東京猫暮らし

東京在住の40代自由業男と2匹の猫とののどかな日常

ラスト、コーション 色/戒

2008-02-03 02:45:42 | エッセイ
久し振りに渋谷に行き、映画を見た。昨年のヴェネチア国際映画祭グランプリのアン・リー監督『ラスト、コーション』。初日ということもあり、ル・シネマは、どの回も満員御礼。ひとつ回をずらして入る。

それにしても、若い人が多い。土曜日だからか、渋谷だからか。始める前のどこかざわついた感じは、この街特有の落ち着きのなさと同じ。映画館という空間は、他人同士が暗闇を一時共有し、互いに観客として最適な映画環境を作り上げるものだ、というかつてのシネフリークの感覚は、自宅でのDVD視聴が当たり前になった現在、あまり通用しないのだろう。鑑賞中、何度か現実に引き戻される雑音や声に悩まされた。

1940年代、日本占領下の上海を舞台に、虚無的な影を持つ傀儡政権特務機関の男(トニー・レオン)と若くして抗日運動の中にとび込んだ女スパイ(タン・ウエイ)の運命的な出会いと悲劇的な結末を描いた本作品。前半香港で学生生活を送っていた女の来歴を、あの時代としてはいささか牧歌的とも言えるタッチで描いていく。その彼らの抗日運動の「まねごと」が、「ある殺人」により一気に抜き差しならない運動のるつぼに彼らを巻き込んでいく。

冒頭の女性4人が麻雀をするシーンから、見事な映像美が展開する。この麻雀シーンは何度か繰り返されるが、4人の刻々と変わる表情を追いかけるカメラ、特にスパイとしてもぐりこんでいたタンウェイの見せる視線の演技は、絶妙な陰影と艶ぽさを含み見事だ。

この映画は、トニーレオンとタンウェイのための映画だ。二人が出会った時から、この映画はある方向に向けて一直線に進んでいく。二人が交わし続ける表情と視線がこの映画のすべてと言ってもいいかもしれない。疑いながらも、騙しながらも、惹かれあっていく二人の駆け引きは、やがて演技と真実の境界を超えてしまう。

話題になったセックスシーンは、結構カットされボカシも入っているようで、かなり編集の跡が見られたが、それでも死に抗うかのようにむさぼり合う肉体はある種の美を孕むものだと感じ取れるいくつかの美しいショットがあった。

彼女が最後に指輪をプレゼントされるシーン、そして暗殺されようとしていた彼を逃がしてしまうシーンはこの映画のクライマックスだが、いくつかの謎が残り映画は終わる。その謎が女というものの謎なのか、あの究極の状況で出会った二人に起こった特別な物語だったのかは、この映画を見た人それぞれの人生、恋愛経験にも大いに左右されるような気がする。深いトラウマを抱え、なおも生きていく特務機関の男(トニーレオン)の虚無は計り知れない。









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