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黄不動の彫像、世界最古のビザ_大津 三井寺の至宝が特別公開

2019年10月19日 | お寺・神社・特別公開

大津市の三井寺(園城寺)で、天皇陛下ご即位記念の特別参拝・公開が行われています。
 国宝の仏画・黄不動を模した、まばゆい輝きを放つ「金色明王立像」や、世界最古のビザで知られる国宝など、三井寺が誇る至宝にたっぷりとお会いできます。
 紅葉もとてもいい感じです。





 目次

  •  日本有数の苦難に見舞われながらも、日本有数の至宝を伝える
  •  幻想的な金堂内陣で、黄不動尊にお会いできる
  •  文化財収蔵庫にも国宝が勢揃い



 日本有数の苦難に見舞われながらも、日本有数の至宝を伝える

 中世の延暦寺との抗争や、秀吉による謎の闕所(けっしょ、寺領没収)など、三井寺は数々の苦難を乗り越え生き抜いてきたことから「不死鳥の寺」と呼ばれています。

 延暦寺との抗争では数十回以上焼討にあっていますが、開祖の智証大師・円珍(ちしょうだいし・えんちん)が中国から持ち帰った経典や大切な仏像を、その都度避難させています。
 三井寺は中世では常に、藤原氏・源氏・足利氏といった時の権力者と良好な関係を築いていました。
 時の権力者にとっては扱いが厄介な延暦寺を、けん制する思惑もあったと思われます。
 焼討後に伽藍の復興が都度進んだのも、こうした権力者による庇護があったためでしょう。

 秀吉による闕所の際も、国宝の智証大師像や黄不動尊などの三井寺の至宝は京都に避難させ、難を逃れています。
 闕所は3年で解かれ、三井寺を不憫に思った高台院の寄進で、現在の国宝の金堂が再建されます。
 現在の寺観は、ほぼこの頃に整えられたものです。

 寺の宝を守り続ける不屈の精神が、日本トップクラスの文化財の質と量を誇る現在の三井寺を形作りました。
 今回特別公開される至宝には、そんな苦難を生き抜いてきた「生命力」が備わっているように感じてなりません。





 幻想的な金堂内陣で、金色明王にお会いできる

 特別公開には複数のプログラムが用意されていますが、期間を通して行われるのは「金堂内陣」「文化財収蔵庫」の2か所だけです。
 金堂の内陣は絶対秘仏の本尊・弥勒菩薩を安置する最も神聖な場所であり、普段は公開していません。
 金銅の室内で通常拝観できるのは、内陣をぐるりと一周する外陣だけです。

 【特別公開公式サイトの画像】 「黄不動尊立像」「護法善神立像」三井寺

 その内陣には、いずれも重要文化財の「金色不動明王(黄不動尊)立像」「護法善神立像」が安置され、両秘仏との結縁(けちえん)の儀式を受けた後に、お会いすることができます。

 護法善神立像(ごほうぜんしんりゅうぞう)は智証大師の守護神で、母のような女神としてあがめられてきました。
 平安時代末期の造立ですが、中国風の衣装には彩色がかなり残っています。
 穏やかな女性のお顔立ちで祈る者を見つめる姿は、キリスト教のマリア像のようです。
 普段は、子供の成長を祈る5月中旬の千団子祭の1日しか公開されません。

 黄不動尊立像(きふどうそんりゅうぞう)は、日本の仏画の最高傑作の一つで、三井寺が最も大切にする至宝でもある国宝・黄不動を模して鎌倉時代に彫像されました。
 私は仏画の黄不動にもお会いする機会を得たことがありますが、この彫像は本当に仏画とそっくりです。
 それどころか、彫像であるため立体感がわかりやすく、荒々しさと美しさを兼ね備えた黄不動尊の見事なプロポーションがよりわかりやすくなっています。
 不動明王としての神秘性をことさら増す金色のボディの輝きは、内陣の光が抑えられた空間の中では、まるで後光がさしているようです。
 黄不動尊も智証大師の守護神で、中国へ渡る途上の危機の際に現れ、智証大師を救ったと伝えられています。
 普段は、今回の特別公開の対象となっている国宝・智証大師像と共に唐院大師堂に安置されていますが、定期的な公開は行われていません。
 今回の特別公開はとても貴重な機会になりました。



