赤穂事件 怒りの新井白石
荻生 徂徠 (幕府大老格仕え儒学者)
「これは、これは」
「先生」
「何の御用で御座いますか」
新井 白石 (甲府徳川家仕え儒学者)
「んんゥ」
「其方は、朱子学を批判しておるそうじゃな」
荻生 徂徠
「いやいや」
「実践的な儒学で御座る」
「情などという
あやふやで不確実な感情を体系付けても
学問としては意味が御座いません」
「儒学もまた進化するので御座います」
新井 白石
「退化しておるのではないのかな」
「情と仁を区別するのは何故じゃ」
荻生 徂徠
「いやいや」
「これは、参りました」
「降参、降参」
「仰せの通りで御座る」
「流石、天才と目された
白石様に御座います」
新井 白石
「ふン」
「何が降参じゃ」
「儂は、まだ何も申してはおらんぞ!」
荻生 徂徠
「ほォ・・」
「何の御用で・・」
新井 白石
「勘定吟味役(荻原 重秀)は
貨幣改鋳で劣悪な小判を流通させた」
「金持ち共は
旧小判を蔵に隠して大儲けしておるぞ」
荻生 徂徠
「あいャヤー」
「お耳が早い」
「しかし、
大老格には評判で御座る」
「幕府の財政は大いに潤いましたぞ」
新井 白石
「金持ちが潤い
貧乏人は飢えておる」
荻生 徂徠
「ほォー」
「左様か?」
「しかし、
江戸市中に飢えた者など見かけませんなァ?」
新井 白石
「貧乏人は飢えて死んでおる」
「見かけないのは
死んでおるからじゃ!」
荻生 徂徠
「左様か」
「んんゥ」
「金持ちだけが生き残るのでは
世も末じゃな」
「よくよく調べてみなければ為らぬな」
新井 白石
「諸国全般を隈なく調べる必要がある」
荻生 徂徠
「あいャヤー」
「それは、無理じゃ」
「諸国全般、生類憐みの令で忙しい」
「いやいや、手が回らん」
「悪いが、先生が
調査してくれんか」
「検分結果を吟味したい」
新井 白石
「金持ちの金蔵を調べるが良い」
「旧小判がうず高く積まれておる筈じゃ」
荻生 徂徠
「左様か?」
「しかしねェ」
「某が踏み込んで
調べる訳にもいかんからなァ」
「目付にでも申し伝えておきましょうか?」
新井 白石
「お主は、大老格に仕えておるのじゃろーが」
「左様な検分など容易い筈じゃぞ」
「庶民は価値のない小判で
高い買い物をさせられておる」
荻生 徂徠
「いやいや」
「幕府は、改鋳小判で大儲けですぞ」
「将軍様もお悦びに御座いますぞ」
新井 白石
「んんゥ」
「荻原重秀は隣町の凡蔵 小僧であった」
「たいした学識も持たぬ
馬鹿者じゃぞ」
「其方が、戒めよ!」
荻生 徂徠
「いやいや」
「某は、荻原重秀様の足元にも及びません」
「お教え願う立場に御座る」
「いやいや」
「これは、参りました」
新井 白石
「将来、儂は
荻原重秀と対決する事になる」
「その時、其方は何方の味方となる?」
荻生 徂徠
「某、実践主義ですぞ」
「その時、その情勢を見極めて
的確に判断致す」
「敵、味方などと区別してはおりません」
「先生は天才ですから
某の味方など必要は御座いませんが
もしも、必要とあらば
微力なれど力添え致します」
新井白石は豪商の角倉了仁から「知人の娘を娶って跡を継がないか」と誘われたり、河村通顕から「当家の未亡人と結婚してくれれば3000両と宅地を提供する」という誘いを受けたりしたが、好意に感謝しつつも、「幼蛇の時の傷はたとえ数寸であっても、大蛇になるとそれは何尺にもなる」という喩えを引いて断ったという逸話がある。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
新井 白石
「儂は、貧乏ではあったが
大儀大道の志で精進して参った」
「儂を誘った豪商やら金持ち共に
屈することはなかったのじゃぞ」
「これが、儂の生き方じゃ」
「今、貧乏人が苦しみ
金持ち共は、私腹を肥やしておる」
「荻原重秀は金持ちを優遇しておるのじゃぞ」
「儂は、荻原重秀の政策の誤りを正したい」
荻生 徂徠
「それは、それは
立派な志で御座る」
「徂徠、感服致しました」
新井 白石
「お主は、世渡りがうまそうじゃな」
「その臨機応変は見習う価値がある」
荻生 徂徠
「あいャヤー」
「またまた、一本取られやしたァー」
「先生の、お墨付きが
徂徠の要領の良さで御座るゥー」
新井 白石
「おもろい奴じゃな」
荻生 徂徠
「どうぞ、御贔屓に」
新井 白石
「あのなァ」
「立場は、其方の方が上じゃぞ」
「儂は、まだ幕府のから疎まれた存在じゃ」
「其方は、大老格に認められておる」
「儂の贔屓など意味があるまいに・・」
荻生 徂徠
「いえいえ」
「先生は、いずれ幕府の中枢に君臨致します」
「その時には、儂など虫けらと同じ」
「先生は、将来の幕府の参謀と為られるお方じゃ」
新井 白石
「よいよい」
「媚びるでない」
荻生 徂徠
「あっははは」
新井 白石
「おもろい奴じゃ」