東福寺の紅葉で著名な渓谷・洗玉澗(せんぎょくかん)に架けられた3つの橋の中で、最も上流側にある偃月橋(えんげつきょう)を渡ったところに、日本最古の方丈建築がのこされています。塔頭・龍吟庵(りょうぎんあん)です。
室町時代初期の建築には、蔀戸(しとみど)のような寝殿造りの名残ものこされています。書院造が芽生え始めた中世において、建築様式が少しずつ進んで行ったことを物語る見事な空間美です。
その国宝の方丈の周囲を昭和の名作庭家・重森三玲(しげもりみれい)による斬新な庭が取り巻いています。紅葉期と春にだけ公開される、新旧の美が融合した稀有な空間です。
偃月橋
龍吟庵は、東福寺第3世住持の無関普門・大明国師(むかんふもん・だいみょうこくし)の住居として1291(正応4)年に開かれました。無関普門は亀山上皇から南禅寺の開山として招かれた高僧で、東福寺開山の円爾(えんに)の愛弟子でもあります。
龍吟庵は東福寺の塔頭の中でも筆頭格です。洗玉澗を渡った奥、開山堂に隣接して境内が設けられていることからも特別な塔頭であることがわかります。
龍吟庵に行くためには江戸時代初期に再建された重要文化財・偃月橋を渡らねばなりません。偃月橋は特別な場所へといざなう趣にあふれています。下流の通天橋を見下ろすことができ、深山渓谷の真っただ中にいることを感じさせます。通天橋と比べ人通りは目立って少なく、東福寺の悠久の静けさを深く味わうことができます。
方丈は室町時代初め、3代将軍・義満の治世の頃の建築で、かかげられた扁額は義満の筆と伝えられています。安土桃山時代のように襖で囲まれていないことが、この建築が積み重ねた悠久の時間の長さを表しています。
床の間はまだなく、簡素さが目立ちます。しかし板だけでしつらえられた寝殿造りよりは住宅としての温かみがあります。襖と畳に象徴される書院造への建築の進化の過程を伝えるかけがえのない遺産です。
南庭
龍吟庵は荒廃が続いていましたが、戦後になって復興が進みます。1964(昭和39)年に重森三玲によって庭園が再興され、往年の輝きを取り戻します。庭園は正面の南側に加え東西にも設けられます。正面は禅寺らしい「無」を表現した、白砂以外に一木一草一石もない空間です。この究極に何もない庭は、襖のない方丈建築に実に調和しています。悠久の時間が積み重ねた「無」を体感できる稀有な空間です。
西庭は龍が海中から昇天する姿をダイナミックな石組で表現しています。東庭は赤砂の中に無関普門を護ったとされる二匹の犬をしつましく表現しています。三つの庭の表情は実に対照的ですが、いずれも無限の奥深さを感じさせます。日本の庭園美を代表する素晴らしい空間です。
方丈入口
龍吟庵からも東福寺が誇る洗玉澗の紅葉を楽しめます。白砂しかなく究極にシンプルな南庭から借景を構成しています。禅寺の原点の空間が650年の時を経て、見事にここに伝えられています。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
禅庭との向き合い方とは? 京都の禅寺に新風を起こす妙心寺退蔵院副住職が語る
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東福寺 龍吟庵
看楓特別拝観
【京都市観光協会サイト】
会期:2018年 11月1日(木)~12月2日(日)
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~16:00
※この特別公開は毎年、秋(11月頃)と春の涅槃会(3/14-16)に行われます。
◆おすすめ交通機関◆
JR奈良線・京阪電車「東福寺」駅下車、徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
京都駅→JR奈良線→東福寺駅
【公式サイト】 アクセス案内
※この施設には無料の駐車場がありますが、紅葉期間中は閉鎖されます。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
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