PDF「第Ⅵ章 軒桁まわりと小屋架構」5.合掌方式まで A4版18頁
Ⅵ 軸組を組む:軒桁まわりと小屋架構
1.屋根の形状と小屋架構
小屋架構の方式は、「束立(和小屋)」「トラス(洋小屋)」「登り梁」「合掌」に大別できる。
小屋架構の方式により、屋根の形状も自ずと決まる。(△は、可能だが仕事が面倒。)
方形:ほうぎょう
束立(和小屋)方式は、上表に示すように、屋根形状の自由度が高い。
わが国の場合、当初の小屋組は大部分が合掌であるが、徐々に束立の和小屋組に変わる。
和小屋組の採用により、複雑な形状の屋根も可能になる (例:桂離宮など書院造の建物の屋根)。
桂離宮 古書院:1615年頃、中書院:1641年頃、1650年頃までに別荘として完成。新御殿は1662年頃の竣工。
八条宮智仁親王、智忠親王二代によって造営。新御殿は後水尾院を迎えるために増補。
写真左:中央右、池に向かって建つ古書院、雁行形に中書院、(楽器の間)、新御殿 日本の美術№79
写真右:手前は古書院 竹簀の子(たけすこ)張りの月見台 日本の美術№201(至文堂)より
平面図 各図は桂離宮御殿整備記録 図面編(宮内庁)より 図中の文字は編集によります。 古書院 桁行断面図(小屋組の筋交いは修理時の際に追加)文字は編集によります。
桂離宮の屋根と小屋伏図 航空写真から屋根のみトレース 囲んだ部分が右の小屋伏図 増築を重ねたため、谷が多く、雨仕舞が難しい。
小屋の架構は、単に屋根の荷重を支えるだけではなく、軸組頂部を固める重要な役割を持つ。
また、すべての部材が組み上がれば、切妻屋根は逆V型の形状、寄棟・入母屋・方形屋根は逆舟型の形状になる。構成部材相互が確実に組まれていれば、立体として外力を受けることになり、きわめて強固になる(各種の継手・仕口が考案された一つの理由⇒接合が簡易であると、立体として働かない)。
洋の東西を問わず、古来、立体形状のもつ力学的な特性が活用されてきたが、日本では現在、特に木造建築では、活用されることが少なくなった。
2.束立(和小屋)組方式
構成部材:軒桁・小屋梁・小屋束・(二重梁・つなぎ梁・貫)・母屋・棟木・垂木
通常、軒桁・小屋梁材にはマツまたは米マツ等の曲げに強い材で、軒桁には平角材、小屋梁には平角材・丸太・(丸太)太鼓(たいこ)落としが使われる。
軒桁と小屋梁の組み方 折置(おりおき)組(下梁置):先ず柱上に小屋梁を架け、次いで軒桁を架ける。小屋梁ごとに柱が必要。
京呂(きょうろ)組(桁露) :先ず柱上に軒桁を架け、次いで小屋梁を架ける。柱の位置は軒桁の断面次第で任意。
小屋梁の特性 :小屋束を通じて屋根の荷重を受けるため、曲げの力がかかる。梁材の長さには限界があり、梁間が大きいときには、敷桁(しきげた)、敷梁(しきばり)、中引梁(なかびきばり)などと呼ばれる受け材を中途に設ける必要が生じる。
1)束立(和小屋)組の構成
束立組は、切妻・寄棟・方形(ほうぎょう)・入母屋(いりもや)のどの屋根形状にも対応できる。
束立組の基本:小屋梁上に据えた小屋束で母屋・棟木を支え、棟木・母屋・軒桁間に垂木を掛け三角断面を形成する(寄棟、方形、入母屋は、いずれも中央部では三角断面)。 小屋組の組み方は、次の形式に大別でき、梁間に応じて適宜選択する。
梁間が大きいとき、小屋束が高くなるため、小屋梁より上の位置に、更に2段以上梁を設ける二重梁の方法。
二重梁の位置が高いときは、外側の小屋束に向かって、つなぎ梁を設ける(下図「小屋組各切断圖」参照)。
桁行方向は小屋束と棟木・母屋だけで構成。桁行方向の変動に対しては、小屋束と母屋・棟木で組まれる架構と、屋根面の剛性で耐えることになり、束と母屋・棟木の仕口、母屋・棟木の継手の選択が重要になる。
小屋束だけで母屋・棟木を受ける。
小屋束相互を固めるために、桁行・梁間両方向に小屋貫で小屋束を縫い、楔くさびで締める。貫の段数は棟高次第。 小屋組は、強固な立体となる。Aとの併用も可能。
小屋束だけで母屋・棟木を受け、小屋束の動きを防ぐため、梁間・桁行両方向に筋かいを釘打ち。簡単なため多用されるが、長期にわたり耐力を望むことは難しい。
通常、小屋組の建て方では、母屋据付け時点までは小屋全体が揺れるが(特に桁行方向)、垂木を掛け、野地板を張るにつれて、立体が構成されるため、揺れなくなる。(束相互を貫で縫う小屋組Bで、筋かいで補強することがあるが基本的に不要。)
各種束立て組:「小屋組各切断圖」日本家屋構造 斎藤兵次郎著より 明治37年発行 (ゴシック体は編集によります。)
「梁間大にして束の長さを要する場合には、二重或(あるひ)は三重梁を二母屋づヽあがりて仕掛(しか)くるものとす。」
「束の間を結束し、且つその湾曲するを防ぐため繋(つな)ぎ梁又は小屋貫を使用す。」
