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安倍文珠院 ~快慶の美仏が智慧を授けてくれる

2017年11月27日 | お寺・神社・特別公開

智慧の文珠はここにあり

 

 

奈良・桜井の安倍文珠院は、山門にも掲げられているように「文珠」の仏様で知られる。学業成就祈願でなくとも訪れた人は、本尊の文殊菩薩の美しさには目を奪われるだろう。快慶作の美仏だ。2013年に国宝指定されたことから、訪れる人もさぞ増えているに違いない。

 

文殊菩薩は5体一組の五尊像になっているが、維摩居士像だけが安土桃山時代の後補作で、国宝の附指定(つけたり、追加・付属の指定)になっている。残り4体は快慶作で、彼の代表作と言ってもよい。文殊菩薩は1203(建仁3)年の作品で、快慶は東大寺南大門の金剛力士像と同時並行で作像していた。その年には東大寺の復興完成行事である総供養が後鳥羽上皇の行幸を得て行われることが決まっており、東大寺の別格本山だった安倍文珠院でも新しい仏像を迎えての法要に間に合わせたかったと考えられている。

 

文殊菩薩は、東大寺鎌倉復興の立役者である重源の念持仏である。重源と快慶は関係が親密だった。快慶としても過密スケジュールの中で何としても高いレベルでやり遂げたい仕事だったことは想像に難くない。

 

獅子の背中の上に座っていて「騎獅文殊菩薩」と呼ばれる傑作は、像高は7mあってかなり大きい。獅子は巨体だが、その目は優しく作られておりどこかチャーミングに見える。しかしその上の文珠様は、典型的な快慶スタイルである端正で理知的なお顔立ちだ。獅子の上に乗っかって獅子を制御しながら、獅子に恐れることが無いような智慧を万人に授ける。そんなとても賢明でIQが高そうなお姿に見事に見せている

 

脇侍の一人「善財童子(ぜんざいどうじ)」は、そのあどけない表情と一瞬の動きをとらえたポーズで人を引き付けるオーラがある。文殊菩薩に諭されて、悟りを開くために様々なところから智慧を集めてくる姿を表現している。とても記憶に残るお顔立ちであることから、展覧会に出陳された場合にチラシやポスターに採用されることが多い。画像を見ると見覚えのある方は少なくないだろう。

 

【公式サイトの画像】 騎獅文殊菩薩像、善財童子像

 

 

 

 

文殊菩薩がいらっしゃる本堂

 

 

安倍文珠院は、大化の改新の頃、有力豪族だった阿倍氏の氏寺として創建された。奈良時代に吉備真備らとともに唐に渡るもついに帰国できなかった阿倍仲麻呂や、平安時代の陰陽氏として知られる安倍晴明も一族だ。“あべ”の字は平安時代に“阿倍”から“安倍”に変わったようである。現首相の安倍晋三も安倍氏の末裔と称しているが、平安時代に東北で勢力を伸ばした安倍氏の血筋のようだ。東北の安倍氏と文珠院の安倍氏に関係があるかは定かではない。

 

本堂の横には文殊院西古墳がある。寺の境内に古墳があるとは驚きだが、そもそも安部文珠院は鎌倉時代に現在地から少し離れたところから移転している。古墳は飛鳥時代の阿倍氏一族の有力者の墓であることが確実視されている。石室の中に入れるのでぜひ入ってほしい。石積みがとてもきれいですき間はまったくない。石室内は著名な石舞台古墳よりもはるかに美しい。

 

 

 

境内にある文殊院西古墳の入口

 

 

飛鳥時代のロマンと鎌倉の美仏が同居する見ごたえのある寺である。年末には干支の花絵、春秋にはコスモス、4月の桜も美しい。季節の花も充分に楽しめる。

 

 

日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。

 

 

四字熟語を通じた日本社会の諸問題への提言には感心させられる

 

 

安倍文珠院

http://www.abemonjuin.or.jp/

原則休館日:なし

※仏像や建物は、公開期間が限られている場合があります。

 

 

 


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