蝶絶!!男泣き・・ 其処にある黒くなった卵で混沌

中の人など・・・ゲフンゲフン

永島慎二の貸本時代周辺 其の壱

2005-02-19 05:14:09 | 妄想パラダイス/波平
発端は、「漫画屋けんちゃん」というサイトの永島慎二の項をクリックしたことだった。
10年前の震災で失くしてしまった懐かしい本の数々がここにあった。
さいとうたかをの項では、懐かしいゴリラマガジンの表紙も見受けられた。
懐かしさで一杯になって「永島慎二」で検索してみたが、詳しいサイトが少ない。
一番色々と語られていたのが、「マンガ夜話」の第28弾だった。
仕方がないので、自力で永島慎二についてまとめてみた。
手持ちの本は「漫画家残酷物語」と「フーテン」だけという心もとなさではあるが。

昭和27年
永島慎二は鶴書房から「さんしょのピリちゃん」でデビュー。
その後、単行本をいくつか描きながら
少女、少女クラブ、少女ブック、なかよし、りぼん、
漫画王、冒険王、少年などに単発読みきり、連載等を発表。

昭和34年
東京トップ社の「Gメン」で読みきり短編を描き始める。
「殺し屋」
「俺を殺せ」
「昼下がりのせんりつ」
「珍版悪魔の発明」
「夜歩く鉄人」
「ルパンとガニマル」
「マシンガンの竜」
「ある男の一生」
「少ない報酬」
「落日」
「小さな訪問者」
「道化の季節」
「愛」
「死神」
「勝負」
「思い出」
「暗殺計画」

昭和35年
東京トップ社の「Gメン」での読みきり連載が続く。
「無口な奴」
「愛と死の詩」
「孤独」
「けんじゅう物語」
同じ東京トップ社の「刑事」に「殺し屋人別帖」シリーズを始める。
「七本のドスと竜」
「両腕のないチャンピオン」
「ろくでなし」
同年、三洋社の「黒い影」にも読み切り短編を描く。
「金(おあし)」
「友情」
「恐喝」
「完全犯罪」
その他、同社の「巨人館」に「12人の怒れた男たち」、
「罠」に「あつい室」「三人の武士と百姓と」「かん違い」、
「忍風」に「忍者切り影武者丸」を描く。

昭和36年
東京トップ社の「刑事」に「殺し屋人別帖」シリーズが続く。
「右翼少年」
「丑松の恋」
「道」
「悪魔が天使の心を持った時」
ここでシリーズは終了。あと読みきりで「虹」「笑った時、音がする」「十年計画」。
単行本も3冊描く。
「夢のような話」「港野郎に気をつけろ」「少女マリ」(これだけ若木書房、あとはトップ社)
「刑事」に「シリーズ黄色い涙・第一部」として「漫画家残酷物語」を書き始める。

「傷害保険」
漫画家・川上みつをは保険勧誘のおばさんに勧められ、傷害保険に入る。
連載を切られてしまった川上は、手が使えないようにする計画を立てる。
描きおさめのつもりで最後の漫画を書き出した川上は、漫画を描くのが楽しくなり始める。
ラストをどうするか悩んだ末、川上は呟く。
「どうせ売るわけじゃないんだ。リアルにいこう。」
漫画を描き上げた川上は心機一転やり直そうと思った途端に、交通事故で右腕を失う。
ベッドの上で川上は言う。
「何であんな事考えてたのか分からない。・・・オレ、左手で漫画かく。」

この最後の台詞は、当時中学3年生の私には効いた。
急いで2巻、3巻と買い求め、貪るように読み耽った。

「ガン祖」
ガンマニアの薊(あざみ)平一は漫画家を辞めた。
今の漫画は真似だらけ。オリジナリティの欠片もない。これはもう犯罪だ。稿料泥棒だ。
どうせ犯罪に加担するのなら、手っ取り早く銃を使った大泥棒になろうと考えたのだ。
薊は大きなヤマを踏もうと思っていたので、新人の百合さわるを仲間に引き入れた。
一流商社とヤクザの取引現場から金を奪った薊は、銃撃戦で負傷した。
百合が薊にとどめを刺す。
百合さわるは漫画家になるのを辞めて、豪華な暮らしをしているという噂だ。

佐藤まさあきや、さいとうたかをとの付き合いの影響で銃に興味を持ち出している。
台詞の中に大藪春彦も登場する。いわゆるガンブーム時代だったわけである。

「少年の日のけだるい孤独」
夏の暑い日、まだ若い漫画家はチンピラに絡まれて、殴られた。
漫画家も半年前までは不良だった。しかし、漫画家は我慢した。
しかし、中年男にアザだらけの顔を笑われ、
「今の若い奴らときたら」と言われた時、漫画家はキレた。ナイフで中年を刺した。
漫画家は少年院に入った。
少年院で漫画を描き続けることが真の抵抗だと、漫画家は思った。

