「工員矢の如し」より。
第六十五回『テーマは「麺類」。蕎麦、うどん、そうめん、冷麦、ラーメン(即席ラーメン、カップラーメン)、焼きそば、冷し中華、パスタなど麺類にまつわる思い出、体験談。好きなメニュー嫌いなメニュー珍メニュー。麺類に対するこだわり。ご当地の名物の麺類。馴染みの店、行列のできる店。おすすめのレシピ。麺類が登場する小説、映画、漫画など。麺類を詠んだ俳句の鑑賞。などご自由にどうぞ。』
石川まゆみ◆ラーメンなら、映画「たんぽぽ」。ラーメンの食べ方を語る先生、加藤嘉の、焼き豚にかける言葉「あとでね」の声が、今でも忘れられない。また、広島名物お好み焼きに入れる焼きそばの麺は、個人的には少し太めが好み。それを、かりっと焼かれるのがおいしい。
半世紀以上も前、広島県北の三次に住んでいた時、父と町に行くといえば食事は大抵うどんだったが、麺が実に美味くなかった。おしゃれな店はなくて、なんだかいつも侘しい気持ちがしていた。晩年の父と鳴門海峡に行った時、名物の鳴門わかめうどんを注文したが、なぜかしら腹立たしく悲しい気持ちになった。それは多分、子どもの時の記憶のせいだったのか、と、今思い当たる。麺の恨みは長い…?
石橋いろり◆次男の小学校の総合学習の折、地域の郷土料理である武蔵野うどん作りをした。関東ローム層に覆われた武蔵野台地の小平には川がなく井戸だけだった江戸時代、羽村から新宿まで多摩川の水が引かれた。この玉川上水は江戸の飲み水確保が目的の為、取水制限があり、途中の水田を潤す事は叶わなかったため、米より小麦中心の主食文化となった。こうして武蔵野うどんが生まれ糧と呼ばれる茹で野菜と一緒に食するようになったのだ。麺は太く茶色がかってコシが強く、食感はゴツゴツした感じ。
うどん作りの当日。武蔵野うどん保存会の方にご指導を受けながら保護者も協力してうどん作りをした。体育館で綺麗な体操着に着替えた子ども達に予め計量された粉が渡され硬質ビニール|袋に詰めて、こしが出るまでよーーく踏んでこねた。まあ、粉っぽくなり、踏み固める音で体育館の中は大騒ぎ。その後、麺棒で伸ばして、包丁で切るまで一人ずつ行った。中には玄人はだしの麺に仕上げた子どももいた。個人差あり。調理室にはけずり節の出汁の香りが充満。母たちは野菜を茹で、ネギを刻んだりして汁作り。たまたま、役員をしていた方が大きなうどん屋さんで、なんと、お店の秘伝の汁を持参してくれ(多分、大将のご主人に内緒かと)、素人作とは思えないほどのいい味のうどんの汁に仕上がり、不格好に切られた太いうどんによくからんだ。是非はあるかとは思うが、格別に美味だった。子ども達も自分でこしらえたうどんに舌鼓を打ち、大満足のようだった。残った汁を保存会の方たちが宝物を扱うようにペットボトルに入れ持ち帰ったことも記憶に残っている。
この武蔵野うどんは、小金井市にある江戸東京たてもの園の東ゾーンにある〈蔵〉の人気メニューである。月曜休館。
伊藤幸◆麺と言って頭に浮ぶのは即、熊本ラーメン。同じ豚骨でも博多ラーメンとちと違いスープはあっさり。麺はシコシコ。幼い頃から慣れ親しんだせいかこれだけは他地に一歩も譲れぬというのが本音である。いうまでもなく「熊本味千ラーメン」は世界に羽ばたいているが まだまだ熊本にはそれを超えたラーメン屋さんが軒を連ねる。
「桂花」「こむらさき」「北熊」店の名を挙げればきりがない。
関東の醤油ベースのようにあっさりし過ぎず、福岡のとんこつのようにくどくなく、北海道の味噌仕立てほどの辛味もなく、熊本人には程よい加減なのである。
一度も口にした事のない方、是非召し上がってみて下さいな。
上脇すみ子◆絶品焼そばをつくるときの秘訣は、最初に、麵をキツネ色に焦げ目がつくほど焼きますとそれはそれは美味しくなりますよ。
使用する豚肉は、鹿児島の黒豚です。そのお肉を焼くときは、黒トリュフのような発酵黒ニンニクと一緒に炒めます。もやし、キャベツを炒めてソースをからめて最後に生姜を添えて戴きます。私は、お皿は藍色の唐草模様の六角形のものによそいます。お皿の模様も重要ですよ。
黒済泰子◆麺類の思い出を二つ。
学生時代、学外の仲間とよくスキーに行った。10数名のメンバーだったが、雪国育ちだったA君はその中でも上級者クラス。アイスバーンのコブコブも、足のすくむような急斜面も一気に滑り降りていた。不思議なのは彼の背にはいつも小さなナップサックがあったこと。それは滑降の激しい動きとともに右へ左へ、そして上下にひょこひょこ踊っていた。初めて見たときは「よほど大事なものが入っているのかしら?それにしてはずいぶん軽そうだし?」と思ったが、謎は昼食時に解けた。ゲレンデの食堂ではボリューム満点のカレーライスやラーメンが定番。A君はそんなメニューには目もくれず、ナップサックからカップラーメンを取り出した。そして食堂のダルマストーブにかけてある薬缶の熱湯をたっぷり注ぎ、さも美味しそうに食べ、汁まで全部飲みほした。「あんなに滑って、これだけで足りるの?」皆が抱いた疑問も、その後解けた。宿の朝食、夕食では傍目も構わず食べること、食べること・・。「その分は宿代に含まれているから」だそうだ。なんと冷やかされようと、そのスタイルをその後何年も貫いた。徹底した節約ぶりはバイト代を最大限生かし、一回でも多くスキーに行きたかったからだと。スーパーで山積みのカップラーメンをみると、あの頃を思い出す。
