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国際連帯税を日本で実現するための試論

2007-10-21 | 連帯税に関するリーディング・グループ総会
<問題提起>

ODA(政府開発援助)の増額に熱心な欧州の主要援助国は、さらに資金調達を増やすために革新的資金メカニズムにも熱心に取り組んでいます。一方、世界第2位のGDPを誇る日本は、この10年間ODAを大幅に減らすとともに、革新的資金創出メカニズムにも冷淡であることから、国際貢献という「名誉ある地位」からの著しい後退を招いています。

来年はG8サミットが日本で開催されることから、気候変動問題もありODA増額の余地はあると思います。従って、私たちは、その場しのぎ的な増額ではなく、国際公約であるODAのGNI(国民総所得)比0.7%拠出に向けてのタイム・テーブルをきちんと提示して増額することを政府に要求していかなければなりません。同時に、私たちは欧州各国のように革新的資金創出メカニズムを真剣に取り組むことも強く要求していきたいと思います。

革新的資金創出メカニズムといえば、英国の国際金融ファシリティー(IFF)に続いて、フランスが昨年7月から航空券国際連帯税を導入しました。その後10カ国が続きました(今年中に導入予定の国も含めて)。一方、我が国でも民主党がその政治政策(『2007政策リスト300』)で、「国際連帯税の検討」を打ち出しました。「国境を超える特定の経済活動に課税し、集まった収入を貧困撲減(ママ)・途上国支援などを行う国際機関の財源とする『国際連帯税』について検討を進めます」というのがそれです。

民主党が国際連帯税を打ち出した背景には、上記のようなフランス等の航空券国際連帯税に影響を受けたものと思われますが、とくに何による国際連帯税かは特定していません。ですが、やはり最も効率的でしかも効果的なのは、航空券(運賃)に課税する国際連帯税です。このような立場から、日本で国際連帯税を実現するのはどのような視点に立つべきかを「試論」としてまとめてみました。


試論:国際連帯税を日本で実現するために

オルタモンド事務局長 田中 徹二

●ポイント


1、 日本のODA(政府開発援助)の劇的減少という現実の中で、ODA増とODAを補完する資金調達は緊喫の課題となっている。この後者の資金調達の仕組みが革新的資金メカニズムと呼ばれ、その有力なメカニズムが国際連帯税である。

2、 世界的にもミレニアム開発目標・貧困解消等への支援のほかに気候変動への「適応」資金など革新的資金メカニズム(含む国際連帯税)への期待がいっそう高まっている。

3、 国境を超える特定の経済活動に課税するという国際連帯税は、航空(運賃・貨物)税、船舶(運賃・貨物)税、通貨取引税が考えられるが、他にも国際電話、インターネットなども課税対象と考えられる。

4、 今日航空券(運賃)国際連帯税がすでに11カ国で実施、もしくは実施準備に入っている。その税収はフランスで最大2億ユーロ(320億円)と見込まれている。

5、 もし日本でフランス並み(国内線にも課税)の航空券国際連帯税を導入すれば、約455億円(約4億ドル)の税収が上がる。この金額は日本のODAによる基礎社会サービスへの年間拠出の約3分の2である。ただし、日本政府は2005年の段階で航空券国際連帯税を実施しないことを正式に表明している。

6、 航空券国際連帯税だけでは日本の独自性が薄いので、例えば旅客には運賃税、貨物(近年急成長している)には重量税をかけて、「航空輸送国際連帯税」(仮称)というメカニズムも考えられる。

7、 独自性ということからは、税収の使途先の工夫も必要である。フランス等の航空券国際連帯税による税収の使途先はHIV/エイズ・結核・マラリアの三大感染症対策のための医薬品購入にあてられている(その機関がUNITAID)。独自性としては、ミレニアム開発目標の他の目標に焦点をあてることとか、気候変動「適応」資金にあてるということが考えられる。

8、 革新的資金メカニズム(含む国際連帯税)の必要性は高まっているが、どの国も新税設置には後ろ向きであり、とくに産業界の反発は激しい。新税を成功させるには、①政治的意思、②NGOの参加、③官民上げての国民教育、④産業界への粘り強い説得、等をフランスの事例から読み取ることができる。

