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京の冬の旅「東海庵・妙心寺」 ~禅宗の美の基本に忠実な寺

2018年01月19日 | お寺・神社・特別公開


手水鉢の水はとても綺麗、手入れが行き届いています

東海庵(とうかいあん)は、室町時代から妙心寺の運営を分担する四つの重要な塔頭(四派四本庵)の一つで、巨大な境内の中心にある法堂(はっとう)の東隣に位置します。2018年1月~3月にかけて京都の通常非公開の寺社に拝観できる恒例の「京の冬の旅」で公開されています。

塔頭とはいえ境内の方丈や庭園は大きく、風格を感じさせます。方丈の南庭園は装飾が一切なく、数ある禅宗庭園の中でも究極の存在感を示しています。方丈の裏には一方、まったく異なる様相の庭も設けられています。仏に祈るのではなく自己と向き合うことを重視する禅宗の原点を感じさせる見事な寺です。

妙心寺境内には40近くの多数の塔頭がありますが、常時公開されているのは退蔵院・桂春院・大心院の三ヶ寺だけです。東海庵も不定期の公開にとどまります。今回の「京の冬の旅」による特別公開はとても貴重な機会になります。

方丈は江戸時代初期の建築で、制作時期・作者とも不明ですが狩野派によるものと目される襖絵を鑑賞することができます。「方丈南庭園」は、その襖絵を背にして向き合うようにあります。「白露地の庭」と呼ばれるように、石・植物・水は一切なく、ただ砂紋が直線に引かれているだけです。


方丈南、白露地の庭から法堂が見える

禅宗寺院の本堂である「方丈」の南側の白砂の庭は、本来様々な宗教儀式を執り行うために設けられたものです。そのため装飾が一切ないのが原初の姿です。しかし宗教儀式は、床が板張りから畳に変わるに従い方丈の室内で行われるようになります。すると南側の庭は、僧が修行で自己と向き合う場や、檀家など客人に鑑賞してもらう場にその性格を変化させます。

日本の庭園は、植生や美意識が常に変化するため、作庭当初の姿を残すものはまずありません。そのため現存する禅宗寺院の方丈の南側の庭園は、ベースとなる白砂の上に石や植物による何らかの装飾があるものがほとんどです。

禅宗庭園では、龍安寺の「石庭」がそのシンプルさで世界的に有名ですが、東海庵の庭は龍安寺を凌駕して石すら置かれていません。しかし白砂しかない一見冗長な庭を囲む塀の上には、妙心寺の法堂の屋根が見えます。この屋根が庭の借景としてとても効いています。

観る者には「寺の中心からお前を見ているぞ」と聞こえてくるが如く、絶妙の緊張感を与えています。これほどシンプルなのに、時間がたつのを忘れるくらい向き合っていられるとても不思議な空間です。


方丈北側は龍安寺石庭のように謎めいた美しさが

方丈北側(書院南側)には、同心円状に引かれた砂紋に石が一列に並べられたコンパクトな庭があります。様々な見方があるようですが、ここもとても謎めいた空間です。直線砂紋だけの庭を見た後に見ることになり、とても斬新に見えます。自己と向き合うことを愚直に表現した素晴らしい2つの庭です。


東海庵の派に属する全国の寺院名が掲げられています

妙心寺は、6,000を超える臨済宗の寺の半数以上を傘下に持つ巨大組織です。京都では禅宗の大寺を俗称で呼ぶトリビアがあります。妙心寺は「算盤面(そろばんづら)」と呼ばれ、固い結束力がその個性として表現されたものです。その妙心寺の中核を担う東海庵も、風格と責任を感じさせます。

東海庵は手水鉢の水がとてもきれいです。清掃が行き届いていることを実感させてくれます。僧が修行のために引く意味がある庭の砂紋は、一日かかってもうまく引けないほど精神統一が難しいといいます。

東海庵は、こうした禅宗の基本を重んじる寺です。

こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。



お経として、音楽として、ヒーリングとして、般若心経。


第52回「京の冬の旅」 非公開文化財特別公開「妙心寺 東海庵」
https://www.kyokanko.or.jp/huyu2017/huyutabi17_01.html#13
主催:京都市観光協会
会期:2018年1月10日(水)~3月18日(日)
原則休館日:2月1日(木)~3日(土)
※この寺院は通常非公開です。

妙心寺(本山公式サイト:参考)
http://www.myoshinji.or.jp/



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