なかびきばり)などと呼ばれる受け材を中途に設ける必要が生じる。

 

1)束立(和小屋)組の構成

束立組は、切妻寄棟方形(ほうぎょう)入母屋(いりもや)のどの屋根形状にも対応できる。

束立組の基本小屋梁上に据えた小屋束母屋棟木を支え、棟木母屋軒桁間に垂木を掛け三角断面を形成する(寄棟、方形、入母屋は、いずれも中央部では三角断面)。 小屋組の組み方は、次の形式に大別でき、梁間に応じて適宜選択する。

 

梁間が大きいとき、小屋束が高くなるため、小屋梁より上の位置に、更に2段以上を設ける二重梁の方法。

二重梁の位置が高いときは、外側の小屋束に向かって、つなぎ梁を設ける(下図「小屋組各切断圖」参照)。

桁行方向は小屋束棟木母屋だけで構成。桁行方向の変動に対しては、小屋束母屋棟木で組まれる架構と、屋根面の剛性で耐えることになり、束と母屋棟木の仕口母屋棟木の継手の選択が重要になる。

 

   

小屋束だけで母屋棟木を受ける。

小屋束相互を固めるために、桁行・梁間両方向に小屋貫で小屋束を縫い、くさびで締める。の段数は棟高次第。 小屋組は、強固な立体となる。Aとの併用も可能。

 

小屋束だけで母屋棟木を受け、小屋束の動きを防ぐため、梁間・桁行両方向に筋かいを釘打ち。簡単なため多用されるが、長期にわたり耐力を望むことは難しい。

 

通常、小屋組の建て方では、母屋据付け時点までは小屋全体が揺れるが(特に桁行方向)、垂木を掛け、野地板を張るにつれて、立体が構成されるため、揺れなくなる。束相互を貫で縫う小屋組Bで、筋かいで補強することがあるが基本的に不要。)

 

各種束立て組:「小屋組各切断圖日本家屋構造 斎藤兵次郎著より 明治37年発行                (ゴシック体は編集によります。)

「梁間大にして束の長さを要する場合には、二重或(あるひ)は三重梁を二母屋づヽあがりて仕掛(しか)くるものとす。」

「束の間を結束し、且つその湾曲するを防ぐため(つな)ぎ梁又は小屋貫を使用す。」 

「全て小屋組は京呂組よりも折置を採用するを可とす、然(しか)れども折置は天井下、則(すなわ)ち小壁を低くし、且(か)つ軒先に梁木口を表出する故(ゆえ)、町家(ちょうか)にありては多く之(こ)れを用いらざれども其(その)堅牢(けんろう)なる事は決して京呂の比(たぐい)に非(あら)ざるなり。」

 

屋根形状と必要部材

切妻屋根(二重梁タイプ)構成部材:軒桁小屋梁二重梁小屋束母屋棟木垂木 

 

寄棟屋根(二重梁タイプ)構成部材:軒桁小屋梁二重梁飛び梁隅木屋束母屋棟木垂木

 

入母屋屋根(二重梁タイプ)構成部材:軒桁小屋梁二重梁飛び梁隅木小屋束母屋棟木垂木 

 

参考事例 束立(和小屋)

豊田家(寛文2年:1662年)奈良県橿原市今井町   

2階室内に小屋梁が現れる厨子つし二階通し柱(計21本)で部屋境通りに架けた敷桁を受け、その上に部屋境は二等分、どまは三等分に割って小屋梁を掛け渡す(柱頭ほぞ:重ほぞ)。小屋束(14㎝前後)は梁行を八等分(約1200㎜)して建てる。(6.2×2.1㎝)は段違いで梁行は3段、桁行は4段で束ごとにくさび締め。 重要文化財豊田家住宅修理工事報告書より 

   

梁行・桁行断面 小屋部分架構図  写真は日本の民家 町屋Ⅱ(学研)より 図中の文字・着彩は編集によります。 

 

     

小屋部分架構図                               豊田家  どま 1間ごとに小屋梁が架かる         どま見上げ  牛梁小屋梁を受ける 

