2009/6/10 東京新聞
■住宅ローン拡大策 破綻予備軍も増? 『頭金なし』 補正予算で可能に 識者 景気効果を疑問視
国が補正予算に盛り込んだ住宅ローン拡大策に、専門家から疑問の声が上がっている。住宅金融支援機構と民間金融機関との提携商品の融資枠拡充に1兆6000億円を計上、利用者は頭金なしでも借りられるようになった。国土交通省は景気効果をPRするが、専門家らは「ローン破綻予備軍が増えるのでは」などと、安全性や経済効果に首をかしげている。
対象商品は長期固定金利型ローン「フラット35」。今月四日から融資上限額が住宅購入に必要な資金の9割から10割に引き上げられ、頭金なしでローンが組めるように制度が変わった。
住宅ローンアドバイザー藤井亨さんの試算では、4000万円の物件の場合、従来の融資上限3600万円を35年ローン(金利3%)で借りると、返済総額は5820万円。それが制度改正で全額4000万円まで借りた場合、返済総額は650万円増え、毎月の返済では1万5400円増える。藤井さんは「返済額が増えれば、その分消費に回る金が少なくなる」と景気効果に疑問を示す。
住宅コンサルタントの安田裕次さんは、1990年代に機構の前身の旧住宅金融公庫が導入し、多くのローン破綻者を生んだ「ゆとり返済」を例に挙げ、「住宅ローン破綻予備軍が増えるのは間違いない」と心配する。
安田さんのもとに相談にきた女性(46)の場合、年老いた両親と住むため、99年に35年のゆとりローンで、頭金なしで3500万円を借りてマンションを購入したが、2003年に勤務先の大手電機メーカーの子会社が廃業。パート勤めで返済を続けたが、金利が上がって返済額が増え、生活費にも困るようになった。借金がかさんで昨年に自己破産。マンションは競売にかけられた。
女性は「頭金なしという不動産会社のセールストークが魅力的だった。頭金が必要なら住宅は購入しなかったし、そもそも買えなかった」と悔やんだ。
安田さんは「不況で給料が伸び悩む中、今の収入が35年後も保証されているか。機構は危険性を認識しつつも、景気対策として何か出さざるを得なかったのでは」とみる。
ゆとりローンや米国の「サブプライム・ローン」との類似性を指摘するのは、「日本版サブプライム危機」の著者の石川和男・東京財団上席研究員だ。
二つとも当初は返済額が少なく、後で段階的に上がる仕組み。フラット35は固定金利だが、通常ならローンを組むのが難しい人でも借りやすくする点は同じだ。石川さんは「住宅資産の価値が上がるかどうか分からない中、こうした借金を国が推奨するのはおかしい。教訓を生かしていない」と批判する。
・機構存続おかしい
経済ジャーナリストの荻原博子さんの話 今までも同様の景気浮揚策で不幸な人を出し、税金で後始末してきた。景気回復のために(ローンを借りた)人の財布を使うのはやめてほしい。住宅金融公庫時代に焦げ付いた債権処理もできていないうちに多額の補正予算を組む必要はない。
そもそも廃止が決まっていたはずの公庫が、看板を替えて天下り機関として残っているのがおかしい。
・効果は額の2倍に
国土交通省の話 融資の基準を緩めるものではないので、破綻が増えるという指摘は当たらない。経済波及効果は住宅投資額の2倍近くある。
■住宅ローン拡大策 破綻予備軍も増? 『頭金なし』 補正予算で可能に 識者 景気効果を疑問視
国が補正予算に盛り込んだ住宅ローン拡大策に、専門家から疑問の声が上がっている。住宅金融支援機構と民間金融機関との提携商品の融資枠拡充に1兆6000億円を計上、利用者は頭金なしでも借りられるようになった。国土交通省は景気効果をPRするが、専門家らは「ローン破綻予備軍が増えるのでは」などと、安全性や経済効果に首をかしげている。
対象商品は長期固定金利型ローン「フラット35」。今月四日から融資上限額が住宅購入に必要な資金の9割から10割に引き上げられ、頭金なしでローンが組めるように制度が変わった。
住宅ローンアドバイザー藤井亨さんの試算では、4000万円の物件の場合、従来の融資上限3600万円を35年ローン(金利3%)で借りると、返済総額は5820万円。それが制度改正で全額4000万円まで借りた場合、返済総額は650万円増え、毎月の返済では1万5400円増える。藤井さんは「返済額が増えれば、その分消費に回る金が少なくなる」と景気効果に疑問を示す。
住宅コンサルタントの安田裕次さんは、1990年代に機構の前身の旧住宅金融公庫が導入し、多くのローン破綻者を生んだ「ゆとり返済」を例に挙げ、「住宅ローン破綻予備軍が増えるのは間違いない」と心配する。
安田さんのもとに相談にきた女性(46)の場合、年老いた両親と住むため、99年に35年のゆとりローンで、頭金なしで3500万円を借りてマンションを購入したが、2003年に勤務先の大手電機メーカーの子会社が廃業。パート勤めで返済を続けたが、金利が上がって返済額が増え、生活費にも困るようになった。借金がかさんで昨年に自己破産。マンションは競売にかけられた。
女性は「頭金なしという不動産会社のセールストークが魅力的だった。頭金が必要なら住宅は購入しなかったし、そもそも買えなかった」と悔やんだ。
安田さんは「不況で給料が伸び悩む中、今の収入が35年後も保証されているか。機構は危険性を認識しつつも、景気対策として何か出さざるを得なかったのでは」とみる。
ゆとりローンや米国の「サブプライム・ローン」との類似性を指摘するのは、「日本版サブプライム危機」の著者の石川和男・東京財団上席研究員だ。
二つとも当初は返済額が少なく、後で段階的に上がる仕組み。フラット35は固定金利だが、通常ならローンを組むのが難しい人でも借りやすくする点は同じだ。石川さんは「住宅資産の価値が上がるかどうか分からない中、こうした借金を国が推奨するのはおかしい。教訓を生かしていない」と批判する。
・機構存続おかしい
経済ジャーナリストの荻原博子さんの話 今までも同様の景気浮揚策で不幸な人を出し、税金で後始末してきた。景気回復のために(ローンを借りた)人の財布を使うのはやめてほしい。住宅金融公庫時代に焦げ付いた債権処理もできていないうちに多額の補正予算を組む必要はない。
そもそも廃止が決まっていたはずの公庫が、看板を替えて天下り機関として残っているのがおかしい。
・効果は額の2倍に
国土交通省の話 融資の基準を緩めるものではないので、破綻が増えるという指摘は当たらない。経済波及効果は住宅投資額の2倍近くある。