虚構の世界~昭和42年生まれの男の思い~

昭和42年生まれの男から見た人生の様々な交差点を綴っていきます

負の連鎖~助走期間~

2017-07-07 07:17:05 | 小説
 高橋 昭が勤めている学習塾は、現在、右肩上がりに業績を伸ばしている。塾生もどんどん増え、
会社も急成長している。各地域に進出し、そこでも巧みな戦略で着実に根付いている。

 彼はある地方都市に転勤を命じられた。そこでの開校準備とその後の副塾長を任せられていた。実質No2の
ポジジョンになる。高橋 昭は、他塾からこの塾にヘッドハンティングされた。前の塾でもNo2のポジションだったが個人経営の塾だったため、自分の力を発揮するためには限界があると感じていた。加えて塾長のワンマンさが気に入らなかった。

 高橋 昭もまたかなりの野心家である。アメリカの大学を卒業したというプライドもあるが、当時はまだ塾業界と言えば、教員採用試験に不合格になったものの就職先、あるいは学歴は高いが社会に迎合できないもの・・・。
こういった人たちの集まるところだった。

 「俺はお前らとは違う」

 彼はそんな野心を抱き、この会社に来た。

 彼の赴任先の地方都市は、人口40万人ほどの都市。大手学習塾と個人の学習塾がしのぎを削っている状態だった。

 「この程度の経営戦略でやってきたのなら、根こそぎで一気にのしあがれるチャンスはある」

 彼は他塾の講師、宣伝力等を詳細に分析し、緻密な経営戦略を立てた。

 「テレビを使った派手な宣伝力と優秀なスタッフ」、彼はまずこの二つを実行に移した。以前の勤務先から
講師をスカウトした。給料、待遇面の優遇はもちろん、何よりも「やりがい」を伝えた。そのあやしい魅力に
惹かれ、優秀なスタッフも集まってきた。加えて、彼の気心のしれたスタッフでもある。みんな高橋 昭のことを尊敬して集まってきた人間・・・。

 これは新しく開講するこの塾でも大きな土台となる。一気に自分がこの地で主導権をとれるのである。

 1994年のことだった。

 彼は会社が用意してくれた高級マンションで暮らしながら、確実に助走期間として力を蓄えいていた。

 高橋 昭の眼には、この40万人の地方都市が、何だか輝いて見えていた。



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