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妙心寺 天球院 柔らかな金碧襖絵の傑作_京の冬の旅 特別公開 1/10から

2018年12月17日 | お寺・神社・特別公開

狩野山楽(さんらく)・山雪(さんせつ)の障壁画で著名な妙心寺の塔頭・天球院(てんきゅういん)が、年明けから始まる2019年京の冬の旅で特別公開されます。

  • 禅寺方丈の障壁画が江戸時代初めの創建時からほぼ完全な形でのこされた京都でも稀有な寺
  • 山雪の特徴である幾何学的な構図が、探幽(たんゆう)ら江戸狩野作品と比べてとても斬新
  • 展示のほとんどは高精細複製品だが、言われないと気付かないほど見事な出来栄え


障壁画が圧倒的に有名ではありますが、庭も禅寺らしくきちんと手入れされています。江戸時代初期の空間としての美しさを障壁画と共に存分に楽しめます。



天球院は1631(寛永8)年、岡山藩主・池田光政(みつまさ)が、大叔母にあたる祖父・輝政(てるまさ)の妹・天久院(てんきゅういん)のために創建しました。創建工事の際に地中から球が出てきたことから、天久院は天球院と改め、そのまま寺名となりました。

いずれも重要文化財に指定されている本堂(方丈)と室内の障壁画152面は、創建当初からのこるものです。すべて揃っていることにかけがえのない価値があります。焼失や廃仏毀釈の混乱を見事に防いできた天球院に関わる先人の努力の賜です。

天球院は近年まではほとんど公開されていませんでした。障壁画の本物がはめられていたことがその一因と思われます。障壁画の修理が2005年から行われた後、キヤノンと京都文化協会が進める「綴(つづり)プロジェクト」によって、高精細複製品が制作されます。2016年までに大部分の障壁画に複製がはめられ、天球院の特別公開も増えてきました。

【綴プロジェクト公式サイト】 キヤノン
【綴プロジェクト公式サイト】 京都文化協会

天球院以外にも複数の綴プロジェクトによる高精細複製品を見た印象として、「制作当初のような輝きがあり、本物以上に美しい」と私は思います。

例えば、俵屋宗達の風神雷神図屏風の綴プロジェクト複製品は、建仁寺で他所へ貸し出されていない限り、常設展示されています。ツタンカーメンの黄金のマスクのように光り輝いていて、躍動感を強く感じます。

一方本物は、京博の2015年「琳派展」と2017年「国宝展」で2回見たことがありますが、400年の時間の積み重ねがあります。複製品の方を先に見ていたこともあり、本物は描写が優雅で、目の表情に生命感があると感じました。

複製は、マス目上に多分割してデジタル撮影した画像を緻密に補正し、紙や絹本に印刷したものに金箔を貼って制作しています。デジタル的に完璧に色が再現され出力されているため、とても美しく見えるのです。作品にもよりますが、襖絵1枚あたり数百万円以上の制作費がかかるという話を関係者から聞いたことがあります。

日本画は油絵と比べとても繊細で、常設展示はできません。たとえ複製品でも常設展示を可能にしたこの技術とプロジェクトは素晴らしいと思います。制作当初に設置されていた室内空間を復元するような使い方もできます。本物の代わりにはなりませんが、多くの人の鑑賞ニーズに応えられることに、何より意義があると思います。



天球院の金碧障壁画は、京狩野の初代である狩野山楽と、後継者で娘婿の山雪の合作とされていますが、制作時点では山楽は72歳の高齢でした。そのため山楽は指導にとどまり、実際の筆のほとんどは山雪の手によるものと考えられています。

【キヤノン綴プロジェクト公式サイトの画像】 籬に草花図

玄関から入って最初に目にする方丈の部屋は下間二の間(げかんにのま)で、ここには籬に草花図(まがきにそうかず)があります。籬とは格子状の垣根のことです。襖絵には横方向にまっすぐな直線で描かれており、絵の印象を引き締めています。直線に絡むように朝顔や百合の葉と花が描かれており、心が和む空間にしつらえられています。

【キヤノン綴プロジェクト公式サイトの画像】 竹虎図

隣の室中(しっちゅう)は、奥の仏間に向かって仏事を行う大切な部屋です。仏間に向かう北面は、竹林と枯山水の石が庭のように描かれています。襖を開けると現れる仏間が、庭の借景となるような錯覚を覚えます。

この部屋は縦方向にまっすぐ書かれた竹林の構図が効いています。竹林にはタケノコも多く描かれており、若々しい印象を受けます。虎は、部屋の左右・東西面にのみ描かれています。城の障壁画と異なり、虎は家族で戯れるようにとても穏やかに描かれています。

【キヤノン綴プロジェクト公式サイトの画像】 梅・柳に遊禽図

室中のさらにとなり、上間二の間(じょうかんにのま)は大切な客を通す部屋です。天球院障壁画で最も著名な雉(キジ)の絵、梅・柳に遊禽図(うめ・やなぎにゆうきんず)があります。S字型に湾曲した梅の枝を中央に描き、隅の石の上に雉がとまっています。雉を描くことでこの部屋がとても上質な空間になっています。

柳の枝にとまる白鷺もとても優雅です。三部屋の中では最も、位の高い武家の女性が好むようなしつらえです。


Ballの意匠が随所に施されている

閑谷学校を開き、岡山藩の礎を築いた池田光政は、大叔母のための禅寺の障壁画に、一般的な水墨画ではなく金碧画を多用しました。天球院の方丈の空間に柔らかい印象を受けるのは、女性の好みを計算したためでしょう。

江戸時代初期の作品が現存し、禅寺には珍しい金碧画でしかも柔らかい。天球院は稀有な歴史・美術遺産です。



こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



江戸に行かず京都にとどまった京狩野三代の渡世術

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第53回 京の冬の旅
非公開文化財特別公開 ~秘められた京の美をたずねて~
妙心寺 天球院
【主催者による特別公開公式サイト】

主催:京都市観光協会
会場:妙心寺 天球院
会期:2019年1月10日(木)~3月18日(月)
原則休館日:会期中無休
入館(拝観)受付時間:10:00~16:00

※この特別公開は定期的に行われるものではありません。
※この寺・堂宇は観光目的では常時公開されていません。次の公開時期は未定です。

妙心寺 天球院
【公式サイト】 http://tenq-inn.com

妙心寺
【公式サイト】  https://www.myoshinji.or.jp



◆おすすめ交通機関◆

JR嵯峨野線「花園」駅下車、徒歩10分
京福電鉄北野線「妙心寺」駅下車、徒歩2分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
京都駅→JR嵯峨野線→花園駅

【妙心寺公式サイト】 アクセス案内

※この施設は妙心寺の有料の駐車場が利用できます。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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