何年か前、銀座ソニービルに“紙包みスパゲッティ”の店があった。カウンターとテーブルが二つほどの小さな店で、若い女性シェフがひとりで、腕をふるっていた。―注文を受け、ひとり分ずつのパスタを縦長の茹で鍋の熱湯に入れタイマーをセット。茹で上がったものから、それぞれの注文に応じソースや具材と合せる。紙に包んでオーブンに入れて焼き上げる。―そんな一連の作業を次々と並行してこなしていく彼女の無駄のない動きはスムーズで美しかった。紙に包まれて焼きあがったスパゲティは熱々で、野菜や魚介の旨味や、香りが凝縮されていて絶品。久しぶりに行ってみようかとネット検索したが、見つからなかった。
清水恵子◆長野県で麺類というと、蕎麦を想像すると思います。でも、上田市民のソウルフードで、まず思い浮かぶのは、中村屋の肉うどん(馬肉うどん)と、福昇亭の五目焼そば(あんかけ焼そば)ではないでしょうか。独特の味だと思いますよ。
上田は今、大河ドラマ「真田丸」の影響で、たいへん賑わっています。観光などでお越しの際には、よかったら寄ってみてくださいね。どちらのお店も、上田駅から徒歩10分圏内にありますので。
白黒木子◆マレーシアに行った時にココナッツミルクのカレー風味のラーメンを食べて美味しさに感動した。
マレーシアは主にマレー系、インド系、中華系の民族がそれぞれの文化・宗教を認めあい共生している。そこでこそ生まれたこのラーメン。マレーのココナッツ、インドのスパイス、中華のラーメン、それぞれの良い部分が溶けあった見事な麺であった。
橋伸◆うどん供えて、母よ、わたくしもいただきまする 種田山頭火
このふたつの読点に滲む、母に寄せる何と純な祈りであることか。
その日の日記。「亡母四十七回忌、かなしい、さびしい供養、彼女は定めし(月並の文句でいへば)草葉のかげで私のために泣いてゐるだらう」。
なつはづき◆ラーメン好きで結構食べ歩きもしています。そんな私が今までで一番美味しい!と思ったラーメンと言えば…。
小学6年の時、家族で能登へ旅行したときに立ち寄ったドライブインで食べたラーメン。確か「のんきや」という色もそっけもないごく普通のドライブインの、ごくごく普通のラーメン。たまたま先日、弟と話していた時にこの話をしたら…「うん、あれは旨かった。俺とねーちゃんとオヤジはラーメンでさ。オヤジは大盛りで。お袋はひとりできつねうどん食ってたな」何でそんな細かいところまで覚えてるんだろう?小学生の味覚だったから美味しいと思ったのか、家族で食べたから美味しいと感じたのか。はたまたその能登の旅行が楽しかったからなのか…今となっては謎ですが、人生最強のラーメンは今でもこうやって弟と談笑できるネタなのです。
中村晋◆妻子が自主避難している山形県は、全国有数のラーメン県で、県内各地で独特のラーメン文化が栄えているんですよ。いちいち説明できないくらい多種多様なんですが、ひとつ独特なのは「冷やしラーメン」。冷やし中華ではありません。見た目は普通のラーメンのようですが、スープが冷たいんです。夏季限定かと思いきや、そうでもなく、年中注文できたりもします。そして、全般的に美味しいんです。山形に来たらぜひ一度お試しあれ。ちなみに、美容室では「冷やしシャンプー」というのもあるんですって。これは私も詳しく分からないのですが、要するに冷たいシャンプーのようです。笑。なんでも冷やす山形県でした。とはいっても、妻子の自主避難も今年3月で終わりです。さまざまな山形文化を知ることができて、世界が広がりました。山形の方々お世話になりました。またちょくちょく遊びに行かせて下さい。
山下一夫◆当方の郷里は長崎県佐世保市なのだが、ソウルフードはチャンポンである。よく佐世保のソウルフードは佐世保バーガーではないかと言われるが、あれは米軍向けの飲屋街で細々と作られていたものが近年町興し的に取り上げられて脚光を浴びただけ。当方が中高生の頃は全く知らず、ようやく地方に進出してきたロッテリアのハンバーガーをありがたがって食べていた。地元では一時のブームはとっくに下火になっている。
チャンポンの大御所は長崎だが、佐世保市民もチャンポンをこよなく愛している。レシピは店による差異ほどには佐世保と長崎とで差はないものの、長崎では山盛りの具の中に生卵を割落とすことが一般で、店にはたいてい生卵が笊に盛られて置いてあるが、佐世保ではそんなことはない。ただし、当方は卵入りが好きなので注文して入れることにしている。
長崎市民も佐世保市民もいつもチャンポンばかり食べていると飽きてくるので、時々皿うどんに食指を延ばす。ところがこの皿うどん、長崎と佐世保とで指示されるものが違う。長崎では、パリパリに揚げた細麺にチャンポン風の具材を餡で絡めたものを言うが、佐世保では、麺が柔らかく揚げた太麺である。見栄えがして安上がり、ビールの当てに格好なので、昔の飲み会では、三、四人前位を大皿に盛ったものがオードブル代わりに供されることもよくあった。
ちなみに、佐世保で長崎風の皿うどんは、焼きソバと言う。縁日で売っているのはソース焼きそば。佐世保風の皿うどんは、長崎では、柔らか麺の皿うどんと言う。観光客が入るような店では間違えないように表示に工夫がされているものの、地元民向けの小さな店では要注意である。