第Ⅰ章 木造軸組工法概観・寸法体系

2020-04-22 13:40:00 | 木造軸組工法の基本と実際:概観・寸法体系

木造軸組工法の基本と実際             作成:下山 眞司

目 次(予 定)  Ⅰ 木造軸組工法概観・寸法体系 Ⅱ 矩計・木材について  Ⅲ 基礎設計  Ⅳ 軸組を組む:土台・1階床組  Ⅴ 軸組を組む:通し柱と2階床組  Ⅵ 軸組を組む:軒桁まわりと小屋組   Ⅶ 各部の納め1:屋根   Ⅷ 各部の納め2:壁   Ⅸ 各部の納め3:床・天井・開口部   Ⅹ 各部の納め4:玄関・和室・浴室等     

 

第Ⅰ章 木造軸組工法概観・寸法体系       PDF「第1章 概観・寸法体系」A4版1+10頁

1.現在の木造建築工法

わが国の建物は、日本の地域的特性ゆえに、木材特に針葉樹を主体に構築されてきた。

木材の特徴  ① 同種同寸の材でも、1本ずつ性質を異にする。  ② 乾燥材でも10~15%の水分を含み、かつ常に水分の吸・放出をくりかえすこれを維持させることが必要である)。  ③ 材の重さに比して強度がある(軸方向、曲げ、剪断それぞれに対して相応に)。これは樹木が自然環境に耐えつつ地上に立ち続けるために備わった性質である  ④ 弾力・復原力があり(③の性質の内の一つ)、かつ加工が容易である。 ⑤ ある条件の下では、容易に腐食する(立ち木は腐食しない)。  ⑥ ある条件の下では、燃えやすい。

また、地理的・地質的特性ゆえに、我が国では常に台風(大風と大雨)、地震に見舞われるので、日本の建物づくりでは、この地理的・地質的環境を十分にわきまえ、上記の材料の特徴に見合った構造とすることが必然的に求められてきた。 したがって、日本の木造建築の技術は、材の歪みや収縮に対して十分考慮したうえ、風雨にも地震についても常に対策の検討を加えつつ発展してきた。

 その建築工法は、具体的には、柱と横材によって外形:直材で直方体の骨組みを組み、屋根をのせ、柱間を充填して壁をつくる、いわゆる「軸組工法」である。

 

 この古来の工法に加え、第2次大戦後、新たな木造構築法(「2×4」、「ログハウス」)が加わり、現在我が国で行われている木造建築工法は、以下に大別できる。

 1)軸組工法(伝統工法)」 2)在来(軸組)工法」 「2×4」 「ログハウス」

 

1)「軸組工法」(江戸時代後期・明治までに体系化された日本の木造技術)

  土台・柱・梁といった部材を、材の接合部を刻み加工し、組み立てることによって立体格子を造る。実践・体験を通じて技術者:大工棟梁の手により培われ、江戸・明治期までにほぼ完成された体系にまとめられている。

  骨組を立体物としてとらえ、「継手・仕口」で組まれた骨組全体で外力や荷重に「耐える」こと(応力の部分への集中を避け、継手・仕口を経て全体に分散させること)を考えている。

 これは、木材が同種の材でも一本一本微妙に性質が異なり、また収縮や揺れをともなうため、部分で外力に耐えるよりも、組まれた全体で耐えることが有利であることを、幾多の経験で習得していたからであろう。したがって、接合部での補強金物の使用は、必要最低限となる。また、床や壁や屋根などの構成材も、すべて外力に抵抗する重要な部分として考えられていた。

 軸組を表さない大壁造りもできるが、一般的に構造体をそのまま意匠とする真壁造りが多い。したがって、設計~施工は以下のようになるのが普通である。

設 計:堅固で柔軟な架構体を考えると同時に、表し仕上げとする柱・梁等の位置、寸法等についての見えがかり面での検討も必要となる(立体骨組にかかる「力の流れ」を考える)。材端部の「継手・仕口」の指示建て方の順序の検討を行うことが望ましい。 そのための表示手段としては、「矩計図」および各「伏図」が最も重要である。造作の検討は、軸組によって寸法(特に平面方向)がある程度決定されているため、鴨居高や天井高等の縦方向寸法の指示と部分的な詳細の検討のみとなる。

矩計 例                         伏図 例  (各章にて解説)

 

木 材:特に真壁造りでは架構体が仕上がり(見えがかり)でもあるので、見える部分ではある程度の材の選択が必要となる。関東地方では、柱は105㎜(3.5寸)角以上:一般的には120㎜(4寸)角:を用いるのが普通で、総じて骨組に要する材木量は多くなるが、その分、造作材の量は減る。

施 工:軸組を組み上げるまでの加工場での「材の刻み」に多くの時間を必要とする。建て方」も40坪程度の住宅で3~4日必要となる。継手・仕口で組立てることによって上棟時には自ずと水平・垂直が確保され、架構体としてもほぼ安定する(仮筋かいなどで支持する必要はほとんどない)。 上棟後の作業は、まず初めに屋根が架けられ、次いで造作、壁工事が行われる。柱・梁等がそのまま意匠となることが多いので、造作の仕事量は多くはない。

手 間:仕事の程度を示す方法に、「1坪(あるいは1㎡)に対して何人手間」という表現がある。軸組工法の場合は、軸組を最大限に表して最も簡素な造作の場合で、木工事は1坪に対して6人手間程度以上となる(軸組加工4人~、屋根野地・造作2人~)。

