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門を楽しんでから中を楽しむ:美術鑑賞用語のおはなし

2018年04月21日 | 美術鑑賞用語のおはなし



お寺や城など歴史的建造物を訪れると、ほぼ必ず「門」を通って敷地内に入ります。その建造物のオーナーにとっては、訪れる人や前を通る人がまず目にする建造物であるため、建設時には気を使っています。門に付けられた名前から、その門がどのような目的で作られたのかもわかります。

敷地内に入る前に立ち止まって、その施設の顔となる門をまずはじっくり見る。そんな時にお役立てください。

1)門の大きさによる定義

門の大きさによる定義をご説明します。本柱と控柱の違いなど、外見上わかりにくいところも正直あります。柱の建てられた位置と本数が判断基準になりますが、鑑賞にあたってはあまり気にする必要はありません。


門の大きさの定義の基本、柱の立て方

「本柱(ほんばしら)」は門の屋根を主に支え、扉がある場合は取り付ける柱です。「控柱(ひかえばしら)」は屋根を補足的に支える柱です。控柱は多くの場合、本柱1本に対し本柱の前後に2本あります。控柱は本柱より外側にあるため、本柱との見分けがつきにくくなります。

控柱が4本ある門を「四脚(しきゃく)門」もしくは「四足(よつあし)門」といいます。四脚門は歴史が古く、格式も高いことから上流階級の屋敷の正門によく用いられました。

控柱が8本ある門を「八脚(はっきゃく)門」もしくは「八足(やつあし)門」といいます。こちらも歴史が古く、寺の門によく用いられます。

日本建築の門の大きさは建物と同じく伝統的に、柱の間の数を示す「間(けん)」でおおまかな横幅の大きさを表します。「戸(こ)」とは、壁ではなく扉や開口になっていて通行できる「間」を指します。

八脚門で真ん中の件だけが通路になっている場合は、門の大きさを「三間一戸(さんけんいっこ)」と呼びます。四脚門は間が一つしかないので「一間一戸(いっけんいっこ)」と呼びます。

2)門の様式で格式や時代がわかる

門の名称は、建築様式・形状や用途で名付けられるのが一般的です。固有名詞で呼ぶことはほとんどありません。まずは建築様式・形状による名称からお話しします。

楼門(ろうもん)、二重門(にじゅうもん)


楼門:円成寺 楼門

二重門:平安神宮 応天門

二階建ての門で、寺社の正門によく見られます。楼門は一層目に屋根がなく縁側が張り出しています。

二重門は一層目にも屋根があります。二重門は横幅があるものも多く、威風堂々としています。格式が高いため、総本山クラスの寺院や総本宮クラスの神社の正門に多く採用されています。

唐門(からもん)


豊国神社 唐門(破風が正面を向いている向唐門)

屋根に唐破風(からはふ)がついた門です。鎌倉時代から見られ、桃山時代に最も隆盛しました。現存する唐門も桃山時代のものが非常に多くなっています。

唐破風が正面を向き、豪華な彫刻が施されたものを「向(むこう)唐門」と呼びます。一方、唐破風が正面から見て門の左右サイド、すなわち妻にあるものは「平(ひら)唐門」と呼びます。切妻屋根に平入りすることにちなんだ名称でしょう。意匠はシンプルでかえって重厚感があります。醍醐寺・三宝院の唐門が「平唐門」の代表例です。

唐門は格式が高い門が多く、勅使門としてよく採用されています。

鐘楼門(しょうろうもん)


亀岡・金剛寺 山門

門の二階部分に鐘楼がついた門です。鐘門(しょうもん)ともいいます。

龍宮門(りゅうぐうもん)


京都・閑臥庵

門の二階部分が中国風の竜宮造になっており、一階部分は漆喰塗です。一階の漆喰が赤く塗られているものもあります。黄檗宗のような中国の影響が強い寺院でよく見られます。

通路部分である「戸」はアーチ型が多くなっています。その名の通り、竜宮城の入口のような雰囲気を醸し出します。

棟門(むなもん)

2本の本柱だけで屋根を支える最もシンプルな屋根付き門です。安定性に欠けるため屋根は小さくなります。隣接する壁と連結されているものもよくあります。

櫓門(やぐらもん)


二条城 東大手門

門の二階部分に櫓が設けられた門で、城の正門としてよく設けられます。両端を石垣で囲まれているものが一般的ですが、単独で建てられているものもあります。城の防衛目的が大きいため、厚い門扉など、とても頑丈に作られています。

【Wikipediaへのリンク】 櫓門

埋門(うずみもん)


二条城 北中仕切門

櫓門のように二階部分がなく屋根だけで、石垣や土壁に挟まれた門のことです。主に城に設けられています。

長屋門(ながやもん)


埼玉・遠山美術館

長屋状の建物の一部を開口部にした門です。城や武家屋敷を中心に江戸時代に多く、明治以降は豪農や庄屋の屋敷でもよく見られます。門の壁が漆喰塗の場合は武家屋敷です。板張りの場合は民家になります。

