【フェンリル】
北欧神話のフェンリルは、狂暴で巨大な魔狼でした。口を開けば天まで届き、その口からは炎を吐いたとされています。狼でありながら、言葉を話せるほど知能が高く、きわめて疑り深い性格でした。フェンリルとは「沼に棲む者」という意味です。別名をフローズヴィトニル「悪名高き狼」や、ヴァナルガンド「ヴァン川の怪物」と言います。フェンリルは、ロキと女巨人アングルボザとの長男として生まれました。ちなみに次男が、世界蛇「ヨルムンガンド」で、妹が冥府の女王「ヘル」です。フェンリルは、生まれた当初は普通の狼でしたが、次第に強く巨大になりました。それに危機感を覚えたのが神々です。予言では、神々に災いをもたらす者とされたので、オーディンは、フェンリルを封印することにしました。オーディンとは、北欧神話における神々の王です。しかし、フェンリルは、怪力でずる賢かったので、なかなか捕まりませんでした。
【グレイプニル】
神々は、初めに「レージング」という鉄鎖で、フェンリルを封印しようとしましたが、簡単に引きちぎられました。レージングとは「革の戒め」という意味です。次に「ドローミ」と呼ばれるレージングの倍の強度がある拘束具を使いましたが、結果は同じでした。ドローミとは「筋の戒め」という意味です。最後に、魔法の綱「グレイプニル」を使いました。グレイプニルとは「貪り食うもの」「飲み込むもの」という意味です。それは、一見すると細い紐にしか見えませんでした。グレイプニルは、地底の小人族ドゥエルグが、六つのあり得ないものを材料として作りました。その材料とは「猫の足音」「女の顎髭」「山の根元」「熊の腱」「魚の吐息」「鳥の唾液」の六つです。
【テュールの挑戦】
神々は、フェンリルに、グレイプニルで縛っても引きちぎれるかどうかという挑戦を持ちかけます。ただし、フェンリルの方でも、万が一失敗のことを考え、誰かが口の中に腕を入れることを条件としました。それに応じたのが、神々の中で最も勇敢だとされるテュールです。結果的に、フェンリルは、グレイプニルを引きちぎることが出来ませんでした。そのため、テュールの片腕は、噛み切られてしまいます。神々は、グレイプニルが、噛み切られないように、フェンリルの口に剣でつっかえ棒もしました。フェンリルの口から大量の涎が出て、川となったのが、ヴァン「希望」川です。その川が流れている間は、フェンリルの封印は解かれないとされています。神々は、さらに、フェンリルに、足枷をつけ、鎖で大岩に縛りつけました。その足枷を「ゲルキャ」と言います。念には念を入れ、フェンリルを巨大な穴の中に落とし、その上から大岩で蓋をし、厳重に封印しました。テュールは、フェンリルを封印した功績により、オーディンから、魔法の義手を授かりました。
【ラグナロック】
フェンリルは、ラグナロックの時まで、岩につながれることになりました。ラグナロクとは、世界最終戦争のことです。フェンリルの封印は、ギャラルホルンが鳴った時に破られ、グレイプニルから自由になるとされています。ギャラルホルンとは、ラグナロクの始まりを報せる角笛のことです。ラグナロクでは、フェンリルが、グングニルを失ったオーディンを食い殺しました。その直後に、フェンリルと戦ったのが、オーディンの息子ヴィーザルです。ヴィーザルは、フェンリルの歯に耐えられる固い鉄靴を履いていました。また、雷神トールと同等の力を持っていたとされています。トールとは、アース神族最強の戦士のことです。フェンリルは、ヴィーザルに、下アゴを靴で踏み付けられ、その状態で口を上下に引き裂かれ絶命しました。ヴィーザルのもともとのあだ名を「無口のアース」と言います。フェンリルを倒したことで「フェンリル狼の殺し手」と呼ばれました。
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