黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

択一試験の存在意義と攻略法

2010-07-26 06:33:10 | 各種資格
 7月14日に、東京弁護士会の夏期合同研究があり、その中で法曹養成制度についてのプレシンポジウムが行われました。
 その内容は、あまりにも露骨に現行の法科大学院制度を擁護するもので、これに対する批判は1つの記事では書ききれないほど沢山あるのですが、今回はそれに関連する事項として、司法試験などの「択一試験」の存在意義について、黒猫流の考え方をまとめてみることにします。

 旧司法試験の択一試験は、憲法・民法・刑法の3科目で、各科目20問・合計60問を3時間30分で解くというものでしたが、新司法試験の択一試験は、公法系科目(憲法・行政法)、民事系科目(民法・商法・行政法)、刑事系科目(刑法、刑事訴訟法)の3科目に分かれ、公法系と刑事系が各40問(解答時間1時間30分)、民事系科目が74問(解答時間2時間30分、なお問題数は平成22年度の場合)となっています。
 要するに、新試験になって択一の出題範囲と問題数が大幅に増えたわけですが、上記のプレシンポジウムでは、特に法学未修者にとって、この択一試験対策が大きな負担となっているという指摘があり、法科大学院関係者を中心に、択一試験の廃止ないし出題範囲の限定を主張する動きがあるようです。
 プレシンポジウムでは、択一試験の出題例として行政法に関する問題が紹介され、どうやら新司法試験の択一はこんなに難しいんだということを訴える意図があったものと思われますが、確かに行政法を勉強したことのない人にとって、行政法は結構難しい問題のように見えるようなのですね(なお、旧試験下では、行政法は論文試験・口述試験における選択科目の一つに過ぎず、しかも学習範囲が広いため選択科目としては敬遠される傾向にあり、しかも平成12年からは選択科目自体が廃止されたため、旧試験下で行政法を勉強した人はあまり多くありません)。
 ただ、行政法選択者であった黒猫の立場からみると、新司法試験の択一試験は、概ね基本的な理解を問う良問が出題されており、しかも最近は部分点が広く認められるようになったため、むしろ旧試験より問題の難易度は低下しているように思われます。その択一試験が、特に法学未修者の卒業生にとって負担になっているというのですが、未修者とはいえ法科大学院で3年間も法律を勉強してきた人が、あの程度の問題対策で「大きな負担を強いられている」というのでは、むしろ「法科大学院では一体何を教えてるの?」と疑問を感じずにはいられません。

 ちなみに黒猫自身は、司法試験に限らず択一式試験と呼ばれるものは数多く受験しており、今までの主な「戦績」を挙げると、概ね以下のとおりです。
・旧司法試験第二次試験 平成10年と平成11年に受験し、二回とも合格(平成11年に最終合格)
・国家公務員Ⅰ種の一次試験 平成11年に合格(論文で落ちた)
・行政書士試験 平成11年に合格
・ビジネス実務法務検定2級 平成11年に合格
・宅地建物取引主任者試験 平成12年に合格
・マンション管理士試験 平成13年に合格
・管理業務主任者試験 平成13年に合格
・CFP試験 平成15年か16年に合格(全科目一括で一発合格)
・DCプランナー2級試験 平成16年頃に合格
・DCアドバイザー試験 平成16年頃に合格
(このあたりから、いつ受験したか記憶が曖昧なため、合格年度の記載は省略します)
・初級システムアドミニストレータ試験 
・産業カウンセラー試験(筆記試験) 
・個人情報保護士試験 
・メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種
・アロマテラピー検定1級
・証券外務員Ⅱ種試験
・経営学検定初級

 なお、これ以外にも受験はしたものの、落ちて諦めた試験がいくつかあります(例えば、社会保険労務士試験は二回受験して失敗し、その後弁護士資格の取得により受験する意味がなくなったので諦めた)ので、黒猫にとって択一試験はもはやライフワークのようになっています。
 これらの「戦績」を踏まえて発言させてもらうと、法律関係の択一式試験というのは、法律に関する「常識感覚」を問う試験ではないかと思います。
 たしかに、択一試験不要論者の指摘するとおり、実際の弁護士業務においては、条文や判例の知識も決して記憶に頼るわけではなく、問題になる度に最新の六法で条文を確認するのが通常です(憲法を除き、最近はどの法律も法改正が頻繁に行われているので、現行条文がどうなっているか確認しないと大変なことになりかねません)。
 しかし、弁護士・検察官・裁判官といった法律の専門家になるためには、法律に関する基本的知識を一旦は頭に入れておく必要があり、それをやらないと、具体的事件においてどのような法律が問題になるのか、ということすら理解できない事態になってしまいます。ただでさえ、特に合格者数を1500人レベルに増やした58期・59期あたりから、条文に明記されている民法の基本概念すら理解できていない新人弁護士が増えていると言われており(なお、新司法試験制度に移行した後も、合格者の質が特に向上したという話は聞いたことがありません)、この状況で択一試験まで廃止してしまっては、司法修習生や新人弁護士の「知識不足」は、もはや救い難いレベルにまで落ちてしまう危険性があります。
 
