明鏡   

鏡のごとく

マイミクさんの紹介の紹介より 事実が捻じ曲げられた映画のプロパガンダに抗議する

2016-04-14 11:35:44 | 日記

 崔碩栄(ジャーナリスト)

    三百万人が見た「鬼郷」にこれだけの問題点が――

 今、韓国で映画『鬼郷』が社会現象となっている。日本軍による朝鮮人少女たちの強制連行、性暴力、虐殺などが描かれたこの映画が一般公開されたのが二月二十四日。以来、三週連続一位を記録、観客動員数三百万人突破と快進撃を続けている。

 物語は両親とともに平和に暮らしていた少女ジョンミンが、ある日突然訪ねてきた日本軍によって強制的に連行されたところから始まる。ジョンミンが連れていかれた場所は中国にある日本軍慰安所。ここで少女は地獄のような生活を送ることになる。日本軍は無慈悲に暴力をふるい、失神した少女を強姦し、軍刀で脅し、容赦なく鞭を振り下ろす。

 映画のラスト近く、日本軍が少女たちを集団虐殺した後、死体に火を放つシーンがある。最も話題となっている場面だが、これは元慰安婦・姜日出(カンイルチュル)さん(87)の絵と証言をもとにして作られたものだと盛んに喧伝されている。しかし、そこには観客をミスリードする非常に危うい要素が含まれているのだ。

 映画の冒頭、スクリーンの中央に、この映画は「実話をもとに作られた」と字幕が表示される。元慰安婦の「証言」をもとに脚色された創作物なのか、「実話」をもとにしたのかでは明らかな差違がある。「証言」と「実話」は峻別されなければいけない。「証言」は、あらゆる角度からの検証がなされて初めて「実話」となるはずだ。

 私はソウルの映画館の出口で『鬼郷』を見終えた観客たちにインタビューを試みた。「この映画の内容は実話だと思いましたか?」。こう問うと、「ええ。ほとんどが実話だと思います。こんな事実を知らなかった自分が恥ずかしい。元慰安婦のおばあさんたちに申し訳ない気分です」、「少しは脚色があるでしょうけど、ほぼ事実でしょう。もっと多くの人に見てほしい」。多くの人がこう口をそろえた。

 『鬼郷』は、「実話」なのか?

  ・連行の原因は義兄の告発

 残念ながら、映画の根拠とされている元慰安婦・姜日出さんの一九四三年当時の公式記録は見つかっていないため、正確に検証することはできない。ただ、参考資料として、慰安婦支援団体系の研究所が作った姜さんの証言録を見ることができる。

 子細にこれを読み込むと、そこには『鬼郷』では伏せられたエピソードが残されていた。

 姜さんの証言が掲載されているのは、〇三年に発行された『中国に連れていかれた朝鮮人軍慰安婦たち2』(図書出版ハンウル)という書籍で、韓国挺身隊研究所が編纂したものだ。姜さんの証言は、研究員によって整理されているはずにもかかわらず、話があちこちに飛び、時系列も前後しているために、一度読んだだけでは、いつ、どこで、何が起きたのかを把握することが極めて難しい。そもそも、終戦後ずっと中国で生活していた姜さんが、〇〇年に韓国に帰国後、七十歳になってから口述された記録だというのだから、それも致し方ないのかもしれない。

 証言録によると姜さんは、村長が警察にその名を届け出たことで連行の対象になったという。村長の名前は河氏といい、彼女の義兄であった。当初、他の男性のもとに嫁いでいた姜さんの姉を、河氏が誘惑し、二人で大阪に逃亡した過去があった。そのため、義兄と母の折り合いは悪かった。姜さんは「(自分を)辱めれば、母親がすぐに死んでしまうだろうと(村長は)思った」と語っている。義兄の告発を受けてやって来た警察と軍人によって、自分は連れて行かれたのだと姜さん自身がはっきりと証言しているのだ。



文藝春秋web 2016.04.13 07:00
http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/1856

