滋賀県・大津にある石山寺(いしやまでら)と三井寺(みいでら)は日本を代表する名刹です。両寺の共同企画による美仏の特別公開が始まっており、寺院では斬新な取り組みと言えます。
その名も「あお若葉(もみじ)の競演」。輝くような新緑の中で、新緑にとてもよく合う美仏にお会いできます。いずれも京都駅から電車を乗り継いで30分ほどで着ける距離です。美仏は奈良や京都ばかりではありません。京都の東隣の滋賀県も美仏の宝庫です。
仁王様にも新緑がよく映える
石山寺は京都・清水寺、奈良・長谷寺と並んで、日本で最も歴史のある観音信仰の寺です。観音信仰とは平たく言えば「なんでも願い事をかなえてくれる観音様におすがりしよう」という信仰です。平安時代の貴族に始まり、江戸時代には庶民階級にまで拡がりました。そんな観音信仰の始まりは奈良時代にまでさかのぼります。
開基は良弁、と聞いてすぐピンと来た人は仏像が大好きな方とお察しします。良弁(ろうべん)とは、奈良の東大寺を開いたその人です。大仏造立のための黄金産出の祈祷を、聖武天皇の命により良弁が石山に如意輪観音を祀って行うと、陸奥で黄金が算出されます。
大仏造立に霊験あらたかな如意輪観音は、平安時代に木造となり、現在に至るまで石山寺の本尊です。石山寺は奈良時代の国家や天皇にとって最も信奉された寺として始まったのです。
国宝・多宝塔は珪灰石の岩盤の上に立つ
石山という寺名は、現在も境内の中央に露出している天然記念物「珪灰石(けいかいせき)」に由来します。紫色の神秘的な色彩を見せ、パワースポットとしての威厳を現在も充分に保っています。
石山は飛鳥時代から石切場として知られており、東大寺建立の際には琵琶湖周辺で切り出された巨木の集積場となって、淀川を通って奈良の都に運ばれていきました。石山は飛鳥時代から現実の都や寺院建立の重要拠点でもあったのです。
平安時代になると徐々に、平安京の貴族の絶大な支持を集めた真言密教を取り入れていったようです。醍醐寺と石山寺は京都府と滋賀県の境の山を挟んで直線距離で8kmほどしか離れていません。すでに南都仏教の時代ではないことも見据えたのでしょう。
清水寺ほど都から近すぎず、保養がてら少し足を延ばすのにちょうどよい距離にあります。特に女官には人気があったようで、紫式部がこの地で源氏物語の構想を練った話がよく知られています。
石山寺は奈良時代から平安時代にかけて、貴族の観音信仰の聖地としての地位を確立します。そのため実に多様なトップクラスの文化財が寺にはとても多く伝わっています。今回の「あお若葉の競演」で特別公開される三尊像はいずれも保存状態がよく、貴族階級に好まれる優美な表情が印象的です。
【公式サイトの画像】 特別公開の三尊像
阿弥陀如来は、特別公開の会場となっている光堂(ひかりどう)の本尊です。鎌倉時代の作で、平安時代の定朝様式よりもさらに柔和に見えます。
光堂は鎌倉時代にあった堂宇ですが、2009年に石山を発祥の地とする化学メーカー・東レの寄進で再建されました。斜面に建つ賭け造りから、眼下に雄大な境内の森と牡丹を望みます。壁の材木の色が今後長い時間をかけて深みを増していくのでしょうか、建立から9年たった2018年時点でもすでに味わい深い色をしています。
牡丹に華やぐ光堂
大日如来は多宝塔の旧本尊です。現在の国宝・多宝塔は快慶作の重文・大日如来が本尊になっていますが、こちらも重文です。時代がさかのぼる平安時代の作です。貴族が好んだ阿弥陀様のような包容力のある造形が大日如来としては特徴的です。
如意輪観音は淀殿が寄進した本堂の御前立(おまえだち、秘仏が納められた厨子の前に安置される代わりの像)の旧像です。女性的な表情と繊細な彫刻が印象的です。
同じ滋賀県にある延暦寺や三井寺よりも縁起が古い石山寺は、現代もパワースポットとして多くの人たちに愛されています。次回は常時公開されている本堂や多宝塔の見どころについてお伝えしたいと思います。
5月はフジも見ごろになります
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
登場人物や舞台設定が複雑な超長編小説の理解に最適
石山寺「あお若葉(もみじ)の競演」特別公開
https://www.ishiyamadera.or.jp/guide/event/aomomiji
主催:石山寺、三井寺
会期:2018年4月28日(土)~5月20日(日)
原則休館日:なし
※この特別公開は定期的に行われるものではありません。
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