 そもそも、法律関係の択一式試験では、別に法律の条文や判例を一字一句丸暗記することまで要求されているわけではありません。択一式試験の正解にたどり着くには、問題文の「肢」と呼ばれる短い文章を読んで、それが正しいか誤りかを判断できればいいわけで、法律をそれなりに勉強して一定の「常識感覚」を身につければ、充分合格レベルに達することが可能です。
 具体的には、講義で基本法に関する知識をそれなりに教わった上で、予備校などが実施している、択一試験の答案練習を受講します。もちろん、最初のうちから合格点を取れる人は稀でしょうが、解答・解説を読みながら自己採点をして、間違えた部分を覚え直します(逆に言うと、悩まずに正解した問題については、特に覚え直す必要はありません)。
 むろん個人差はあるでしょうが、一般的に法律に関する基本講義の受講を終えた後、このような答案練習を10回ないし20回ほど繰り返せば、充分択一の合格点は取れるのではないかと思います(実際黒猫は、このような答練を10回くらい受けて、司法試験の勉強2年目の段階でも択一試験には合格できました)。
 なお、旧司法試験の合格まで長期間を要した人の中には、民法の条文を全部丸暗記したとか、凄まじい暗記作業を行った人もいるようですが、短期合格のためには、このような作業は全くの有害無益です(そもそも民法に関しては、条文に明記されていない論点が重要で試験でも狙われるので、条文を丸暗記してもあまり意味はありません)。そんなことをする時間があるのなら、過去問や予備校の模擬試験などで答案練習を行い、その復習をした方がよほど有益です。
 わざわざ多額の学費を払って、法科大学院で3年間も法律の勉強をした人が、新司法試験の択一で「過大な負担を強いられている」というのは、勉強の仕方によほど問題があるか、あるいはもともと法律家に向かないかのどちらかではないかと思います。

 ちなみに、法科大学院制度が始まる前の東京大学法学部でも、ある教授の発言によれば、「現在の法学部生のうち3分の1は問題なく法曹に向いており、3分の1はきちんと鍛え上げれば法曹になれるが、残りの3分の1は法曹には向いていない」ということでした。
 東大法学部でさえそのような状況であれば、むろん他の大学における法学部の資質は推して知るべしということであり、司法試験の合格者数をむやみに増やして、法曹たる資質のない人に無理矢理弁護士資格を与えたところで、法律相談をさせれば(依頼者も呆れるような)とんちんかんな回答しかできず、準備書面もろくに書けないといった役立たずの弁護士が粗製濫造され、ひいては弁護士に対する社会的信用の失墜と弁護士の社会的地位低下を招き、法曹になれる資質をもった貴重な人材は法曹界に集まらなくなり、それによって法曹の質がさらに低下するという悪循環を招くだけであり、実際にもそのような事態が現在生じつつあります。
 もっとも、問題の所在は単に法学教育のみにあるわけではなく、日本人全体の「学力低下」という問題がその根源にあるのかもしれませんが、もともと日本は人間以外にろくな資源のない国ですから、法科大学院にしろ一般の学校にしろ、これ以上学生を甘やかすようなことをやっていたら、本当に日本は滅びるかも知れませんよ。

7 コメント

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Unknown (Unknown)
2010-07-26 07:19:54
なんでまた行政法なんでしょうね?
出題歴が積み重なりすぎて奇問・悪問化してる
別科目の方が説得力ありそうですけど

択一どうにかするより、世界的にも稀有な
論文試験をシンプルにした方が良いと思いますが
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Unknown (Unknown)
2010-07-26 09:39:58
「特に合格者数を1500人レベルに増やした58期・59期あたりから、」

58期は1200人ですよ。大した違いではありませんが。
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Unknown ()
2010-07-26 11:17:05
丙案ってことじゃない?
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Unknown (Unknown)
2010-07-27 03:53:35
旧司法試験の平成11年以後の刑法パズル問題や、
そもそも試験時間内に全て問題文を読んで考えて解答することが物理的に不可能だった60問なども、
思い出すと出題者を今でも憎悪します。
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Unknown (Unknown)
2010-07-27 22:20:35
 >>7月14日に、東京弁護士会の夏期合同研究があり、その中で法曹養成制度についてのプレシンポジウムが行われました。
 その内容は、あまりにも露骨に現行の法科大学院制度を擁護するもので、これに対する批判は1つの記事では書ききれないほど沢山あるのですが、

このシンポジウムでの議論の内容とそれについての黒猫先生の見解をブログでお願いします。
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Unknown ()
2010-07-29 08:32:10
戦績すげー
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そうですね (Unknown)
2010-07-31 15:41:07
ただ今の司法試験は、択一と論文が同時ですから、旧来の択一合格者の水準を要求するのは酷でしょうね。
最低合格点を少し下げれば、いいのではないでしょうか?
もっとも、その点数で論文高得点者は滅多にいないでしょうけど・・・。
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