前回に引き続き鞆の浦をレポートします。瀬戸内海の随一の景勝地である鞆の浦の中でも最高格の景勝スポットが、福禅寺(ふくぜんじ)にあります。港に隣接する高台の境内に設けられた江戸時代の朝鮮通信使の迎賓施設・対潮楼(たいちょうろう)です。
鞆の浦の東に広がる瀬戸内の多島海を完璧な構図でのぞむことができます。朝鮮通信使が「一番の景勝地」と絶賛したことにも納得できます。港で感じる江戸時代の生活の息吹とは異なる、とても優雅な雰囲気を体験することができます。
朝鮮通信使たちがここで絶景を楽しんだ
福禅寺は平安時代半ばに、諸国を行脚して念仏を伝えた空也上人が、村上天皇の勅命で開創したと伝えられています。中世の様子は不明ですが、江戸時代になって朝鮮通信使の宿舎となってから脚光を浴びるようになります。
朝鮮通信使とは、李氏朝鮮王朝から日本に派遣された外交使節団です。室町時代から始まりましたが、安定的に行われるようになったのは江戸時代になってからです。江戸時代に計12回派遣され、主に将軍の代替わり時に江戸まで出向きました。朝鮮側の使節団は500人、案内・警護役の対馬藩士が1,500人も同行する大船団・大行列でした。釜山から海路で大坂まで行き、江戸までは陸路で移動しました。
矢印の建物が福禅寺と対潮楼
鞆の浦は対馬・壱岐・下関・牛窓と並んで使節団の寄港地になっていました。鞆の浦は初期の使節団から景勝地として評判になっており、使節団の期待に応えるべく、鞆の浦での接待役であった福山藩の意向が働いたのでしょう。対潮楼は高台にある福禅寺の境内に、客殿として1694(元禄7)年に建てられました。
【公式サイトの画像】 扁額
朝鮮より東で一番の景勝地を意味する「日東第一形勝」、使節団が命名した建物名「対潮楼」の扁額がそれぞれ対潮楼に掲げられています。いずれも使節団の一員が書き残した書を写したものです。書体には異国の文化人による優美さを感じさせます。使節団の滞在時には多くの日本の文化人が対潮楼に集まり、サロンとして異文化交流が賑やかに行われていました。
室内から見ると、窓枠が額縁の役割を果たし、絶景を上手に視界に収めてくれます。正面の弁天島に立つお堂は、雄大な山水画の中に小さく描かれた建物のように、風景を引き締めています。海なので船が動く様子も目に入ります。動画がなかった江戸時代には、ことさら優越感にひたれる眺めだったでしょう。
対潮楼は幕末に、坂本龍馬が率いる海援隊がチャーターしたいろは丸が紀州藩の軍艦と鞆の浦沖で衝突・沈没し、事故直後に行われた海援隊と紀州藩の交渉の舞台にもなりました。
かけがえのない瀬戸内の風景が鞆の浦には広がっていますが。近年この風景に大きな危機がありました。港の中を横切るようにバイパス道路の架橋が計画されていましたが、景観保持を求める内外の声に押されて計画は中止になりました。建設されていれば常夜燈の目前を橋が横切ることになり、風景や情緒はだいなしでした。
文化財保護と現実の生活や経済活動の兼ね合いの答えとして、本当に大きな決断でした。これからも安心して瀬戸内ののどかな風景を楽しむことができます。ぜひお出かけください。
こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。
江戸時代に朝鮮半島文化を伝えた使節団の意義を探求
福禅寺 対潮楼
【公式サイト】http://ww7.enjoy.ne.jp/~taichorou/
原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:8:00~17:00
おすすめ交通機関:
JR福山駅まで、東海道・山陽新幹線で東京駅から3時間30分、新大阪駅から1時間
JR福山駅からトモテツバス「鞆港」バス停下車、徒歩5分
JR福山駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
JR福山駅南口 5番バスのりば→トモテツバス「鞆の浦/鞆港」行→「鞆港」バス停
【ニッポニア・ニッポン 鞆物語】 アクセス案内
※鉄道やバスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※この施設には駐車場はありません。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。
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