晴山雨読ときどき映画

“人生は森の中の一日”
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ブログDEロードショー 「ガタカ」を観る

2012年01月24日 | 映画
近未来に悲観的な展望しか描けない私なので期待せずに観た割には後味が悪くない映画でした。
ヴィンセントが強引に自分の夢に突っ走っていく過程を肯定的に捉えられたのは良かったです。
いっぽう、少々無理な設定にも結構ついていく私ですが、おや?と思わせる疑問が生じたのも隠せません。
見た目よりもDNAが優先されるという不思議な近未来なのだと郷に入って観ることにしました。

あらすじ
近未来、遺伝子工学の進歩で胎児の間に劣性遺伝子を排除することが出来るようになった。自然に生まれたヴィンセントは、心臓が弱く30歳までしか生きられないと宣告されていた。遺伝子をデザインされて生まれた弟アントンと比べ、自分を遺伝子的に劣った「不適正者」であると思っていた。しかし遠泳でアントンに勝ったヴィンセントは家を出る決心をする。夢である宇宙飛行士になるために「不適正者」であることが壁となって立ち塞がる。そこで、ヴィンセントはDNAブローカーにジェロームを紹介してもらうことになる。最高級の遺伝子を持つ超エリートの水泳選手だったジェロームは、自分の優秀さゆえに悩み、自殺未遂を図り、下半身不随になっていた。





※「神の子」なのに「不適正者」と呼ばれる彼らです。「不適正者」か「適正者」の標示がぴこっと判別されるたびに、まるで自分が「不適正者」と選別されたような嫌な気持ちになりました。虚偽の身分や地位、パーソナリティの売り買いを仲介する闇のビズネスがあるぐらいですから、「適正者」に成り代わろうと考える「不適正者」はきっとヴィンセント以外にもいるのでしょう。

※ジェロームはなぜ自死したのだろうか?

自分に落胆したからだろうか?いえそうではないだろう。彼はジェロームに出会う前から失意のどん底にいたはずです。彼は自分の無くした夢をヴィンセントに託せると確信したからでは?完全に入れ替わりを成し遂げるにはジェロームが2人存在してはならない、死体を消すために焼却炉に入って肉体を焼くしかなかったのでしょう。

※アントンがヴィンセントに負けたのは

アントンには「適正者」故の傲慢とプレッシャーがあったような気がします。(これは金メダルを取れなかったジェロームにも通じる)。勿論ヴィンセントの努力もあるだろうが、ヴィンセントはレースに勝つことだけに貪欲で、帰りの体力を温存しておこうとかいう気持ちはさらさらない。むしろ失うものがない強みが体力以上のものを発揮することがある。
 
※アイリーンとのデートで聴いた流麗な演奏をしていたピアニストの指は6本指でした。彼も自然出産の「不適正者」だったのでしょう。突然変異で両方の手の指が6本ずつだったけれども、彼はそれを「劣った遺伝形質」として受け取らずにピアニストとして自らを育てていった。

※レイモア博士は、ジェロームがヴィンセントだと前から気づいていた。
「私の1人息子は、君の熱烈なファンなんだ。だが、あの子には遺伝子的な欠陥があるという診断が出されているんだ。だがら、君は息子の憧れ、夢なんだ」
ヴィンセントが、たとえ遺伝形質に欠陥や弱点がある「不適正者」でも、夢を捨てずに努力すれば目標を達成できる可能性があると証明したから応援したのでしょう。
「不適正者」の優越に懐疑的だった医者もいたのです。

不可解な疑問点を追加すると。

何よりアントンは刑事の情報で、ジェロームが兄だと見破っているはずです。ヴィンセントだって初対面で刑事が弟だと一目瞭然なのが自然なのでは?
観客に気づかせなくても、家を出てるとは云え、整形でもしていない限り肉親に気づかせないのは無理な設定だと思えます。
ばれそうになってヴィンセントがジェロームに慌てて電話をして、階段を両手で上がって行く見せ場はつじつまが合いません。
じゃあ、ヴィンセントはいつ気づいたのか?
あの後からにしては遅すぎないだろうか?

