京都の西、花園にある法金剛院(ほうこんごういん)で、ハス(蓮)が見事な花を咲かせる観蓮会(かんれんえ)がまもなく始まります。
7月の強くなった日差しの中で、池を覆いつくしたハスの葉の緑は輝いています。そんな緑の中に白やピンクの色とりどりの花が咲く光景は、まさに極楽浄土がこの世にあらわれたようです。
京都の7月の風物詩としてすっかり定着しています。とても貴重な平安時代の浄土庭園や定朝様式の阿弥陀如来もあわせて拝観することができます。京都の7月は祇園祭だけではありません。
JR花園駅の北側に出ると、左手(西側)に見える小高い丘・双ヶ岡(ならびがおか)のふもとに法金剛院はあります。ちなみに右手(北東側)に少し歩くと妙心寺の巨大伽藍があります。
双ヶ岡は平安時代から風光明媚な景勝地として知られており、法金剛院も平安時代初期に貴族の別荘を寺に改めたのが起源と考えられています。平安時代末期になって、鳥羽天皇の中宮で、崇徳・後白河両天皇の母である待賢門院(たいけんもんいん)が入寺し、寺名を現在の法金剛院に改めました。
待賢門院は絶世の美女として知られ、院政を通じて絶大な権勢をふるった白河法皇の寵愛を受けていました。白河法皇の孫である鳥羽天皇の中宮ですが、子の崇徳天皇は実は白河法皇の落胤という噂も絶えなかったほどです。白河法皇の崩御後に宮廷での権力争いに敗れた待賢門院は、巨万の富で法金剛院の伽藍を整備して余生を過ごします。
青女の滝
ハスの花が美しい池のある浄土庭園と、庭園に水が落ちる姿を楽しむために造られた日本最古の人工の滝である青女の滝(せいじょのたき)は、待賢門院によって造られたものです。庭園と滝は間もなく荒廃し長年土に埋まります。
平安時代の面影を伝える浄土庭園は、京都では平等院・浄瑠璃寺にも確認できます。法金剛院の庭園は、1968年の発掘調査で平安時代の石組がほぼ遺されていることが確認されたことで、国宝に相当する「特別名勝」に指定されています。
青女の滝に現在水の流れはありませんが、800年前の貴族が憧れた浄土世界をタイムカプセルで運ばれてきたように目の当たりにすることができます。
浄土庭園は回遊式ですので、散策しながら一面のハスの葉の緑の中に可憐に咲き誇る蓮の花の写真撮影を楽しめます。
本堂内では本尊の阿弥陀如来にお会いできます。宇治の平等院鳳凰堂の阿弥陀ほどではないですが、こちらも座像ながら2mを超え、まさに極楽浄土に導いてくれそうな堂々たる風格です。定朝様式で頬がぽっちゃりしたお顔をしており、ハスの花が美しい庭園にピッタリです。また厨子に入った小さい十一面観音にもお会いできます。こちらはお顔つきがスタイリッシュで、鎌倉時代の作品です。
本堂の縁側に座ってハスの花を見ていると、風の音しか聞こえず、時間が過ぎていく感覚をなくします。このような張り紙がないと、本当にウトウトしてしまいます。
この両仏と庭園は常時公開ですので、年中いつでも拝観できます。観蓮会の期間中だけ特別公開されるものはありません。しかし何といっても「ハスの花が見ごろ」という価値は他に代えることができません。法金剛院は現代の極楽浄土なのです。
こんなところがあるのです。
ここにしかない「美」があるのです。
あまり知られていない平安時代の貴族女性の実像を徹底解剖
法金剛院
https://kanko.city.kyoto.lg.jp/detail.php?InforKindCode=1&ManageCode=1000209【京都市観光公式サイト】
原則休館日:12/30,31
※公開期間が限られている仏像や建物があります。
観蓮会
https://kanko.city.kyoto.lg.jp/detail.php?InforKindCode=2&ManageCode=1000334【京都市観光公式サイト】
会期:毎年7月上旬~下旬、2018年は7月7日(土)~29日(日)
原則休館日:なし
おすすめ交通機関:JR嵯峨野線「花園」駅下車徒歩3分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
JR京都駅→JR嵯峨野線→花園駅
※この施設には無料の駐車場があります。
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