この水を目当てに訪れる人は絶えない
錦天満宮(にしきてんまんぐう)は、京都のど真ん中の繁華街である新京極(しんきょうごく)と錦市場(にしきいちば)が交差するところにある神社だ。境内はとてもコンパクトだが、有名な湧水「錦の水」やご利益を求めて訪れる人がひっきりなしでやってくる。大都市の中心にありながら、今でも湧水がおいしく飲めることには本当に驚く。この湧水こそが1200年積み重ねてきた京都の魅力を語るキーワードになる。
京都盆地は地下が砂れきで構成された巨大な水がめになっていると考えられており、琵琶湖に匹敵するような水量が常に循環していると言う。梨木神社「染井の水」、松尾大社「亀井の水」、御香宮神社「御香水」など今でも飲める名水は街のあちこちに目白押しにある。近隣の錦市場も、豊富な地下水が生ものを冷やすのに適していたことから、市が開かれるようになったと考えられている。
ひしゃくで飲める「錦の水」
「錦の水」は、料理では昆布だしのうまみを引き出すことができ、飲み水としてはまろやかな「軟水」である。硬水エリアである関東地方や欧米から来られた方はぜひ「錦の水」飲んでみてほしい。多くの方が“おいしい水”とお感じになるだろう。料理、京野菜、酒造り、庭園、水に恵まれた京都では水をベースにした多彩な文化が育まれてきた。そんな京都の文化の原点を、繁華街のど真ん中で味わえる。
錦天満宮はその名の通り、菅原道真をお祭りしている。平安時代に菅原道真の生家に創建された鎮守が起源で、豊臣秀吉の都市改造以来、現在地に移転してきた。京都の台所として長年続く錦市場に近いため、学業成就に加え商売繁盛を祈る人が多い。また錦市場を訪れる外国人観光客による参拝も近年は非常に多い。外国人にもぜひ「錦の水」をすすめてほしい。
「からくりおみくじ」も訪れる人をその気にさせる仕掛けだ。人が近づくとセンサーが反応して神楽とともに獅子舞が踊りだす。ここでコインを入れると獅子がおみくじを口にくわえて運んでくる。まるでガチャガチャやUFOキャッチャーを楽しむ感覚でおみくじが引ける。しかもこのおみくじ、子供向けや、英文のみ、和英2か国語、まで用意されているから芸が細かい。
この神社は、ご利益以外にも「錦の水」や「からくりおみくじ」という、ちょっとしたエンタテイメントが楽しめることが大きな魅力だ。友人やお客様を案内するには、立地のよさや手軽なエンタメの用意をふまえると、とても使いやすい。マーケティングが上手な神社である。
ビルに突き刺さっている鳥居
この神社にはまだ話のネタがある。錦名物の「変な鳥居」で、鳥居がビルに突き刺さっているのだ。錦市場から錦天満宮に続くアーケードを出たところにその鳥居はある。何らかの区画割の際のミスの結果だろう。敷地一杯に建てたいビルのオーナーが、さすがに鳥居を削るわけにいかないので、鳥居の端を建物に含める形で建てたと思われる。言われなければ気づかないが、ほのぼのした光景だ。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさんある。ぜひ会いに行こう。
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錦天満宮
原則休館日:なし