9V-SJF通信

航空関係を中心としたコラムです。

A380は空の旅のスタイルを変えるか

2005-02-01 22:52:49 | 航空旅行
総2階建ての飛行機として注目されているA380がとうとう公開されました。

私自身、飛行機ファンだといいながら、このニュースには疎く、朝の出勤前、何気なく見ていたTVニュースで知りました。今、9V-SJF通信のあるgooブログの検索で「A380」をキーワードに探してみましたところ、29件が見つかりました。gooに限らず、他のブログサイトでもA380をネタにした記事がちらほらありました。今月号には間に合いませんでしたが、来月号の「月刊エアライン誌」でもA380を取り上げるようです。A380をネタにしたのは航空ファンやマイラーと呼ばれる方々のブログだけでなく、一般の方々のものと思われるブログでもネタになっていたのは興味深いことです。(ちなみに、同じエアバス社が誇る飛行機でも、私が前の記事で取り上げたA345についてはgooブログの検索結果では私1人しかなかった!)巨人機としてこれまで君臨してきたB747を超えるこの超巨人機の登場に、非常に多くの方々の関心の目が向けられている、ということを示しているでしょう。

A380についてはいろいろな話が出ていますが、私が最も注目したいのは、客室に椅子以外の設備を設けることができる、ということです。私も細かいところは覚えていないですが、免税店やラウンジのようなエリアが設けられる、との話を聞いた覚えがあります。これは、画期的なことだと思います。

かつて、航空運賃は非常に高く、空の旅はごく限られた人のためのものでした。それを変えたのは、ボーイング社が開発した747型機、所謂ジャンボジェットでした。B747という超大型機の登場により、大量輸送の実現が可能になり、そのゆとりあるキャパシティを活用するために、ツーリストクラスが誕生しました。これまでファーストクラスしかなかったような状態の中にエコノミークラスが登場した訳です。こうして発生した大量の座席を売りさばくため、パッケージツアーが次々と生み出されたと言われています。かつて、全日空(NH)が「ハンバーガー計画」なる宣伝を打ち出していたことがありましたが、NHのキャッチフレーズ通り、今ではセレブのステータスではなく、「ハンバーガーのように」カジュアルな乗り物になりました。国内線については各種割引料金や新興の航空会社の出現によって、JRなどと十分対抗できるまでになりました。また、高値の華だった海外旅行については格安パッケージツアー、各種割引運賃により、「下手な国内より海外の方がオトク」などといわれる時代になりました。国内外を問わず、このように安価に空の旅を楽しめるようになったのも、元をただせばB747のおかげだったといえるでしょう。

将来の飛行機像としてかつて、B747を中心とする機体の大型化とは別に高速化、ということで夢の超音速機がキーワードになった時代がありました。高速化の代表といえばコンコルドですが、実際にふたを開けてみると超音速機として活躍できたのはコンコルドぐらいで、そのコンコルドもさまざまな理由で引退に追い込まれました。高速化が失速した一方で、大型化は大成功を収め、私たちの暮らしを変えました。1970年代に誕生した747は30年以上たった今でも進化を続け、1000機以上の数が生産されました。今では2マン構成(パイロット)の最新型のハイテクジャンボ-400型にまで進化しています。

このようにしてB747は成功した訳ですが、今まではエコノミークラスの座席に代表されるように、狭いところに詰めるだけ詰め込むという戦略を取っていました。かつてはそれでも良かったのかもしれませんが、便数が増えて供給できる座席数は増え、飛行機の航続距離が伸び、フライト時間12時間、13時間のノンストップフライトさえ一般的なものになった現在ではエコノミークラス症候群などの新たな問題を生み出すようになってしまいました。かねてから、殊にエコノミークラスの座席については潜在・顕在を問わず、多くの改善要望があった訳ですが、なかなか根本的な改善ができない状態だったかと思います。「自分の座席とトイレ以外に行く場所がほしい」とお感じになられた読者の方々も多いかと思います。

A380が用意した免税店やラウンジなどのエリアは、こうした乗客が潜在的に持っていた、でも、今まで手をつけることができなかった領域に初めて踏み込んだといえるでしょう。「SQ20/19デビューから1年」で取り上げたシンガポール航空のA345にはエコノミークラスにも小さなラウンジが備え付けられていますが、それを「こんな空の旅のスタイルが考えられるよ」と初めて我々の前に提示したといえるかもしれません。乗客は、トイレと自分の座席以外に時間を潰す場所があるのですから、もしこれが実現したら画期的なことです。かつて、空の旅がセレブのものだったときは別として、今まではこのような発想でキャビンの設計をすることができなかったのですから。

近い将来、各航空会社が工夫を凝らした「エコノミーでもラウンジつき」の飛行機はどんどん出てくることになるかもしれません。そんな飛行機の就航が楽しみなところです。