いくぶん未消化な作品。ラスト1ページで長々と説明が入る。
そのためか、初期の「漫画家残酷物語」には未収録だった。
「戦争に行った大人はすべて人殺し」という「フーテン」の中の台詞とも呼応する。

「被害者」
中久保文太は18歳で漫画家になり、20歳でスター漫画家になった。
しかし、人気はすぐになくなり、今はトラックの運転手をしながら漫画を描いていた。
アイデアを考えながら運転していた中久保は、子供を轢いた。
家とルノーが残った。しかし、さらに当たり屋の集団に引っかかり、ルノーを売った。
阿上京一は良心的な漫画家で金がない。友人からアルバイトを教えてもらった。
それは車に当たって示談金をせしめるバイトだった。阿上は一度成功して、金を得る。
病院からの帰り道、阿上はトラックに轢かれた。轢いたのは中久保だった。
今度は家を売らなければならなくなる。中久保はそのまま逃走した。

2つの物語を同時進行させ、後にクロスさせる手法が使われている。
当たり屋は当時の流行だったのか。
大島渚の「少年」でもモチーフとして使われている。

「坂道」
漫画家・鳴山清二は広文社の編集長・山本の所に通いながら原稿を見てもらっていた。
小石川の坂道ですれ違った少女に、鳴山は恋をした。
ある雨の日、くだんの少女に傘を差し出された鳴山は恥かしさから「いいんです」と断る。
淡い気持ちを抱いたまま、鳴山は山本編集長のもとに通い、とうとうデビューが決まった。
一年後、鳴山は少女があの日、雨の中で泣いていたこと、
少女が山本編集長の娘だったこと、
そして、少女が胸の手術に失敗して死んでしまったことを知る。

甘い作品だが、こういう話も描いてしまう所が青春に拘る漫画家ゆえだろう。

「うすのろ」
高校の漫画研究会の仲良し5人組は、毎年卒業式の日に会おうと約束して東京に出た。
一年後、5人組のうち一人Aが漫画家デビューすることになった。
四年後、Aは落ち目になっていた。あとでデビューしたBは今、人気絶頂だった。
Cは単行本の世界でコツコツ描いている。Dは大人まんがの本にしばしば入選するようだ。
なかで一番うすのろだった男は、カットだけ描いてなんとか生活してる。
7年後、Cは死んでしまった。AもBも漫画は描いているが人気は落ち目だ。
Dはまだ投稿して時々入選する程度。うすのろはあいかわらずカット屋だ。
また何年かが過ぎた。
Aは故郷に帰ることにした。Bは自分より年下の漫画家のアシスタントをしている。
Dは自分の才能に見切りをつけた。うすのろはカット専門の小さな会社を興した。
また年が過ぎる。4人はもう集まることはなくなっていた。
ある漫画本が出版された。それはぐんぐん部数を伸ばし、大ヒットとなった。
その本は、うすのろが早死にしたCの行李一杯の原稿を自費出版したものだった。
AもBもDもそれぞれの場所でその本を読んで、泣いた。

わずか30ページ足らずで色々な人生を描写した、初期の傑作だと思う。
当時、漫画研究会を作っていた私達は「お前はこのタイプ」などと冗談を言って笑った。
「カット屋だね。へへへ。」という台詞もよく冗談まじりに話していた記憶がある。

昭和37年
東京トップ社の「刑事」に連作「漫画家残酷物語」が続く。

「雪」
時間をかけて良心的な漫画を描く坂本は、サンドイッチマンをして食費を稼いでいる。
サト子は自分だけが長袖を着ているので、いじめられている。
娘のサト子に七部袖のセーターを買ってやると約束した源さんは、
遅配している給料を貰いに行くが、親方もないので払ってもらえない。
病気の妻を持つ画家は、絵が売れないので妻の薬も買えない。
新人の脚本家は初めて自分のホンがドラマになり、親に知らせた。
しかし、時節に合わないと、突然放送が中止になってしまった。
故郷では村の人達が皆、TVの前に集まるというのに。
そして、雪が降る。
サト子は源さんに「まだ寒いからセーターいらない」と言う。
雪の日に雪山の絵を売りにいった画家は、酔狂な客に絵を買ってもらえる。
突然雪が降ったので、また急遽変更で「雪の降る街を」というドラマを放送することに。
それはあの脚本家の書いたドラマだった。
サト子の手に握られた漫画を見て、坂本は呟く。
「あんなにボロボロになるまで見てくれる子がいるんだ。・・・がんばらなきゃ。」