9、 今日経済のグローバリゼーションによって最も恩恵を得ているのは巨額な資金をグローバルに展開している金融資本であり、それを可能にしている国際通貨取引である。国際連帯税の最大の課題は通貨取引税をグローバルな規模で実施することであるが、相当な困難が予想される。今から研究と準備が必要である。


●各 論


1、 日本のODAの現状と革新的資金メカニズムの必要性


 日本のODAは急激に縮小--90 年代に世界第1位の座にあったが、2001 年には米国に1位の座を、2006 年にはさらにイギリスに抜かれ3 位へ。このままではドイツ、フランスにも抜かれ5位に転落する可能性。

 国際目標(公約)立たず--ODAの国際目標はGNI比の0.7%拠出だが、日本の場合2006年で0.25%。国際的に0.7%増に向けたタイム・テーブルを要請されているが、米国とともに提出していない。

 革新的資金メカニズムの考え方--これが国際政治上浮上したのは、2002年国連開発資金会議(モンテレー会議)であり、当時ミレニアム開発目標達成のため不足する500億ドルを捻出するためODAを補完する資金源として考案された。

 主な革新的資金メカニズム--2005年英国の国際金融ファシリティー(IFF)と2006年フランス他の航空券税国際連帯税が双璧をなす。が、前者の方式を取るのは英国一国だけ(債券を発行して資金を集めることになるが満期にはODAを使って返済する方式)。

 革新的資金メカニズムを実施する国はODA拠出にも熱心--英国もフランスもODAの国際目標のタイム・テーブルを提示している。問題は、提示していないGNI規模第一位と第二位の米国と日本が革新的資金メカニズムにも冷淡なことである。

2、 革新的資金メカニズム(含む国際連帯税)への期待の高まり


 革新的資金メカニズムへの期待の高まり--①ミレニアム開発目標の中でも短期間に多額の費用を要する目標があること、②ミレニアム開発目標以外にもグローバル公共財が必要な分野があること、から。

 感染症と温暖化--①につき、HIV/エイズ・結核・マラリアという三大感染症対策に必要な資金。2008年で330億ドル(うちHIV/エイズは220億ドル)だが、現在拠出されている資金は80-100億ドルレベル。②は気候変動(地球温暖化)問題の中の貧困国の温暖化「適応」のための資金。温暖化で最も被害を受けるのは、温室効果ガスをほとんど排出しない南の途上国(その典型が海面上昇と高潮で土地そのものが失われつつある小島嶼国)。適応のための必要資金は確定的でないものの500億ドルが目安。

3、国境を超える特定の経済活動への課税(消費税と非消費税)


 国境を超える経済活動への消費税と非消費税--今日一般的な消費活動に消費税(付加価値税)がかけられているが、国境を超える経済活動は免除。国境を超える経済活動に消費税をかけよというのは論理的には成り立つ(要、現行消費税の改訂)。一方、航空券に関しては、一般消費税(付加価値税)ではない国際連帯税(フランスほか)や乗客税(英国)がかけられている。

 フランスの航空券国際連帯税と英国の乗客税(定額税)
1) フランスの航空券国際連帯税
国内線・EU域内への航空券には、片道エコノミー・クラスで1ユーロ(160円)、ビジネス・ファーストクラスには4ユーロ(640円)。国際線・EU域外への航空券には、エコノミー・クラスで10ユーロ(1,600円)、ビジネス・ファーストクラスで40ユーロ(6,400円)(トランジットでフランスの空港を利用する場合は除外)。
2) 英国の乗客税
欧州経済地域以外へのエコノミークラスは£40(9,200円)、欧州経済地域以外へのクラブおよびファーストクラスは£80(18,400円)というように、フランスの航空券税よりかなり高い税が課せられている。ほかには、英国内は全て片道£5 (1,150円)、往復£10(2,300円)。さらに、欧州経済地域内へのエコノミークラスは£5 、欧州経済地域内へのクラブおよびファーストクラスは£10である。欧州経済地域以外へのフライトへの課税は今年2月に変更され、それぞれ倍に。税収は年間£10億(2,300億円)を超える。

