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立体曼陀羅のそばに素晴らしい書院建築がある ~東寺 観智院

2017年09月26日 | お寺・神社・特別公開

東寺恒例の秋の特別拝観

 

東寺で「2017秋季特別公開」が始まり、塔頭・観智院(かんちいん)に伝わる美しい仏画や南北朝時代に東寺の歴史を記した書跡が公開されている。国宝の観智院・客殿も、屋根の吹き替え修理を終えて春から3年ぶりに公開されており、落ち着いた書院造の空間と庭を拝観できる。

 

東寺は、仏像美の殿堂である「立体曼陀羅」とお会いできる講堂や金堂は常時公開されているが、寺宝を収めた宝物館は毎年春と秋の各2カ月間だけ公開される。観智院も今までこの宝物館の公開期間に限って公開されることが多かったが、この春からは通年公開になった。

 

境内の北大門を抜けて小さな橋を渡ると櫛笥小路(くしげこうじ)が北に延びている。この櫛笥小路は平安時代の道幅がそのまま残っている唯一の遺構としても知られている。観智院はこの櫛笥小路に面し、東寺境内の北側に隣接している。北側にはかつて15の子院(=塔頭)があったが、今は観智院だけが残る。東寺の学問所としての伝統が、観智院を今に残したのであろう。

 

 

立体曼陀羅とは対照的な静寂な観智院の佇まい

 

 

客殿は1605年に再建された桃山時代の書院造の傑作で、二条城二の丸御殿とほぼ同時期の建築だ。他の子院がまったく現存しないことをふまえると、強運を持った建物と言える。室内は落ち着きがあり上流階級の大切な客人をもてなすのにふさわしい空間になっている。

 

床の間の絵「鷲の図」「竹林の図」は宮本武蔵作で、彼が左京区の一乗寺で決闘した後に観智院に身を潜めていた際に描かれたと解説されている。

 

客殿の隣にある本堂・本尊の「五大虚空蔵菩薩」は見事だ。唐の都長安の寺の本尊であったものを平安時代に将来したものと伝わる。面立ちは日本の仏像とは異なり、とてもすっきりしている。虚空蔵は無尽蔵に知恵を持っている菩薩のことで、学問所の本尊としてはピッタリであろう。学僧たちはどこかエキゾチックに見える仏さまを拝んで、貪欲に知識の習得に励んでいたのだろう。

 

客殿からは南に向かって「長者の庭」が広がる。2017年に作庭されたばかりの庭だが、そんな風には感じさせない。枯山水で真言密教の無限の宇宙観と、悟りを開いた煩悩のない状態である涅槃(ねはん)を表現したものという。静かに座っていると、心が軽くなる。

 

観智院は、南北朝時代の1359年に学僧・杲宝によって創建された。足利政権はまだ安定せず、南北朝の対立も続いていた。京都は不穏な空気が流れていたであろう。足利氏の保護で禅宗寺院の大伽藍がたち始めており、真言宗としては危機感が強かった時代だろう。そんな危機感が観智院から多くの傑出した学僧を輩出する原動力になったのだろう。

 

杲宝が著した東寺の創建から室町時代に至る寺史「東宝記」は国宝で、2017秋の特別拝観期間中、宝物館で鑑賞できる。書かれている文字は力強い。杲宝は実直に東寺の学問を発展させようとしていたのだと感じる。

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

東寺 観智院

http://www.toji.or.jp/kanchiin.shtml

2017秋季特別公開

http://www.toji.or.jp/2017_autumn.shtml

会期:2017年9月20日(水)~11月25日(土)

原則休館日:なし

※金堂・講堂・宝物館・観智院すべてを拝見できる「共通券」あり、ただし15:30で販売終了

 

 


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