東京猫暮らし

東京在住の40代自由業男と2匹の猫とののどかな日常

『オーシャンズ13』  変貌するラスベガスへのオマージュ

2007-10-08 14:55:43 | 映画
変貌するラスベガスへのオマージュ
『オーシャンズ13』

先日、某紙に書いた映画評です。

記者会見自身がまるでパロディであるかのように、来日したジョージ・クルーニーは、次々とハズしたジョークを連発していた。まるで、「この映画を真面目に見ちゃだめだよ」と言わんばかりに。そう、この映画をシリーズ最初から見ている人には既におわかりのように、これはかつてのフランク・シナトラを中心としたスターたちのお遊び映画「オーシャンと十一人の仲間」のリメイクであり、現代のハリウッド・スターが豪華キャストで演じる、生粋のエンタテインメント・コメディなのだ。

詐欺師ダニー・オーシャンと11人の仲間が繰り広げる泥棒活劇も、いよいよ第3弾を迎え、今回は再び舞台をラスベガスに戻し、今までになく「ド派手」な仕掛けを用意してくれた。仲間の一人ルーベンが、ホテル王ウイリー・バンクと新たなホテル経営を約束していたが裏切られ、そのショックで心筋梗塞に倒れる。報せを聞いた仲間たちはバンクに復讐を誓い、戦略を立て始める。狙いはホテルのグランド・オープンに合わせた壮大なリベンジの仕掛け。また、これにかつての宿敵ベネディクトをも味方に引き入れ、互いの策略が錯綜していく展開だ。
新たな敵役は、アル・パチーノ演じるウイリー・バンク。冷酷なホテル王という役柄だが、とてもそうは見えず、彼らが次々と仕掛ける罠にきっちりはめられていく様は、愛らしささえ。バンクの秘書役エレン・バーキンは更にコミカル。ホストに扮したマット・デイモンに、媚薬を嗅がされよろめいていく様は、以前登場した女優たちに比べ、完全にコメディ扱いである。監督ソダーバーグは、シリーズ3作目でどこか吹っ切れたのか、きわめてストレートかつシンプルな構成で盛り上げ、フィナーレを飾ろうとしているように見える。
1950年代よりハリウッド芸能人達の遊び場として有名になり、一気にカジノ・シティとしての地位を確立したラスベガス。少し近寄りがたいその「悪所」としてのイメージこそが、またシンボルでもあったはずだ。90年代、現代のホテル王スティーブ・ウィンのアトラクションを盛り込んだホテル建設により、ラスベガスは「ギャンブルの街」から「家族で楽しめる街」に取って替わった。しかしその路線ももはや力尽き、「大人向け高級総合アミューズメント・シティ」「コンベンション・シティ」などへと転換を模索するが、今やアジア最大のカジノ・リゾート「マカオ」に、その地位を譲りそうな状態。まさに迷走を続けている街なのだ。
映画の中で、かつて共にシナトラと握手した人間として彼を信頼しようとするルーベンに「もうお前は古いんだ」と言った冷酷なバンクのせりふも、「この街もホテルもみんな変わっちまった」とブラッド・ピット扮するラスティーが嘆くのも、かつての「悪所」だったラスベガスが、今や健全でビジネスライクな街に変貌しつつあることを感じさせる。その意味で、この映画はかつての砂漠の中の蜃気楼、「夢」の街ラスベガスへの優しいオマージュともいえるのである。



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