青山俳句工場05

俳句の今日と明日と明後日を語り合う。
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海程会賞受賞・特別作品20句+エッセイ/芹沢愛子

2016年02月06日 | 海程
   小鳥    芹沢愛子

 熊ん蜂どこかで絹の焦げている
 鳥のふやした木々に小鳥の墓に春
 錆びきって華やぐことも晩夏の橋
 空気読む怖さかなかな時雨かな
 夢いつも入れ子になっていて白夜
 空蝉に笹船なんかちょうどいい
 間食はしない主義です山椒魚
 小鳥くる指折りという数えかた
 こおろぎの私語の聞こえて夜の入口
 みの虫のマナーモードになっている
 すすき原ふと引潮がきているよう
 桃色ペリカン自分を愛せるようだ
 木の実降るショパンの音が拾いきれない
 夜長あつまる三角錐の猫の耳
 静脈の細さを言われ野紺菊
 鳥渡る部屋のインコは眠たそう
 一茶忌の雀水玉と同じ重さ
 先客はうさぎブックカフェの小ざぶとん
 白ふくろう泡立っている森の夜明け
 過去のどこかに置きざりの眼や梟 
 

   翼     芹沢愛子     

 美智子皇后は書物について、「時に子供に安定の根を与え、時にどこにでも飛んでいける翼を与えてくれるもの」とたとえています。俳句をつくることでも「根と翼」が得られるような気がします。「想像力よりも高く飛べる鳥はいない」と、ある詩人は言いますが近ごろの私はもう高くは飛べません。     
 一昨年、六年間共に暮らしていたオカメインコのぴい助を亡くしました。猫での辛い思い出があるので、鳥くらいならと気軽に飼い始めたのです。肩に止まり、頬擦りをし、少し喋るぴい助は、携帯の文字変換では〈ピース家〉と出てくるのも楽しくて‥‥。「インコの性格は臆病で甘えん坊」と飼い方の本にありました。動物行動学によるとそれは「天敵から餌食になる確率を減らすために群れで行動する」からで、ペットの場合は人と仲間になるしかないのです。天敵から狙われないように怪我や病気を隠そうとする習性も哀れでした。  
  うみどりにどこも陽炎どこも遠景
 東日本大震災直後の映像には海鳥がたくさん映り込んでいました。  
 担当していた連載「ひいらぎ文庫」が「海程青年部の頁」と共に終了しました。第一回は四年前でしたがその矢先に東日本大震災が起こりました。私は願望を込めて「俳句という言葉の力で何かを取り戻せるのではと信じています」と書きました。その後も震災や原発事故と向き合う作品や人物を取り上げ、十三回になって初めて明るい話題として五〇周年全国大会の報告ができました。
 紛争やテロが世界各地で勃発。国内では、「秘密保護法」や「安保法案」が可決され右傾化が進んでいます。社会や人間の感情についての表現は難しいですが、それを止められたら俳句は続けていけなかったでしょう。こんな時代になった今、つくづく「金子兜太の弟子」で良かったと思っています。

「海程」2016年2・3月号掲載

第十六回海程会賞 芹沢愛子

2015年12月01日 | 海程
  陽炎や折れぬため揺れ人も木も
  春愁はプライベートに使いきる
  金輪際とは振りむかぬこと山法師
  太古より車座はあり鰹食ぶ
  神のひとりが吊されている稲びかり
  オルガンに鳴らぬ音あり敗戦日
  三人姉妹に父よりそびえ冷蔵庫
  空を飛ぶかたちに猫を伸ばして秋
  名前つければ友達ですか秋の象
  了解とは違う沈黙秋フクシマ
  猫の島冬陽をひとつずつ配る
  バレンタインデー遊民のように二人
  封筒の中は青空冬もみじ
  不意打ちの過去は海市より鮮明
  家事ときにひざまずく所作桜二分


 『いじわるな童話』    芹沢愛子


  不意打ちの過去は海市より鮮明

 ふいに過去のシーンが蘇り、息苦しくなることがあります。今回の受賞は嬉しい不意打ちです。
 何も知らずに俳句を始めたころ―。

  星ひとつモリアオガエルのまぶたの金

 高崎カルチャーから俳句を始め、初めての投句で好作にとられた句です。続いて

  はつはなのひとひらをのせ青がえる
  夏月や萍かわす水澄まし
  梅雨の家老女の帯に飛ぶ蛍
  初嵐山の花火を見尽くして

 四句で九個の季語、山里の自然に囲まれた生活でした。〈季重なり〉を金子先生に指摘された事はありません。初投句から半年ほどたったある日金子先生が、「君が句集を出す時の題を思いついたよ。『いじわるな童話』だ。どうだい」とおっしゃいました。  

