三菱と日本の国を100年以上見続けてきた
三菱重工・長崎造船所は、グラバー園や出島などがある長崎中心街から湾を挟んだ反対側の広大な敷地を占めている。高台のグラバー園からは船を造るクレーンが動く様子がよく見える。この地は明治以降現代にいたるまで、日本にとって最も重要な造船所の一つであり続けている。旅客船・タンカー・軍艦とあらゆる大型船を建造し続けてきた。戦艦武蔵も、呉などにあった海軍工廠(海軍の直営工場)ではなく、民間企業であるここ長崎造船所で建造されている。
三菱の歴史にとどまらず国家の歴史を築き上げてきた造船所と言っても過言ではない。2015年に登録された世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の全23の構成遺産のうち5資産がこの造船所内にある。中でもドックとクレーンの2資産が、20世紀初頭に作られてから100年以上たつが現在も現役で使用されていることには驚きを隠せない。
歴史の重みを感じさせる史料館内部
史料館はエンジンなどを鋳造する木製鋳型を作る「旧木型場」で、製造所敷地内で唯一見学できる世界遺産だ。見学で訪れるには、予約した上で長崎駅前から出るシャトルバスに乗車しなければならない。シャトルバスが製造所敷地に入ると写真撮影は禁止となるが、史料館内では写真撮影可能だ。ガイドの説明があり、自由見学もできる。
展示物でとても大きくて風格のある「竪削盤」は、幕府が1857(安政4)年にオランダから購入したもので、日本最古の工作機械として重要文化財に指定されている。他にも巨大なタービンなども展示されており。メカ好きにはたまらないだろう。
1929(昭和4)年に竣工し、日本郵船のサンフランシスコ航路に投入した豪華客船「浅間丸」の史料も充実している。映画タイタニックで見たようなきらびやかな意匠の船内をしのぶことができる。
戦艦「武蔵」の史料は特に見応えがある。長崎造船所の技術水準の高さが実感できるとともに、武蔵建造の判断自体が結果的に正しくなかった歴史の厳しさを考えさせられる。武蔵は大和と同じく自慢の巨砲は実戦でほとんど活躍することなく、戦争末期に米軍機の攻撃で沈んでいったのだ。
武蔵建造中はその様子が見えないよう、対岸の高台にあるグラバー邸を三菱重工が買収し、立ち入り禁止にしていた。まさにトップシークレットの船であり、撮影が厳しく制限されていたため艦の写真はほとんど残っていないと言う。在りし日の姿がほとんど見られない神秘性が、武蔵の悲劇をさらに強調しているように思えてならない。
史料館内には完成直後の世界遺産・ジャイアント・カンチレバークレーンの写真が展示されている。資材を移動するためにイギリスから輸入したもので、現在対岸から望める姿と全く変わっていない。近代国家建設に挑んだ明治の先人の気概を今に伝える素晴らしい産業遺産である。
1909(明治42)年に輸入されたクレーン
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。
「三菱は国家なり」と言われた理由がとてもよくわかる一冊
三菱重工業株式会社 長崎造船所 史料館
http://www.mhi.co.jp/company/facilities/history/
原則休館日:毎月第2土曜
※見学は予約が必要です。
※造船所内の世界遺産には見学できないものもあります。