【Wikipediaへのリンク】 長屋門

薬医門(やくいもん)、高麗門(こうらいもん)


高麗門:西本願寺 総門

薬医門は本柱を補助する控柱が片側にしかなく、比較的大きい屋根が本柱と控柱をまたぐようにかけられています。公家や武家屋敷の正門として安土桃山時代によく見られます。

高麗門は薬医門を簡略化したもので、主に江戸時代に作られました。薬医門と同じく本柱を補助する控柱が片側にしかありませんが、比較的小さい屋根を本柱と控柱の上にそれぞれかけています。

城や寺社の入口、町に出入りする木戸口によく用いられています。扉がないものも多くあります。

【Wikipediaへのリンク】 高麗門

冠木門(かぶきもん)


東本願寺・渉成園

門に屋根がなく、横木が渡されているだけのシンプルな門です。横木がないものも多くあります。門に屋根がない西洋建築の影響もあって、明治以降の屋敷や別荘に多く見られます。

3)門の名前で用途がわかる

続いて用途が門の名称になっているものをご紹介します。

天皇の住居や都に設けられた門です。

  • 禁門(きんもん):天皇の住居である御所・皇居に設けられた門
  • 建礼門(けんれいもん):天皇の住居である内裏の南正門の平安時代以降の名称、最も格式が高い、現在の京都御所でも天皇皇后しか通れない
  • 応天門(おうてんもん):天皇が政務や儀式を行うエリアである朝堂院(ちょうどういん)の南正門の平安時代の名称、平安時代まで存在した
  • 朱雀門(すざくもん):天皇の住居や政庁が設けられたエリアである奈良時代の平城宮、平安時代の大内裏の南正門、平安時代まで存在した
  • 羅城門(らじょうもん):平城京・平安京全体の南正門、平安時代まで存在した

【Wikipediaへのリンク】 建礼門
【Wikipediaへのリンク】 応天門
【Wikipediaへのリンク】 朱雀門
【Wikipediaへのリンク】 羅城門

お寺に多い門です。

  • 総門(そうもん):お寺の境内全体(外構え)の正門のことです。大門(おおもん)ともいいます。南大門(なんだいもん)は、南に面した総門のことです。城や邸宅で使われることもあります。
  • 三門(さんもん):お寺の境内の中で最も大切な建物である本堂(禅宗では仏殿)の前に設けられた門、浄土宗と禅宗寺院に多い、この門から中は究極の理想社会である涅槃(ねはん)を目指す神聖な場となる、山門と書く場合もある、二重門が多く二階部分には十六羅漢が安置されていることが多い
  • 仁王門(におうもん):仏法の守護神である阿吽のペアの金剛力士像が左右に安置された門、寺院の入口に設けられる
  • 勅使門(ちょくしもん):天皇からの使者専用の門、最高格式で作られることが多い

【Wikipediaへのリンク】 三門

神社に多い門です

  • 随身門(ずいしんもん):貴族のボディーガードだった随身を現した像を左右に安置した門、関西ではあまり見られない


城・武家屋敷に多い門です。

  • 城門(じょうもん):城に設けられた門
  • 大手門(おおてもん):城の出入り口である虎口(こぐち)の中でも正面に設けられた正門、城の中で最も大きく強固に作られている場合が多い、追手門(おってもん)と呼ぶ城もある
  • 搦手門(からめてもん):大手門に対する背面の門を指す、非常時の城主の逃亡のために設けられた
  • 御守殿門(ごしゅでんもん):大大名に嫁いだ徳川将軍家の娘を指す御守殿が通る門、丹塗りにしたことから赤門と呼ばれる、加賀藩邸跡(現・東京大学)に現存するものが著名

【Wikipediaへのリンク】 大手門

4)鬼門について

日本の歴史や美術に触れるにあたって、物理的には存在しない「鬼門(きもん)」の概念を避けて通れません。中国にはない概念で、陰陽道が日本で独自に進化する過程で成立したと考えられています。

鬼が出入りする方角として北東を鬼門として忌み嫌います。鬼門と正反対の南西の方角も「裏鬼門(うらきもん)」として忌み嫌います。住宅や都市を作る際には、鬼門の方向に魔除けを意識して置くようになります。

住宅では鬼門の方向に水を扱うトイレ・風呂・台所を設ける風習が全国で現代も根強く残っています。都市では平安京の鬼門に延暦寺、裏鬼門に石清水八幡宮、江戸の鬼門に寛永寺、裏鬼門に増上寺が置かれたことはよく知られています。

京都御所の北東角は、鬼門除けに効果があるよう壁を内側にへこませてあります。また同じく鬼門除けになると信じられた猿の彫刻を施してあります。

【公式サイトの画像】 京都御苑 猿が辻


【Wikipediaへのリンク】 鬼門

【Wikipediaへのリンク】 門


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