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雅(みやび)な襖絵を天皇と同じ目線で見ることができる ~聖護院 秋の特別公開

2017年09月19日 | お寺・神社・特別公開

聖護院の山門

 

 

聖護院(しょうごいん)と言えば、京都土産の定番である和菓子の「八つ橋」を連想される方が多いと思うが、元来は聖護院という地名の由来となった寺院のことだ。京都ではそこにある(あった)寺社の名前が地名になっていることは珍しくない。

 

平安時代末期、白河上皇の熊野詣の案内役を務めた園城寺の僧・増誉(ぞうよ)が、その功により熊野三山の統括責任者として現在地にあった寺を下賜され、聖護院の創建となる。以来、皇族の信仰が厚い熊野三山の統括を務め、天台宗系の修験道の総本山として信仰を集めた。また天皇の嫡子など最高位の男子皇族として出家後に認定された「法親王(ほうしんのう)」が、寺の代表者である「門跡(もんぜき)」を務める門跡寺院としても、高い格式を誇った。

 

境内には修験道の荒々しいイメージは全くない。それよりもさすがに門跡寺院と思わせる王朝文化のしつらえを随所に見ることができる。

 

デザインされた白砂の奥には最高格式を示す白壁の五本線

 

 

境内に入ると、幾何学的なデザインが美しい白砂の庭園の奥には、皇室との関係の深さ・格式を示す定規筋の中で最高の五本線がひかれた白壁が境内の空気を凛と引き締めている。最高格式の五本線の白壁は、仁和寺・大覚寺・青蓮院・三宝院といった他の門跡寺院でも見られる。単純な五本線というきわめてシンプルなデザインが、空間の雰囲気を醸成する効果は見事だ。

 

この白砂の庭では、節分と修験道を開いた役小角の命日6/7の年2回、護摩供が行われる。山伏が集まり高々と炎が燃え盛るさまは、日常の静けさとは全く異次元の空間になる。代々の皇族が愛した熊野への思いを感じることができよう。

 

白砂に面する建物が、法親王が居住する「宸殿(しんでん)」だ。寝殿造りの流れをくむ外見は、京都御所の紫宸殿と似た印象を受ける。宸殿は江戸時代初期の建築で、狩野永納・益信による障壁画で彩られている。

 

狩野永納(えいのう)は、江戸幕府ができて以降、京都に残って活躍した「京狩野」二代・山雪(さんせつ)の長子、一方の益信(ますのぶ)は江戸狩野のスーパースター探幽の養子だ。

 

宸殿は近年まで非公開であったからか、障壁画は保存状態がよい。金碧(こんぺき)で埋め尽くされた襖は、王朝趣味を色濃く感じる。二条城のように権力者としての権威を示すような力強い表現ではなく、持ちたくても持ちえない皇族としての気品と優雅さが表現されている。

 

 

宸殿内の襖絵ギャラリー(宸殿内で案内されていたURL)

 

 

幾部屋にもわたって130面もあり、すべて原画である。実際にあった場所でこれだけの数の障壁画を鑑賞できる機会はきわめて貴重だ。江戸時代には御所の火災で一時的に仮皇居として光格天皇(明治天皇の曽祖父)が滞在されたことがあった。光格天皇が見たのと同じ目線で鑑賞できるのも実にワクワクする。

 

光格天皇の在位中は、天明の大飢饉や江戸・京の大火、ロシア船の来航といった世間を揺るがす天災や大事件が立て続けに起こった時代で、徳川幕府の権威が昔日の輝きを失い始めていた。一方、京では円山応挙や呉春、江戸では喜多川歌麿といった、町絵師が画壇の中心になっていた時代でもあった。

 

聖護院は長らく拝観には予約が必要だったが、2016年から9月中旬~12月中旬に限って予約不要の一般公開に変更された。

 

なお2017年度の公開では、2016年に狩野探幽の真筆と断定された「釈迦三尊像」が初めて公開されている。探幽の晩年の作で、タッチは優しい。大きい余白の中に抜群の構図でお釈迦様が描かれている。

 

聖護院の門前には「八つ橋」の二大老舗の本店が並んでいる。金戒光明寺も近く、京都らしさを堪能できるエリアである。

 

 

 門前の八つ橋の二大老舗「聖護院」本店(節分の売り出し)

 

 門前の八つ橋の二大老舗「西尾」本店(節分の売り出し)

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

明治以前のように神仏を分け隔てることのない巡礼を推奨するガイドブック

伊勢神宮を筆頭に近畿の主要な神社と寺院が網羅されているのが便利だ

(集英社新書ビジュアル版)

 

 

聖護院

http://www.shogoin.or.jp/

特別公開事務局(京都春秋)

http://kyotoshunju.com/?temple=shogoin

2017年の公開期間 9月16日(土)~12月10日(日)

休館日 公開期間中に数日(例外が発生する可能性もあるので訪問前にご確認ください)


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