第Ⅰ章 3.日本の建物の寸法体系

2020-04-22 13:39:33 | 木造軸組工法の基本と実際:概観・寸法体系

3.日本の建物の寸法体系

1)尺・寸による寸法体系

日本の建築工事では、長い歴史を通じ、「(しゃく)(すん)・(ぶ)(りん)という寸法体系を編み出し、用いてきた。1尺≒303㎜、1寸≒30.3㎜、5分≒15㎜、1厘≒3㎜メートル法の使用が義務付けられている現在でも、木工事では尺表示が使われることが多い。

これは、1寸:約3センチ1尺:約30センチが基準となる寸法体系である。

たとえば、通常の1間は6尺(1,818㎜)、敷居~鴨居間内法寸法6尺1,818㎜)あるいは5尺8寸、天井の高さはおよそ8尺(2,424㎜)など、建物の基本寸法が単純明快な数字で指示される。

住宅の場合、関東では1間=6尺(通称「江戸間」または「関東間」)、関西では1間=6尺5寸(通称「京間」)が用いられることが多い。ほかにも、地域によって異なる寸法が柱間単位として用いられており、また、建物により任意に設定することもできる(大規模の建物で標準柱間を9尺とする、など)。メートルグリッドを用いることも可能。ただし、木材の「規格寸法」に留意する必要がある。注 「京間」では、畳寸法を6尺3寸×3尺1寸5分として柱~柱の内法を畳枚数で決める場合もある。

間に満たない寸法に対しては、1間の1/2、1/3、1/4、1/5、1/6・・・を用いるのを通例とする(工事がしやすい)。

また、管柱の長さは10尺(3,030㎜)、通し柱の長さは20尺(6,060㎜)、柱の太さは4寸(120㎜)角、5寸(150㎜)角、「柱のほぞ」の幅は1寸(30㎜)、「腰掛け鎌継ぎ」の鎌の長さは4寸など、木材の材の長さと加工に関してもきわめて分かりやすい寸法表示が可能である。

現在用いられている多くの建築材料も、大半が尺寸法による規格をメートル寸法に読み替えたものである。

柱材:3mもの←10尺(9.90尺)、 4mもの←13尺(13.20尺)、6mもの←20尺(19.80尺)   合板の大きさ:構造用合板、耐水ベニヤ:910㎜×1,820㎜ ← 3尺×6尺:通称「サブロク判(版)」など  なお、北米等の国外産材には4ft×8ftが多い(メートル換算:約1,200㎜×2,400㎜)。

また、この寸法体系に基づく「指金(さしがね)かね尺」と呼ばれる定規が生み出され、通常の加工場では、現在もこの定規を使って、各部材に「墨付け」を行い「刻み」を行っている。 現在では、ミリの指金も使われているが、加工現場では、ミリ単位で木材の加工を行う場合と、尺に換算し直す場合の二様ある。プレカットの機械も両方に対応している。

  

2)「指金(さしがね)」の使用

指金(さしがね)には表目盛りと裏目盛りがあり、表は尺寸法が、裏には平方根の目盛りが刻まれている。この表裏の目盛りを使い、採寸はもとより、直角・勾配・円周等、墨付けに必要な寸法取りが可能である。

また、指金の幅5分(1/2寸≒15mm)にできており、これも寸法取りに多用される。たとえば土台に「柱のほぞ穴」を墨付けする場合、土台の芯墨に指金をあてて両側に一枚分(5分+5分 ≒30m)を記せばほぞの幅が指示される。

一般に墨付けは材芯からの振り分け寸法で指示する設計図の作成も、この点に留意する必要がある。

 

尺とメートルの換算:一般に、1間=6尺=1,820㎜とすることが多いが、正確ではない。

1尺=10/33m≒303㎜1間=6尺≒1,818㎜である。木工事は、通常現在でも、指金で施工し、大工職は1,820㎜の指示を6尺と読み替えることが多い。一方、基礎工事は「メートルものさし」で1,820㎜の指示どおり施工するから、1間につき2㎜の誤差を生み、現場での混乱の原因となることがある。正確な指示が必要。

参考文献:大工さしがね術 理工学社

 