「全て小屋組は京呂組よりも折置を採用するを可とす、然(しか)れども折置は天井下、則(すなわ)ち小壁を低くし、且(か)つ軒先に梁木口を表出する故(ゆえ)、町家(ちょうか)にありては多く之(こ)れを用いらざれども其(その)堅牢(けんろう)なる事は決して京呂の比(たぐい)に非(あら)ざるなり。」
屋根形状と必要部材
切妻屋根(二重梁タイプ)構成部材:軒桁、小屋梁、二重梁、小屋束、母屋、棟木、垂木
寄棟屋根(二重梁タイプ)構成部材:軒桁、小屋梁、二重梁、飛び梁、隅木、小屋束、母屋、棟木、垂木
入母屋屋根(二重梁タイプ)構成部材:軒桁、小屋梁、二重梁、飛び梁、隅木、小屋束、母屋、棟木、垂木
参考事例 束立(和小屋)組
豊田家(寛文2年:1662年)奈良県橿原市今井町
2階室内に小屋梁が現れる厨子つし二階。通し柱(計21本)で部屋境通りに架けた敷桁を受け、その上に部屋境は二等分、どまは三等分に割って小屋梁を掛け渡す(柱頭ほぞ:重ほぞ)。小屋束(14㎝前後)は梁行を八等分(約1200㎜)して建てる。貫(6.2×2.1㎝)は段違いで梁行は3段、桁行は4段で束ごとに楔くさび締め。 重要文化財豊田家住宅修理工事報告書より
梁行・桁行断面 小屋部分架構図 図・写真は日本の民家 町屋Ⅱ(学研)より 図中の文字・着彩は編集によります。
小屋部分架構図 豊田家 どま 1間ごとに小屋梁が架かる どま見上げ 牛梁が小屋梁を受ける
高木家(1800年代前半) 奈良県橿原市今井町
通し柱(計32本)で部屋境に架けた小屋梁を受け、柱の頭ほぞを重ほぞにして敷桁も受ける。小屋束(径11㎝)は、梁行を10等分に して建てる。貫は梁行・桁行ともに3段。重要文化財高木家住宅修理工事報告書より
梁行・桁行断面図 断面図・写真は日本の民家 町屋Ⅱ(学研)より 図中の文字・着彩は編集によります。
架構図 重要文化財高木家住宅修理工事報告書より にわ見上げ
2)軒桁と小屋梁
① 小屋梁の配置は、@基準柱間1間*(折置組の場合には1間ごとに柱が必要)。 *2m前後の任意の数字、関東では1間=6尺:1,818㎜、京間では6尺5寸程度。
② 軒桁材は長尺材を使うため、継手~継手間は、中途の管柱を支点とする連続梁と見なせる*。
*継手が鎌継ぎ、蟻継ぎのとき。追掛け大栓継ぎのときは、継がれた材全体が1本ものとほぼ同じになる。
折置組の軒桁:通常、管柱は梁の位置に置く。柱間隔=基準柱間と同じ1間。軒桁は垂木を経て屋根荷重を分散的に受ける。
京呂組の軒桁:管柱は基準柱間の1~2倍位置に置く(中間の柱を省く)。間隔は桁断面次第。軒桁は、梁を経て屋根荷重を集中的に受ける。下部に柱がない個所では、折置組に比べて軒桁には大きな力(桁を曲げようとする力)がかかる。
軒桁の断面は、京呂・折置の別、軒桁への梁の架け方(次項参照)、屋根の荷重(屋根材の種類、積雪量)、軒桁のスパンを勘案して決める。
以下の説明では、関東に多い1間=6尺(≒1818㎜)で記述。
軒桁の最小断面寸法例(経験値)材種 マツ、米マツ
③ 小屋梁の梁間(スパン)は、平角材使用の場合は、一般に、2.0~3.0間(3,636㎜~5,454㎜)程度、マツ丸太・マツ太鼓落とし使用で3~4間(5,454㎜~7,272㎜)程度までとする。
また、下部に柱が立つ箇所(間仕切となる箇所など)の小屋梁は、太鼓落としではなく平角材が使われる(梁を受けるすべての柱を同じ長さにできる)。
梁の断面は、梁の間隔(通常は1間:1,818㎜間隔)、屋根荷重(屋根材の種類、積雪量)により決める。
平角材小屋梁の最小断面寸法例(経験値)材種 マツ、米マツ 幅4寸(12㎝)の場合(成:荷重小~大)
マツ太鼓落としの断面例(幅4.5寸:13.5㎝)
丸太、太鼓落としの場合、末口寸法が同じでも、長さが長いほど平均断面は大きい。末口、長さが同じ場合、丸太の方が太鼓落としより、曲げに対する強度は大きい。
小屋架構の墨付けは太鼓落としの方が容易である(丸太は、墨付けのために、材の使用軸の設定を必要とする)。
④ 梁間が2~2.5間(3,636~4,545㎜)を越えるときは、一般に建物中央付近に桁行方向の敷桁(しきげた)(敷梁しきばり、中引梁なかびきばりなどとも呼ぶ)を設け、梁を継ぐか受ける。
敷桁には通常平角材が使われ、軒桁と天端同高とし、軒桁同様1~1.5間(1,818~2,727㎜)程度ごとに柱で支える。(平角材を容易に得られなかった時代には、敷桁にも丸太材が使われた。)
⑤ 間仕切(まじきり):壁の上部には壁の納まりのために受け材が必ず必要。その位置に小屋梁、敷桁がない場合には別途間仕切桁を設けなければならない。間仕切桁には、通常、角材または平角材が使われ、軒桁・敷桁と天端同高で納める。小屋組材(小屋梁、敷桁)が間仕切桁を兼ねることができれば最良。
小屋組の計画では、階下床組との整合性の検討が必要(階下床組、平面:間取りの再検討が必要となる)。