 

 

高木家(1800年代前半) 奈良県橿原市今井町

通し柱(計32本)で部屋境に架けた小屋梁を受け、柱の頭ほぞを重ほぞにして敷桁も受ける。小屋束(径11㎝)は、梁行を10等分に して建てる。は梁行・桁行ともに3段。重要文化財高木家住宅修理工事報告書より

  

梁行・桁行断面図  断面図写真は日本の民家 町屋Ⅱ(学研)より 図中の文字・着彩は編集によります。

     

架構図   重要文化財高木家住宅修理工事報告書より    にわ見上げ         

 

 

2)軒桁と小屋梁 

① 小屋梁の配置は、@基準柱間1間*折置組の場合には1間ごとに柱が必要)。 2m前後の任意の数字、関東では1間=6尺:1,818㎜、京間では6尺5寸程度。

② 軒桁材は長尺材を使うため、継手~継手間は、中途の管柱を支点とする連続梁と見なせる

継手が鎌継ぎ蟻継ぎのとき。追掛け大栓継ぎのときは、継がれた材全体が1本ものとほぼ同じになる。

折置組の軒桁:通常、管柱の位置に置く。柱間隔=基準柱間と同じ1間。軒桁は垂木を経て屋根荷重を分散的に受ける。

京呂組の軒桁管柱は基準柱間の1~2倍位置に置く(中間の柱を省く)。間隔は桁断面次第。軒桁は、を経て屋根荷重を集中的に受ける。下部に柱がない個所では、折置組に比べて軒桁には大きな力(桁を曲げようとする力)がかかる。

軒桁の断面は、京呂・折置の別、軒桁への梁の架け方(次項参照)、屋根の荷重(屋根材の種類、積雪量)、軒桁のスパンを勘案して決める。

以下の説明では、関東に多い1間=6尺(≒1818㎜)で記述。

軒桁の最小断面寸法例(経験値)材種 マツ米マツ 

③ 小屋梁の梁間(スパン)は、平角材使用の場合は、一般に、2.0~3.0間(3,636㎜~5,454㎜)程度、マツ丸太マツ太鼓落とし使用で3~4間(5,454㎜~7,272㎜)程度までとする。

また、下部に柱が立つ箇所(間仕切となる箇所など)の小屋梁は、太鼓落としではなく平角材使われる(梁を受けるすべての柱を同じ長さにできる)

梁の断面は、梁の間隔(通常は1間:1,818㎜間隔)、屋根荷重(屋根材の種類、積雪量)により決める。

平角材小屋梁の最小断面寸法例(経験値)材種 マツ、米マツ 幅4寸(12㎝)の場合(成:荷重小~大)

 マツ太鼓落としの断面例(幅4.5寸:13.5㎝)

丸太太鼓落としの場合、末口寸法が同じでも、長さが長いほど平均断面は大きい。末口、長さが同じ場合、丸太の方が太鼓落としより、曲げに対する強度は大きい。

小屋架構の墨付けは太鼓落としの方が容易である(丸太は、墨付けのために、材の使用軸の設定を必要とする)。

 

梁間が2~2.5間(3,636~4,545㎜)を越えるときは、一般に建物中央付近に桁行方向の敷桁(しきげた)敷梁しきばり中引梁なかびきばりなどとも呼ぶ)を設け、梁を継ぐか受ける。

敷桁には通常平角材が使われ、軒桁天端同高とし、軒桁同様1~1.5間(1,818~2,727㎜)程度ごとに柱で支える。(平角材を容易に得られなかった時代には、敷桁にも丸太材が使われた。)

⑤ 間仕切(まじきり):壁の上部には壁の納まりのために受け材が必ず必要。その位置に小屋梁、敷桁がない場合には別途間仕切を設けなければならない。間仕切桁には、通常、角材または平角材が使われ、軒桁・敷桁天端同高で納める。小屋組材小屋梁敷桁)が間仕切桁を兼ねることができれば最良。

小屋組の計画では、階下床組との整合性の検討が必要(階下床組、平面:間取りの再検討が必要となる)。

 

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