春先に雪が降る。その瞬間に、すべての不幸が好転する。面白い構成だ。
坂本の最後の呟きは、印象深い。

「ラ・クンパルシータ」
土地屋文男の墓の前に、4人の男がいる。私と、秋葉と、夏山と、冬木だ。
土地屋は児童漫画協会の賞を受賞した夜に、首を吊って自殺した。
寺の住職をしている冬木は土地屋の親父を葬ったが、親父の死が原因だと考えていた。
夏山は受賞パーティの夜、自宅までついていかなかったことを悔やんでいた。
秋葉は、土地屋の最愛の彼女を自分が盗ってしまったことが原因だと考えていた。
私は、芸術的な漫画を描いていた土地屋が、親父の病気で金が入用になり、
売れる漫画のサンプルとして、私の未発表の漫画を渡してやったことを考えていた。
私の漫画を真似して描いた作品で賞をとった土地屋は、私に死んで詫びたのである。
土地屋の幽霊が登場する。
子供の頃から漫画を愛していた土地屋は、芸術といえる漫画を描いていたが売れなかった。
親父が病気になり、初めて売ることを考えた土地屋は友人の絵を真似て原稿が売れた。
しかし、親父は死んでしまった。土地屋は親父に滅び行く人間の悲しさを見た。
受賞の知らせを聞き、土地屋は初めて自分の漫画を見直した。
それは、自分が描きたいと思っていた漫画とは程遠いものだった。
自分もまた滅びゆく人間だった。愛する漫画が信じられなくなった。
パーティでは精一杯演技をして明るく振舞った土地屋は、その夜自殺したのだ。
しかし、土地屋の声は4人には届かない。幽霊は屋根の上で頬杖をつくばかりだ。

芥川の「藪の中」を思わせるような、複数の人間の主観が食い違う話。
真実は幽霊が知っているが、それは既に他人に語られることはない。

「嵐」
ディズニーの「バンビ」が終わった映画館に、くだるが居る。
一日中「バンビ」を見ていたくだるは、アニメーションを作る夢に燃えていた。
くだるは親父が死んで、億単位の財産を相続することになった。
故郷へ帰ったくだるは、友人の作を訪ねる。
作はアニメーターを目指し、野良仕事の合間に膨大な量の作画をこなしていた。
2人は易者に手相を見てもらう。2人とも選ばれた人間のようだ。
崖の上の別荘で、2人はアニメーションの夢を語り合い、上気して眠りについた。
その夜、強い風が吹き、別荘は崖下に転落していった。
東京では、くだるの財産の話は嘘だったという噂話がされている。

永島はこのシリーズのあと虫プロに入り、「鉄腕アトム」と「ジャングル大帝」に参加。
一番安定した生活を送るのがこの時期だ。
しかし、アニメに全てを捧げているような男たちの姿を見て、
「アニメに全てを打ち込むには、俺は漫画に打ち込みすぎてきた。」
と思い直し、再び漫画の世界に帰ってくるのだ。

「嘔吐」
秋葉秀一は単行本の出版社から自分の新作と原稿料をもらい、喫茶店に入った。
ベートーベンの第五が流れる中、秋葉は自分の本を読んで嘔吐感に襲われる。
それは、売ろうとするために自分を曲げた漫画を描いている自分自身への憤りからだった。
その夜、秋葉は妻に泣きながら離婚を言い渡す。
「本当の自分の漫画が描きたいんだ・・・すまない!・・・それには・・・自信がないんだ・・・生活の・・・!」
秋葉は牛乳配達をしながら、納得できる漫画を描いた。三ヶ月が経過した。
三ヶ月かかって描いた漫画はどこの出版社も取り合ってくれなかった。
秋葉はビルの上から原稿をばら撒いて、飛び降りる。
原稿の一枚が、ある出版社の窓に入る。
それを見た編集長は金を使って原稿を集め、出版する。
出版された作者不詳の本はベストセラーとなる。
冬、足を悪くしてルンペンになっていた秋葉は、自分の本の存在を知る。
しかし、その本を見ることなく秋葉は吐血して泣きながら死んでいった。

永島慎二は、実際に一時期妻と別れていた。
この作品の中のエピソードが事実に基づくものだとすれば、これは壮絶な話だ。
「嘔吐」を「漫画家残酷物語」の白眉にあげる人が多いのも、そのためかと思われる。

長くなりそうなので、この辺で小休止。
ここまで読んでくださった方、ありがとう。
来週があるかどうかは、波平の気力が持続するかどうかにかかっています。
続きが読んでみたいという人はコメントを書いて、私を気持ちよくさせてください(笑)。

最新の画像もっと見る