 証言録が出版された際のニュースでも「生理も始まっていないような年齢で、義兄の告発によって動員された姜日出さん」と紹介されている。ところが、『鬼郷』では日本軍の案内役のような人物が登場し、彼女を連行していくのみで、具体的な説明はない。

 慰安所生活についての証言は、映画の地獄のような風景と大きく変わるところはない。しかし、最後の場面に大きな差違が現れる。映画では慰安所運営の証拠を無くすために、日本軍が何人もの少女たちを殺し、死体に火をつけるシーンとなるのだが、証言録では、日本軍は腸チフスに罹った女性たちを燃やすためにトラックに載せて運んでいたが、監視の目が緩んだ隙をついて慰安婦たちは皆逃げ出した、とある。衝撃のラストシーンは、証言録には存在していないのだ。また、映画では主人公ジョンミンは慰安所で共に過ごしていた朝鮮人の友達と二人で逃げ出すのだが、証言によると、一緒に逃げたのは日本人女性だった。

 どう好意的に見ても「実話をもとに」したとは言えないだろう。

 私は『鬼郷』の監督に取材を申し入れたが、多忙を理由に断られた。代わって広報担当者が電話取材に答えるというので、二つの質問を投げかけた。一つ目は、この映画のどこまでを「事実」だと認識しているのか。もう一つは、映画のパンフレットや公式ホームページにある「慰安婦二十万人」という数字は何を根拠にしているのか、だ。ところが質問内容を聞くと、広報担当者は言葉を濁し、電話口での回答を避けた。そして、なぜか慰安婦支援団体「ナヌムの家」の所長に相談したうえでメールにて回答する、と言いだした。

  ・寄せ集めのストーリー

 果たして数日後、広報担当者から、一通のメールが送られてきた。そこには質問への回答の代わりに、映画の重要なシーンの紹介と、その元ネタとなる慰安婦の証言を集めた総計五十ページにわたる「資料集」が添付されていた。

「『鬼郷』映画台本考証」というタイトルのついたその資料集を開いて驚いた。公式ホームページや報道では、この映画は元慰安婦の姜さんが体験した「実話」をもとにつくられたと大々的にアピールされていたのに、実際は三十名以上の元慰安婦の証言の中から、絵になりそうな部分だけを切り取り、寄せ集めて作り上げられたストーリーなのだ。

 例えば、「証言者」のうちの一人は元慰安婦・文玉珠(ムンオクチュ)さんだ。参院議員の福島瑞穂氏らが慰安婦側の弁護士を務めた「アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件」(〇四年に原告敗訴確定)の原告の一人として、名前を記憶している方もいるだろう。彼女が有名になったのは、慰安婦としての悲惨な体験によってではない。その巨額の貯金や送金記録、ビルマなどでダイヤモンドを買った逸話からだ。彼女自身の証言集(『文玉珠 ビルマ戦線楯師団の「慰安婦」だった私』梨の木舎、九六年)には詳細が描かれている。しかし、映画ではその暮らしぶりは取り上げられず、彼女の証言で使われたのは、「軍人の軍票の使い方」のみだった。

 また別のシーンでは、日本兵に集団暴行を受ける朝鮮人徴用兵と慰安婦となった妹が再会するところが描かれている。根拠は元慰安婦チェ・ミョンスンさんの証言だが、資料集によると彼女の兄は「広島の工場のような建物」で働いており、暴行を受けていたとの話は書かれていない。慰安婦が徴用工の兄と再会したという話に、兄が集団暴行を受けていたという話がいつの間にか加えられているのだ。

 二つ目の質問の「二十万人説の根拠」については、再度広報担当者に催促したが回答を得られなかった。

 だが、そうしたこととは関係なく、映画は大ヒットを続けている。

 近年の映画のヒットにはSNSによる口コミ効果が欠かせない。『鬼郷』が公開されると「認証イベント」が流行し始めた。映画を見てきた証拠として映画の半券の写真をSNSに載せることを指す。彼らを「愛国者」として讃える雰囲気が広がり、四月十三日の総選挙を控えた候補者たちが競ってその流行に参加している。

※この続きは「文藝春秋」2016年5月号でご覧ください。

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