京都の10月の虫干しと言えば「大徳寺」
茶道文化との関係が深く千利休で著名な大徳寺。京都盆地の北に位置するこの寺からは、高層建築がなかった頃まで、洛中(京都中心部)を眺望できた。京都盆地の南に位置する東寺の、江戸時代以前では最も高い五重塔(55m)の高さとほぼ同じ標高に位置しているからである。
京都は盆地だが北から南に低くなる傾斜が実際はかなりきつい。階段状に水を落とすことで急流を打ち消すよう工事された出町柳あたりの鴨川、金閣寺あたりで上り坂が顕著な西大路通り、といったところで傾斜のきつさがわかる。
大徳寺山内の庭はほとんどが洛中の方を見る南向きだが、現在はビルが借景に入らないように樹木を高くしているため洛中は見えない。おおむね戦前までは現在より樹木が低かったため、さぞかし至福の眺めを満喫できたであろう。
大徳寺の数ある堂宇の中で中心となるのは「本坊(ほんぼう)」だ。近年は、狩野探幽の雲竜図のある法堂(はっとう)と国宝の唐門(からもん)・方丈(ほうじょう)の3つの建物が、五月の連休前後と9月中旬~10月中旬に公開されることが多くなった。
その中でも10月の第二日曜、年に1日だけ方丈において寺宝が公開される日がある。古来より行われてきた掛け軸などの美術品を陰干しすることで虫除けする「曝涼(ばくりょう)」もしくは「虫干し」と呼ばれる恒例行事だ。寺社の持つ国宝クラスの美術品が公開されることが多いので是非注目してほしい。
国宝の方丈は狩野探幽の襖絵で著名だが、虫干しの日は襖の上に掛け軸が掛けられるため襖絵は覆い隠される。しかし掛け軸の中には日本の禅宗美術のトップクラスの逸品が収まっている。美術展のようにガラスケースの中ではなく、生で見ることができる。生で見られるのは虫干しの最高の「よいところ」だ。ただし近づきすぎは、息がかかって作品を傷めることになるので絶対にNG。
日本の水墨画に大きな影響与えた宋末元初の画僧・牧谿(もっけい)の傑作「観音図・猿鶴図」は必ず見てほしい。室町時代に権力者の間で流行し、日明貿易で多くもたらされた中国の美術品は「唐物(からもの)」と呼ばれた。その中でも特に珍品とされるものは、足利将軍家が所有し「東山御物(ひがしやまごもつ)」と呼ばれる。「観音図・猿鶴図」もその一つで国宝だ。
観音様はとても優しい表情で、巨大な大陸の山河を超えてやってきたことを感じさせる神秘的な顔立ちだ。どこまでも揺るぎのない落ち着きがあり、日本の観音仏にはない雄大な包容力が伝わってくる。
威厳のある趣を見せる「大燈国師像」は、鎌倉時代末期の大徳寺の開山(かいざん、寺を開いた僧)の頂相(ちんそう、高僧の肖像画)だ。寺にとっては本尊とともに最も大切な信仰の対象となる。厳格な態度で禅と向き合った人物と伝わり、それが威厳高く表現されているのであろう。しかしこの絵ではたれ目で「最近の若い者は...」と苦々しくぼやいているように見える。それがとても人間味を感じさせるので、私はこのお姿がとても好きだ。
方丈の前には、庭の国宝である「特別名勝」方丈庭園が広がっている。白砂の中に目立つように岩が置かれておらず、整然と波打つ模様の中に盛砂が並んで作られているだけだ。きわめてシンプルで、しばらく眺めていると何も考えないようになって頭が軽くなる気分になる。ぜひゆっくり座ってほしい。
大徳寺の境内は限りなく静かで整然としている
日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。
「ここにしかない」名作に会いに行こう。
裏千家と繋がりが深い淡交社による古寺巡礼京都シリーズ、古寺が伝える文化の解説が充実
大徳寺 本坊 曝涼展 <京都観光Navi>
https://kanko.city.kyoto.lg.jp/detail.php?InforKindCode=2&ManageCode=1000418
会期:2017/10/8(日) 9:00~15:00 ※雨天中止
※2017年9月時点でインターネット上の公式サイトは未開設
大徳寺 本坊(方丈・法堂・唐門)大徳寺 特別公開
http://kyotoshunju.com/?temple=daitokuji-honbo#
会期:2017/9/16~10/15 9:00~16:00
原則休館日:9/21、10/4、10/8