意外性を狙ったのでしょうが、アントンを刑事として再登場させるよりも、全く関係ない人物を刑事にして「適正者」と「不適正者」の問題を掘り下げた方が共感を得られたはずです。アントンとはすでに遠泳で結論が出ているし、ヴィンセント誕生のバックも説明されている。

ジェロームが自死するのにもっと説明が欲しいラストでした。
そのためには「適正者」として誕生したジェロームの背景をもっと描き、ジェローム対ヴィンセント、つまり「適正者」と「不適正者」の2人の対比を中心に据える。

それにしても、アイリーンの無機質な美しさはぴったりでした。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは! (宵乃)
2012-01-25 09:57:38
>まるで自分が「不適正者」と選別されたような嫌な気持ちになりました。

わかります!
あれを見る度嫌ぁな気分になりました。あれで法律で差別を禁じているとか信じられません。具体的な罰則はないんでしょうね。
ちなみに、わたしの顔認識能力では、静止画で色も曖昧なあの顔写真では、ヴィンセントとジェロームの違いはまったくわかりませんでした・・・。実物どうしを見比べればわかるんですけど、写真と見比べるとなると私には無理です。

>帰りの体力を温存しておこうとかいう気持ちはさらさらない。

これが怖いんですよね。その状態で弟を連れて帰るのは無理だろうと、どうしても思ってしまいます。

ピアニストやお医者さんのような人がたくさんいれば、いずれはこの世界も変わっていくでしょうね。
今回もご参加ありがとうございました!
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2度観なおしました (bamboo)
2012-01-26 10:15:18
>わたしの顔認識能力では、静止画で色も曖昧なあの顔写真では、ヴィンセントとジェロームの違いはまったくわかりませんでした・・・。

あの検査チェックの場面では、ヴィンセントとがジェロームの実物に似ているよりも、顔写真と似ていることが求められたのでしょうね。(現在のジェロームを知っている人はいない分けだから)。
そこは何とか肯けても、2人が同時に祝杯をあげに外へ飲みにいったのは、あまりにも無用心すぎませんか?

それより何よりアントンは刑事の情報で、ジェロームが兄だと見破っているはずです。ヴィンセントだって刑事のアントンは弟だと一目瞭然が自然なのでは?
観客の私は気づかなくても、整形でもしていない限り、家を出てるとは云え、肉親に気づかせないのは無理な設定だと思えます。
ばれそうになってヴィンセントがジェロームに慌てて電話をして、階段を両手で上がって行く見せ場はつじつまがあいません。

じゃあ、ヴィンセントはいつ、アントンが弟だと気づいたのか?あの後からにしては遅すぎまないだろうか?

意外性を狙ったのでしょうが、アントンを刑事にとして再登場させたのは不味かったのでは?
それよりも、全く関係ない人物を刑事にして「適正者」と「不適正者」の問題をもっと掘り下げた方が深まると感じました。

ジェロームが自死するのにもっと説明が欲しいラストです。そのためには「適正者」として誕生したジェロームの背景をもっと描き、ジェローム対ヴィンセント=「適正者」と「不適正者」の2人の対比を中心に据える。
アントンとの確執は2度まで対決させず、ヴィンセント誕生ぐらいのいきさつでさらっと流せば良かったのではないかな?

それにしても、アイリーンの無機質な美しさはぴったりでしたね。
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こんにちは! (宵乃)
2012-01-26 11:48:49
ふたりで祝杯とか、弟に気付かないとか、「オイオイ!」ってところもたくさんありますよね~(笑)

整形はあり得るかな。たぶん兄を探すために刑事になったと思うから、尻尾をつかむまで気付かれたくなかったのかも。
両親は死んだみたいな事を言っていたと思うんですが(記憶違いかも?)、もしかしたらヴィンセントが失踪した事と関係あるのかもしれません。兄を恨んで、自分の手で夢を砕くという復讐のために整形したとしたら、けっこう哀しい男ですね。
ただ、この兄弟の再対決のエピソードはわたしもあまり好きじゃなくて、
>全く関係ない人物を刑事にして「適正者」と「不適正者」の問題をもっと掘り下げた方が深まると感じました。
という意見には賛成です。

ジェロームの自死についてはいろいろ考えたんですが、どんな理由でもけっきょく自分の気の済むようにしただけなので、帰ってきたヴィンセントの事を思うと悲しくなってしまいます。
思い出深い作品なので、なるべく良い方向にとりたいんですけどね・・・。
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返信が遅れました (bamboo)
2012-01-29 12:05:12
>思い出深い作品なので、なるべく良い方向にとりたいんですけどね・・・。

その気持ち、すごぉく分かります。
結局、作品自体が自分に響けば多少の引っかかりなんて気にならないのだろうというのが私の持論なのです。

思ってた以上に、よい作品だったのは間違いありません。でないと2度も観なかったわよ。
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