 唐院の潅頂堂と三重塔


 智証大師ゆかりの建物と文化財を収蔵する唐院エリアは少し高台にあり、三井寺にとっては金堂と共に最も神聖なエリアです。
 今回の特別公開では11/16~12/8の期間限定で、重文の潅頂堂・三重塔に加え、初公開となる長日護摩堂の3つの堂宇が公開されています。
 潅頂堂は後水尾天皇、三重塔は徳川家康が寄進したものです。
 桃山・寛永文化の優美な趣が、借景の山の緑と青い空にとてもよく映えています。



 文化財収蔵庫に展示される国宝の解説パネル


 文化財収蔵庫にも国宝が勢揃い


 文化財収蔵庫は、三井寺の寺宝の常設展示施設です。
 普段は国宝・勧学院客殿の狩野光信筆の重文・障壁画の”本物”を中心に展示が行われていますが、今回の特別公開では2点の「至宝中の至宝」が、展示に加わっています。
 いずれも智証大師が中国から持ち帰ったもので、国宝です。

 【特別公開公式サイトの画像】 「五部心観」「越州都督府過所&尚書省司門過所」三井寺

 1点目は「五部心観(ごぶしんかん)」です。
 9cに唐で造られた現存世界最古の金剛界曼荼羅で、繊細な墨線で金剛界を構成する諸尊をとても緻密に描いています。
 諸尊を供養する僧の描写もとても写実的で、唐における絵画表現のレベルの高さを実感できる傑作です。

 2点目は「越州都督府過所&尚書省司門過所」で、世界最古のビザ(査証)として知られています。
 円珍が平安時代半ばの855年に長安に向かう際に、越州と尚書省の2か所で現地の官吏から発給された過所(かしょ)です。
 交付した官庁名と旅行者名、目的地、旅行目的、発給日が記載されており、通行許可証として現代のビザと同じ体裁です。
 約1,200年前です。世紀の大珍品です。





 三井寺はいつ訪れても、建物や仏像をはじめさまざまな文化財の質の高さには感銘を受けます。
 今回の特別公開でも、訪れる者は100%、心を豊かにして家路につくことになるでしょう。

 こんなところがあります。
 ここにしかない「空間」があります。



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 利用について、基本情報

 <滋賀県大津市>
 園城寺(三井寺)
 ご即位記念 「秘仏結縁」
 【寺による行事公式サイト】

 特別ご開扉 国宝・金堂内陣参拝(会場:金堂)
 特別公開 三井寺の至宝(会場:文化財収蔵庫)
   会期:2019年10月1日(火)~12月8日(日)

 特別公開 国宝・勧学院客殿(会場:勧学院)
   会期:2019年10月1日(火)~10月20日(日)

 特別ご開帳 国宝・智証大師坐像(中尊大師)(会場:唐院大師堂)
   会期:2019年10月29日(火)〜11月4日(月)

 特別公開 重文・唐院潅頂堂、長日護摩堂、重文・三重塔(会場:唐院)
   会期:2019年11月16日(土)~12月8日(日)

 以下、共通
   原則休館日:なし
   入館(拝観)受付時間:8:00~17:00、「三井寺の至宝」は8:30~16:00

 ※この特別公開は定期的に行われるものではありません。

 園城寺(三井寺)
 【公式サイト】http://www.shiga-miidera.or.jp
 【寺による観光公式サイト】http://miidera1200.jp/



 ◆おすすめ交通機関◆

 京阪石山坂本線「三井寺」駅下車徒歩10分、「大津市役所前」駅下車徒歩10分

 JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:40分
 京都駅→JR湖西線→大津京駅→京阪石山坂本線→大津市役所前駅

 【公式サイト】 アクセス案内

 ※この施設には有料の駐車場があります。
 ※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


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