4、航空券国際連帯税実施国と航空券税の利点


 現在実施国(近々実施国)--ブラジル、チリ、キプロス、韓国、コートジボアール、フランス、ガボン、ヨルダン、マダカスカル、モーリシャス、ニジェールの11カ国。

 実施国予備軍--「開発資金のための連帯税に関するリーディング・グループ」53カ国(米国、日本は不参加)。

 航空券税による税収--フランスで年間1.6億-1.8億ユーロ(最大で2.15億ユーロ;344億円)、ただしフランスはこれをODA予算には含めない。もし世界がフランス並みの税を導入すれば、200億ドル(2,400億円)の収入が可能。

 なぜ航空券税か?
①制度設計が容易なこと・コストが最小なこと-フランス等実施国があり、大きな問題点なし。
②航空産業はグローバリゼーションの恩恵を最も受けている有力な産業であること。
-1960年代より年間8%の成長、今後10年間で5%成長見込み(IATA;国際航空運送協会)
③航空産業は比較的過少な課税しかかかっていないこと。
④公平な課税体系であること
-航空機を利用する人は比較的裕福な層、しかも航空券のクラスによって、累進的に課税できる。
⑤二酸化炭素排出・大気汚染・騒音等環境負荷が大きく、かつ新旧感染症をグローバルに伝播させる産業であること。

・上記①~④フランス政府の見解。が、③については具体的なコメントはないので次のことが考えられる。
-国際線に一般消費税(付加価値税)がかかっていない。
-日本の自動車産業で比較してみると、ガソリン車では揮発油税、自動車重量税、自動車取得税、地方道路税、自動車税そして一般消費税がかかるので、航空産業は過少課税。
・⑤につき二酸化炭素排出対策がEUで問題に。感染症対策は米国の研究所が提案。

 フランスの徴収システム--①徴収当局-民間航空総局⇒納入先「開発のための連帯基金」(フランス開発庁)⇒支払い-外務省と経済財政産業省の省庁間委員会により決定、②申告対象-フランスからの出発便を運営する企業が毎月納税と前月の交通量を申請する(約300社)。

5、日本で航空券税をかけた場合と日本政府の見解


 日本での航空旅客数--①国内航空旅客数-約9,374万人(2004年;やや減少傾向だが9,000万人は維持)、②国際航空旅客数(観光)-a 日本人(日本のパスポート持っている人)1,754万人(2006年:微増) b 外国人733万人(2006年;10%前後の伸び)。

 フランス並に航空券税をかけると(定額)--①国内(エコノミー往復200円×乗客の96%、ビジネス・ファーストクラス×往復800円×乗客の4%)計210億円、②国際(エコノミー片道1000円×乗客の96%、ビジネス・ファーストクラス片道4000×円×乗客の4%)計245億円⇒合計455億円(約4億ドル)。

 日本政府の見解--「国際課税については、開発援助のための目的税として国際税を各国で創設することは、財政の硬直性を招き、ODAと密接な関係を持つ租税客体を見出すことは困難であり目的税としての合理性を欠く、といった問題があると考えます。さらに、国際的に課税する体制をどう構築するか、各国間での課税方式の調整をどのように行うかなど、乗り越えなければならない課題が多く実現可能性は低いものと認識しています。また、集められた資金の配分や利用に当たっての意思決定を誰がどのように行うのかという点についても留意が必要です。」(第71回世銀・IMF合同開発委員会における日本国ステートメント 2005年4月)

6、航空券税プラス重量税


 近年急成長している航空貨物--運輸政策審議会総合部会長期輸送需要予測小委員会(2000年)の長期予測によれば2010年度までに、国内航空貨物輸送は年平均伸び率2.8~3.1%、国際航空貨物輸送は年平均伸び率3.3~4.3%というように、旅客輸送の伸び率より大きく、とくに国際輸送は急成長している。

 国際航空貨物の主要商品--半導体等IT関連機器、自動車部品関連機器で7割前後(輸出入とも)。

 基幹産業全体からの反発--新税となれば、航空産業や観光産業だけでなく電機、機械、自動車等日本の基幹産業全体が反発すると思われる。

7、航空券国際連帯税の使途先


 UNITAIDならびに気候変動「適応」資金について--別紙参照

8、フランスはどう航空券連帯税を導入したか?


 省略

9、通貨取引税について


 通貨取引税の種類--開発資金のための通貨取引税、トービン=シュパン税、トービン税

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