アカバネーゼのささやき

夫の裏切り!妻の仕返し!夫婦とは?自立に目覚めた私が起業するまで!

さようなら、王子さま

2006年06月03日 | Weblog
タクシーの座席に座ったとき、私は少し震えていた

海のそばの風がとても冷たかったから…

今からどうすればいいのか…わからなかったから…


「みなとみらいまでお願いします」彼が言った


街は、クリスマスの人ごみで混雑し、車は渋滞している

ブレーキランプが行列になって続き、信号が青になっても進まない


「船に乗り遅れちゃったし、寒い中、歩くのはつらいでしょ?」

「ううん、違うの」

彼はとても楽しそうに

「クリスマスをずっと楽しみにしてたんだ今日のために今の物件頑張った…って言っても過言ではないな!!


・・・笑えない


そっとバッグのなかの携帯電話をみた

誰かからメールが来ているが、見ることができない

子供からかもしれない。。何か迷惑をかけたのかも…?

いや、主人からメールがきているのかも?



でも彼が電源を切っているのに、私だけが携帯を見るのはマナー違反だよね?

どうしたらいいの????


街角のイルミネーションは、暗くなるにしたがって、より輝いて見える

私は大きく深呼吸した

「どした?」

彼がとても優しい瞳で、顔を覗き込んだ


「ごめんなさい。私、帰ります。」

「え?」

「私、もう帰らなくっちゃ…」

「なんて?」

「もう、帰らないと…」

「今から、プレゼント、見に行くんだよね?ねぇ、ディナーを予約したんだよ」

「ごめんなさい」

「…どうして?クリスマス、一緒に過ごそうって言ったじゃない」

彼が、私の腕を必死でつかんでいる


「ごめんなさい、、、昼からずっと一緒に過ごせたから」

彼はすがるような目をして見つめ、私の手を握る力が強くなる


「ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃないか?」


・・・もしかして、今が決断の時?
あの占い師が言った「決断」って言うのは、今?
彼がバランスを崩す…って、言ったのは、今?


「・・・あのね、私、あなたの彼女にはなれないの。」

「・・・」

「クリスマスは必ず、主人と子供と一緒にケーキを食べなくてはいけないの」

「・・・」

「仕事は夕方に終わるから、今すぐ帰らなきゃいけないの」


しばらく沈黙が続き…


「・・・じゃあ、帰ってよ」

彼は今にも泣き出しそうだった


「ごめんなさい、本当にごめんなさい」

「じゃあどうして、どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」

「ごめん…、私、、楽しくて、、、言い出せなくて…」



「すみません、ドアを開けて下さい。」

タクシーの運転手さんが、びっくりして振り向いた

「すみません、お急ぎですか?今日は渋滞しちゃって…」



「いえ、私だけ降りますから」

ドアが開いた

硬く握っている手を振りほどいて、私は深く頭を下げた


そのまま、必死で進行方向と反対側に走った

駅がどこにあるのか、ここがどこなのか全くわからなかったが、必死で走った

そこから、どういう風に歩いたのか、どこを走ったのかわからなかったが、気が付いたらJRに乗っていた

涙が止まらなかった

ふと気が付くと、手には付箋のいっぱい付いたプレゼントのカタログを握り締めていた

黄色い付箋のページをめくると、とても美しいハート型のピアスの写真が見えた


もう、他のページは涙で見えなかった


もしかして、私は大変な間違いを犯したのかもしれない

何よりも大切な物を失ったのかもしれない

悪魔のささやきに従えばよかった

きっと今頃、幸せになれたにちがいない…



・・・少しずつ景色が変わり、電車は東京に戻ってきた

海が遠ざかると、私の気持ちは少しずつ正気に戻っていく

何が正気なのかわからなかったが、あわてて携帯を見た

『今日、子供たちみんなでケーキを作って盛り上がっています。こちらは気にせず、ゆっくりお仕事してきてください』

・・・子供を預かってくれているKさんからだった

今日は、ゆっくりできたのかも・・・


あのままおいてきた彼の事を考えた

『本当に、今日はごめんなさい。』


・・・返事は来ない


電車には、クリスマスイブを東京で過ごす人がたくさん乗り、幸せそうに下りて行き、そして、また新たなお客さんがたくさん乗ってきた

家に帰ろう・・


心の中にぽっかりと大きな穴があいたが、その穴に必死で夫と子供を詰め込んで、なんとか繕おうと努力した

もう、夢は終わり・・・

さようなら、王子さま

シンデレラの魔法はもう解けました・・・




・・・つづく