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北京 故宮 外朝_スケールの大きさと高貴さを兼ね備えた稀有な空間

2019年07月23日 | 城・屋敷・歴史遺産

ほぼ10年ぶりに訪れた北京の故宮(紫禁城)は、世界最大の本物の宮殿の貫録を引き続き、訪れる者に強く印象付けてくれています。オレンジ色の屋根瓦、赤土の壁、白い大理石の石畳、ここにしかない非日常空間は全く輝きを失っていません。

  • おそらく世界最大の入場者数を誇る文化遺産スポット、空間だけでなく人波のスケールも圧巻
  • 動乱や戦災を免れ、清朝時代の空間が現存していることが、何よりかけがえがない
  • 日本文化との共通点も少なからず発見でき、個性の違いはとても興味深い


余りにも巨大なスポットですので2回に分けてレポートします。今回は紫禁城の中心の建物・太和殿がある、国家的行事や文化・学問が行われていた外朝(がいちょう)エリアです。


太和殿の中心、皇帝が座る玉座

中国の象徴ともいえる天安門の周辺には、故宮を始め毛主席記念堂や国家博物館など有名な観光スポットが集中しています。故宮博物院が開く朝8:30に最寄りの地下鉄・天安門東駅に到着しましたが、すでにものすごい人手です。


 セキュリティチェックと本人確認が厳格に

中国は、鉄道駅や空港、観光スポットといった人の集まる施設の敷地に入る際に、ほぼ100%セキュリティチェックを受けなければなりません。日本では空港でしか行われていない、所持品のX線検査とボディスキャナーによる金属探知検査です。また中国人は国家ID、外国人はパスポートを見せないと通過できません。なので混雑スポットでは渋滞に拍車をかけることになります。

天安門広場周辺に設けられたセキュリティゲートを一度通過すれば、各施設でセキュリティチェックを受ける必要がないため、ある意味合理的です。ゲート通過時にはピリピリした空気が漂っています。今回中国で訪れた観光スポットでは最もチェックが厳しい印象です。中国の国家の象徴であることに加え、天安門事件30周年の日が近かったことが影響しているのでしょう。

10分ほどでゲートを通過でき一安心ですが、天安門をくぐって故宮の入口の午門まで人波が続いています。外国人観光客を中心とする入場チケットのネット購入ができない人向けのチケット売り場の行列が心配になりましたが、こちらも行列はさほどはなく、ホッとします。


37か国語が用意されている

「エスペラント語まであるが誰が借りるのか?」という故宮のトリビアとして有名な音声ガイドの言語数の多さも健在でした。音声ガイドを借りている人は少ないという印象を受けたように、故宮の中では外国人の姿をあまり見かけません。ガイドに先導された中国の地方からの団体客が圧倒的に多く、外国人のような個人客が埋もれてしまって目立たない印象です。


巨大な空間にとてつもない人波

故宮は2015年から「80,000人に達したらその日の入場を打ち切る」入場制限を始めています。新華社によると年間入場者数は1,400万人を超え、ルーブル美術館を上回って文化遺産スポットの入場者数としてはおそらく世界一でしょう。幸い外朝エリアは巨大な建物と広場だけで構成されており、空間としての開放感は抜群です。とてつもない人波を充分に吸収して余りあるほどです。


 北京の故宮はチャイナパワーを最も如実に感じる場所

このとてつもない人波が今の中国社会を象徴しています。成長が減速したとはいえ、ほとんどゼロの日本に比べ年6%成長を続けており、すでに日本のGDPの2倍に達しています。日本でも中国人観光客が目立つように、中国社会は着実に豊かになっていると感じます。

街中や公共施設のトイレもずいぶんきれいになっています。北京の空はまだ青くなく、イケイケドンドンの社会の”発展”はまだまだ続いていると感じられます。

北京は中国の中でも、国内からの団体観光客が目立つ反面、上海や広州に比べ外国人の姿が目立ちません。中国の人口13億人の大半は地方に住んでおり、みやこ見物ツアーのラッシュはまだまだ続くでしょう。太和殿の前の映画「ラストエンペラー」で見た巨大な空間で、静かに中国の悠久の時間の流れを味わうには、閉館間際の夕方しかないでしょう。


鶴がいる、亀もいる

紫禁城の中心・太和殿が鎮座する白い大理石の基壇は広場のような大きさがあり、皇帝の権力を象徴するオブジェが設置されています。

皇帝と国家の末永い繁栄や長寿を象徴する鶴と亀がいます。この象徴自体は日本と同じですが、紫禁城の鶴と亀は、誰が見てもすぐわかるオブジェで実に堂々としています。庭園や絵画/工芸品の中でさりげなく表現される場合が多い日本の文化との違いを興味深く感じます。

