晴山雨読ときどき映画

“人生は森の中の一日”
山へ登ったり、本を読んだり映画を観るのは知らない世界を旅しているのと同じよ。
       

 角幡唯介著「空白の五マイル」

2011年07月27日 | 

(内容)
チベットの奥地にツアンポー峡谷とよばれる世界最大の峡谷がある。この峡谷は一八世紀から「謎の川」と呼ばれ、長い間、探検家や登山家の挑戦の対象となってきた。チベットの母なる川であるツアンポー川は、ヒマラヤ山脈の峡谷地帯で姿を消した後いったいどこに流れるのか、昔はそれが分からなかった。その謎が解かれた後もツアンポー峡谷の奥地には巨大な滝があると噂され、その伝説に魅せられた多くの探検家が、この場所に足を運んだ。

第8回開高健ノンフィクション賞受賞作です。読み始めて先ず、3世紀前にも”プラント・ハンター”なる職業があったという事実に驚きました。未開の地に咲く珍しい植物を採取したり種を自国に持ち帰り売って生計を立てているのです。それだけ、先進国は昔から未知なる大陸や植物に目を付け憧れ、自然がもたらす大きな価値を知っていたということです。ドキュメンタリーには苦手意識があるのですが、とても読み易い文章で、最後まで飽きることなく読むことができました。開高健ノンフィクション賞に相応しい作品だと心から思えます。

彼の挑戦は学生時代の2002年と仕事を辞めて挑んだ2009年の2回。良くぞ生還したと思います。生命をかけてまで冒険する彼らを突き動かす原動力となるものは一体何なのでしょうか!どちらも単独行である角幡が最初にかの地に向かう数年前、日中合同で組織された探検隊の隊員であった同じ大学の人物がこのツァンポー川で遭難し、亡くなっています。武井氏は先を漕いでいた後輩のカヌーが転覆し後を追いかけて遭難していますが、本書の中の一章にこのカヌーイスト、武井義隆氏について追悼した文章が紹介されていました。

『あの時僕は本流に向かった君の本能的、直感的な判断に大きな感動を覚えました。そこに義隆君の勇気と偉大な人格を見たからですした。君はカヌーを通じて自然を考え、自分を見つめ、自らの人間性を高め、そうした体験の中から自然界の法則を識り人格を高めていったのですね。君の気高い精神は不滅です。あなたにとって冒険は「生きていくための新たな道を開く大きな扉」だった』

そして著者である角幡さんはこんなふうに書いていました。 (途中、省略してあります)

たぶん、冒険者と呼ばれる彼らは、私たちが営む日常の生活ができないのだろうか・・・。普通に起きて飯を食べ会社に行き、家庭を持つような平穏な一日は、生死をかけて生きる瞬間瞬間をつないで生きた者にはぬるま湯にしか写らないのではないか。平凡な生活を長く続けるのは不可能で、生きている感覚を感じとれなくなるのではないだろうか。高見に登った人々には孤独な闘いが与えられ、それを通す生き方を選ぶしかないのではないかと思わされました。

私が週に2度程度、山へ向かうのとは雲泥の違いがありますが、彼の生き方には憧れます。しかし自分がやるのは良いけれど、連れ合いがやると言い出したら随分悩むでしょう。


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