 

参考 [二階屋のはじまり]

豊田家住宅:寛文2年(1662年)奈良県橿原市今井町  

  

通り側の概観                         みせ 通り側開口 

 

      

 どまからみせ(左手)東なかのま見る          どまの通り側・大戸口を見る

 

 

1階・2階平面図                          架構図

 

桁行断面図                        十二通り差鴨居分解図

 

 桁行断面図部分

写真・図共に 日本の民家6 町屋Ⅱ(学研)より:豊田家住宅修理工事報告書 

 

17世紀中頃の建設。通し柱を1間半~2間ごとに立て、鴨居位置に成の大きい差鴨居を確実な仕口で組込んでいる。現在のような胴差を継いで2階管柱を立てることは、まだ行われていない。土台も用いられておらず、礎石立てである。

「い、ほ、と・・・・」の平仮名番付側が通りに面し南面であるが、東面は、通し柱を4尺~4.5尺ごとに立て、上下5本のが通されている。小屋組は、桁行方向2列に架けた敷桁が柱間を均等に割った6筋の小屋梁を受け、小屋束が整然と立てられ、小屋全体を堅固なものとしている。

差鴨居の上にを立て、根太掛けをかけて2階床板を張っている。2階は天井が低く、「厨子(つし)二階」と呼ばれ(2階室内には小屋梁が飛ぶ)、現在の「本二階(天井が高い)」になる前の架構である。2階の床は、同時に1階の天井でもあり、踏み天井根太天井とも呼ばれる。             

                           

2)「在来工法」(元来の軸組工法を改変した木造工法)

近年最も一般的に行われている木造構築方法で、明治以降奨められ、建築基準法で規定されている工法である。現在使われている「在来(軸組)工法」の「在来」という語は、第2次大戦後、外国、特に北米から導入された「2×4工法(枠組工法)」などと区別するために付けられた。 この工法は、軸組を、外力に耐える部分(耐力部)耐えない部分(非耐力部)とに二分して考え、その耐力部分を「面」として捉え、「面」を補強することを主眼とするのが特徴(部分の足し算で全体を考える考え方)である。いわば、面材で構成する工法と言った方がよい。耐力部分(面となる部分)には、筋かいを用いるのが一般的である。筋かいを設けるにともない、水平外力によって材端部分に応力集中(柱に生じる引き抜きの力など)が起きるが、それに耐えるため、金物による補強が必要になる(元来の「軸組工法」では、水平力によって柱に引き抜きの力がかかることは少ない)。

多くの場合は、構造体と意匠・造作工事が切り離して考えられる。まず骨組を造り、その骨組に化粧材・壁材が取り付けられる。筋かいや金物が多用されるため、外部内部ともに大壁仕様にすることが多く、真壁風に仕上げる場合は付柱や付梁を構造材に取り付けることもある。

設 計:骨組については、柱・梁等の位置が図面に簡単に記され、材端部の加工・金物などについては現場の裁量に委ねられることが多い。耐力部とみなす壁の設定(壁量の設定)が重要となる。大壁仕様の場合、造作関係の図面は、外部内部とも、平面方向・縦方向多数必要。

木 材:骨組み材は化粧仕上げを施していない材(野物のものを使用。通常、柱は105㎜(3.5寸)角以下で、骨組み材の材積は「軸組工法」に比べ少なくなるが、造作材量は多くなる。

施 工:施工期間は、材の加工・建て方等、「軸組工法」よりも短時間で行われる。上棟時、骨組みだけでは自立せず揺れやすく(そのため仮筋かいを多用する)、構造体として比較的安定するのは、床板・野地板を張ってからとなる場合がある。「建て方」終了後、水平・垂直の確認作業を必要とし、その後金物の固定が行われる。金物部分は経年変化によって緩むことが多いが、内部が見えない仕様の場合が多く、保守管理が難しく、構造体全体に緩みと変形が生じやすくなるので注意が必要である。 見えがかりとなる内外壁・造作工事には多くの注意が払われる。

手 間:木工事の手間は、最も簡便な場合は3人手間/坪くらいからとなる(軸組加工・野地0.5人、造作2人~)。

 

近年行われている木造の建築方法は、上記の「軸組工法」と「在来工法」が混在したものである場合も少なくない。たとえば、茨城県下の農家の場合、内部を柱の見える真壁として、構造体の一部でもある「差鴨居(鴨居の成が大きい。幅105mx成105~180~300m)」を「仕口」で柱に差し込む。外部は大壁の場合が多く、柱・梁等の接合部等の隠れてしまう部分では、補強金物が使用されている。

このテキストでは、上記の「軸組工法」と「在来工法」の両方、つまり「元来の軸組工法の原理・考え方」をあらためて見直し、法規等により規定され推奨されている「在来工法」をも含め、木造建築をより確実なものとする方向で考えて行く。

 

2.木造軸組工法の部位と名称

現在の木造軸組工法の一般的な工程、施工は以下通り。

[基礎]→[軸組]→ [小屋組] → [屋根葺き] → [床組] → [壁・造作]

    

            「PDF5,6頁」に掲載しました。 ブログ記事としては省略させていただきます。

 

 

トラス梁 建築学講義録 瀧大吉著 明治29年発行

 

(「3 寸法体系」に続きます。)

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