  冬の流星「ここにいます」とわたしの発光       

 好作鑑賞では、「誰からも黙殺されてしまうような自分の状態を意識してそれだから自己顕示したい」とあり、無自覚だった自分自身の孤独に目を向けました。                      
  焚火消えどこにでもある地の涯
  麦青しわたしはわたしに寄りかかる
  蛍見ているもう魂とは思わず
  いつか壊れる空蝉の置き手紙
  真葛野よ憎めば涙にごります

 私的な転換期、その挫折感の中、もう一人の私が私を見ているような句が残りました。
 賞などには縁のなかった私が今まで自慢していたのは『いじわるな童話』という句集名でした。あの時先生は「君はいい意味で意地悪だからな」と言われました。この句集はこころの中に大切にしまってあります。

  情(こころ)見えずしかし情を野に遊ばす 金子兜太
  翡翠をあつとこころはこえるなり 阿部完市                  
 こころを遊ばせるための「野」を感じつつ、金子先生だから、海程だからこその「自由」を誇りに俳句と歩きたいと思っています。


「海程」2015年12月号掲載

「海程」俳句鑑賞/宮崎斗士

2013年08月17日 | 海程
冬芽へと青空の蝶番が鳴る  守谷茂泰
 青空をひとつの装置あるいは調度と喩えたのか。それが機能してゆく上でふと鳴った「蝶番」。その音は、じっと耐えている冬芽たちへの励ましの一言のように‥‥。
 
三月の水身体そっと運びます  堀真知子
 三月の水の温もりと優しさに身を任せるひととき。「そっと運びます」の表情が、柔らかな眼差しがいい。

春遊へ金の足音銀の足音  小野裕三
 何とも楽しい一句。家族揃っての一日だろうか。「金の足音銀の足音」‥‥この金と銀、健やかさ、春が来た嬉しさの表れであろう。金銀の足音があって、あらためて「春景色」の完成となるのだ。きっと。
 
枯野の家姉のせわしき箸の音  日高玲
 ドラマ性に溢れた一句。「枯野の家」と、中七下五から滲む姉のキャラとが好配合。家族構成、一家の置かれている状況などが読者の中で様々に広がってくる。楽しめる。
 
水晶の匂い初めての町に春  吉川真実
 「初めての町」「春」という二重のときめき感を、「水晶の匂い」という繊細な措辞で伝えている。旅の途中の瑞々しい静けさがある。

帰省して蛇口にうつる現実や  小松敦
 帰省者ならではの感覚を捉えた。どこかまだよそよそしい家の中で、リアルな光、存在感を放っている「蛇口」。生活の基本となる蛇口だからこその存在感なのだろう。

鳥交るフレンチトーストでれっとす  増田暁子
 早朝の一コマだろうか。鳥の恋、けたたましい囀りを受けての中七下五の措辞。フレンチトーストの質感を生かした「でれっとす」に惹かれる。

菜の花とぽこんと古墳おやつである  三世川浩司
 菜の花に埋め尽くされた古墳とみる。古墳の「ぽこん」とした様子を「おやつ」と表現。あっけらかんと朗らかな一句。墳墓の中の古人もきっと大喜びのはず。


「海程」2013年8・9月号掲載

第78回秩父俳句道場のお知らせ(2)

2012年10月23日 | 海程
さきほど東京駅近くで、高野ムツオさん、宮崎斗士、芹沢愛子の三人で、
秩父道場のもろもろの打ち合わせをしてきました。
楽しく実り多き道場になるであろうこと、確信いたしました。
まだ迷っていらっしゃる皆様、ぜひとも奮ってのご参加お待ちしております。

第78回海程秩父俳句道場  2012年11月3日(土・祝)~5日(月)
 会場:秩父郡長瀞町上長瀞 養浩亭(0494-66-3131)
参加費:一泊につき¥13000 全日程参加で¥26000
(参加ご希望の方は、宮崎斗士までメールを。)

第78回秩父俳句道場のお知らせ(1)

2012年07月31日 | 海程
次回、第78回秩父俳句道場、
11月3日(土・祝)~5日(月)、秩父郡長瀞町長瀞「養浩亭」にて開催いたします。
特別ゲストの方、昨日決定いたしました。
昨年11月の道場に引き続き、「小熊座」主宰・高野ムツオさんにご参加いただきます。
二泊三日、たっぷりお付き合いいただけるとのことです。

高野主宰と金子主宰のコラボレーション(2012年スタイル)。
「海程」創刊50周年の一つのモニュメントになるような道場にするべく、
現在、企画・構成を練っているところです。
皆様、ぜひご期待ください。
そして多数のご参加お待ちしております。
「海程」所属の方以外のご参加も大歓迎です。