3)木造軸組工法における「通り番付」

木造軸組工法は、まず、縦材(柱)と横材(梁など)を立体格子状に組み上げることにより必要な空間の骨格を造り、できた骨格の間に壁や開口部を充填する構築方法である。

それゆえ、通常加工現場では、この骨格を構成する材を適切に配置するために、900~1000mグリッドに整理・調整を行う。 関東では通常3尺格子に通り番をつけることが多い。番付と呼ぶ。

木造の通り番付の付け方:梁間を「いろは・・・」の平仮名、桁行を「一二三・・・」の和数字、または梁間を「一二三・・・」、桁行を「いろは・・・」とする。 尺(909㎜)のグリッドであることが多い。

グリッドからはずれた通りの表示は、「ろ又一」、「四又一」の如くに指示する。

番付ふりには、右から左・図面下部からふって行く「上り番付」と左から右・上部からふる「下り番付」があるが、施工者によって異なるので、可能ならば、事前に確認を取る。 大工職は、設計図に示された番付が、自分の慣れている付け方と異なっている場合、通常、読み替えを行っている。

番付の起点は、敷地の方位、道路位置との関係などによって決められる場合もある。たとえば、建物の鬼門(北東)の方角を「い一」としたり、取り付き道路に立って右手あるいは左手手前を「い一」としたり、多様である。

「JIS製図法」にしたがい、X1、X2・ ・、Y1、Y2・・と付ける方法もあるが、実際的ではない。部材には交点の符号が記されるが、「X2・Y5」等と記すよりも「ろ五」と記す方が簡便で明瞭だからである。

柱の各面の呼び名は、奥が「」、手前が「」および「右、左」である。この呼称は、柱に取り付く水平材(胴差や梁)の端部にも記される。

  

右図 「水盛遣形仕方」 日本家屋構造 より 明治37年発行「方形造りの建物は其両端の束及母屋等は三尺間になすが故に番號も亦三尺毎に付すものとしるべし」 

参考文献:棟梁に学ぶ家 木造伝統工法 基本と実践 彰国社

 

4)内法(うちのり)寸法

垂直方向に対しても、高さの基準を設けるのが一般的で、室の出入口の開口高さ:内法の高さを室内空間の垂直方向の基準寸法としてきた。

書院造では[切目長押上~内法付長押下]を内法高さとするが(下図参照)、現在は一般に敷居上~鴨居下]。

真壁・軸組工法では、内法高さを一定にすると、壁面の構成が容易になり、また安定感が生まれる付長押は、それをさらに強調するため重用されたものと思われる。

出入口以外の開口:窓も、内法上端(鴨居の下端)からの下がりで決めるのが一般的で、下がり寸法に応じた開口部の呼称がある。 

下がり2尺程度(開口内法2尺)まで:「小窓(こまど)」、下がり2尺~4尺程度(開口内法2~4尺):腰高窓(こしだかまど)高窓)」、下がり4尺~5尺程度(開口内法4~5尺):「肘掛(ひじかけ)

内法寸法として、従来、5尺7寸(1727.1㎜)、5尺8寸(1757.4㎜)などが用いられてきた。これは、当時の標準的な身長から設定されたものと思われ、現在ではやや低い。また、内法(鴨居)より上の小壁に欄間(開閉可能)を設けることも、一般に行われてきた。

かつては地域ごとに木製の規格建具が、内法寸法に応じて生産されていた。住宅用規格アルミサッシでも、従来の木造建具を踏襲し、内法寸法で5尺7寸~6尺1寸前後まで対応した製品が用意されている。(小窓、腰高窓、肘掛窓、欄間付窓、欄間付掃き出し:テラス戸等。 ← 「欄間付」の利用が最近減っている)。

 

[切目長押上~内法付長押下] 書院造 園城寺 光浄院 客殿 1601年建立

 

    

室内床面との段差切り替えに設けられる材を切目長押(きりめなげし)と呼ぶ。建具は、外側の切目長押~内法付長押間に蔀戸(しとみど)、内側は、敷居~内法付長押間に明り障子を入れる。

カラ―写真 原色日本の美術12(小学館)より  図・モノクロ写真 日本建築史基礎資料集成十六書院Ⅰより モノクロ写真は編集

 

「明治期の内法寸法」

平屋建住家矩計」:日本家屋構造 より 明治37年(1904年)刊行。 左の住家の内法寸法5尺8寸となっている。

 

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