度量衡の標準器と日時計のオブジェもあります。皇帝が時間と単位を司っていることを象徴しており、鶴と亀と同じく訪れる者に見せつけるように設置されています。日本の権力者はこのような見せ方はしません。


圧巻のスケールは”巨龍”を見事に表現

紫禁城の中心の建物で最重要の国家行事や儀式を行った太和殿は、奈良の大仏殿並みの大きさがあります。室内はまさにここでしか見ることができない豪華な装飾で飾られていますが、皇帝が鎮座する玉座しかなく、内部は巨大ながらん洞です。皇帝が巨大な空間を支配していると言わんばかりの圧巻のスケールです。

中国の皇帝は、中国のみならず世界の中心という「中華思想」を伝統的に信奉しています。実際に中国大陸は広大で現在でも方言の違いが大きく、TVで流れている普通話(北京の方言)を介さないと互いに会話できないほどです。

絶えず侵入してくる周辺の異民族の統治も大変です。紫禁城のスケールの大きさとオブジェの配置は、皇帝の権力を見せつける方法のわかりやすさを追求した結果、たどり着いた表現なのでしょう。日本と比べて価値観の多様性はケタ違いに大きく、皇帝は”巨龍”にならないと統治できないのです。

奈良の平城宮跡に復元されている大極殿も、太和殿と同じく室内が巨大ながらん洞であることが思い出されます。大極殿は唐の宮殿をまねて造られてもので1,000年後の清でも中華思想は明確に受け継がれていたと感じられます。


太和殿の屋根の四隅

紫禁城の建物の屋根瓦は「瑠璃瓦(るりがわら)」と呼ばれ、オレンジ色がどこか高貴な印象を与えます。近くから見ると、皇帝にしか使用が許されない黄色に見えます。中国、特に清朝の皇帝の肖像画の衣装はほとんどが黄色です。

屋根の四隅には走獣(そうじゅう)と呼ばれる魔除けのための動物のオブジェがあり、数が多いほど建物の格式が高いとされています。紫禁城ですので最高格の10体が並んでいます。日本の屋根瓦は鬼瓦や鴟尾(しび)以外に装飾はないため、こちらも文化の違いを感じます。


スケールの大きさと高貴さを兼ね備えた稀有な空間

オレンジ色の屋根瓦、赤土の壁、白い大理石の石畳は、それぞれ調和し、上質な空間美を形成しています。室内装飾は赤や青色を強調したいわゆるド派手な表現もありますが、とにかく空間が巨大なため、けばけばしい印象は受けません。逆に装飾がシンプルだと寂しく感じるほど空間が大きいと言えます。

外朝は国家的行事で皇帝の権威を見せつける場であり、”ドヤ”感が圧倒的なスケールで表現されています。同時に巨龍にふさわしい”高貴”な空間づくりが計算されています。世界遺産の中の世界遺産と言っても過言ではありません。

次回は空間の趣がうって変わる内廷(ないてい)をレポートします。落ち着いた空間が外朝とは対称的です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



清朝全盛期の西洋人宮廷画家が表現した美意識とは?
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<中華人民共和国北京市東城区>
故宮博物院
【公式サイト(英語)】https://en.dpm.org.cn/
【AraChina 中国旅行(日本語)】紫禁城(故宮)

原則休館日:月曜日、春節の前日(旧正月の大晦日)
入館(拝観)受付時間:8:30~16:00(11-3月は~15:30)

※公開されるエリアは、修復工事などにより頻繁に変更されます。
※公開されるコレクションは、頻繁に変更されます。

※天安門に入る際のセキュリティチェックとチケット購入にそれぞれ30分以上要する場合があります。
※入場者数が80,000人を超えると、その日の入場は打ち切られます。
※週末を中心に中国の連休時期は混雑が激しくなります。

※有料エリアへの入口は南側の午門、出口は北側の神武門と東側の東華門に限定されます。
※外国人観光客は実質的にチケットのオンライン予約は利用できません。
※外国人観光客はチケットの購入にはパスポート(現物)が必要です。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄1号線「天安門東」もしくは「天安門西」駅下車
「午門」チケット売り場まで各徒歩10分(セキュリティチェックの待ち時間含まず)

北側出口「神武門」から地下鉄8号線「中国美術館」駅まで徒歩15分
東側出口「東華門」から地下鉄1号線「天安門東」駅まで徒歩10分


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