不器用ながら着実に覚えていく同い年のムスメが電車の高架線の不具合で遅れながらやって来た。
朝七時から十分おきに留守電に連絡が入ってた。生真面目さ満載の態度にコチラの方が自分の不誠実を突き付けられた様な気持ちにさえなった。
ん?……その彼女の後ろに隠れるように発熱青年がおずおずと背中を丸めて立っているではないか?
先ずは……お前さんとこの社長に電話して『嘘ついてサボったこと』と昨日、無断欠勤したことを報告しろ!それでお許しが出たなら取り敢えず店には入ってよろしい!……と僕は言った。
生真面目彼女に習得メニューの段取りを説明し終わった時に……涙を拭きながら発熱青年が帰ってきた。
何と、お許しが出たとのこと。
聞く所によると社長との面接の時も一回、嘘の発熱でドタキャンしてるらしいな?
は、ハイ……。
当然、前の勤め先でも何度か嘘の発熱したよな?
は、ハイ。
ここには君の仮病を真に受けてくれるママは居ない。電話一つでお大事に!なぁ~んて話で終わってくれるガッコのセンセもいない。
君如きの発熱?体調が悪い?無断欠勤?……。『アイツは使えんな……』それで話は終わる。
少し億劫なら……ハイ発熱、体調不良で逃げる。
逃げたら?今度は不安になる。
気の利いた同年代なら自力で稼ぎ始めてる。
それ見てまた不安になって慌てる。しかし自分を甘やかしては逃げる癖は思いの外しつこい。
『次からはちゃんとやる?』なぁ~んてなエクスキューズでまたまた自分を許す。
このまんまじゃ今の自分はだんだん置いて行かれる?
そんな怯えを君は自分で分かってた筈だ……。
は、ハイ……。嘘を付くなよ!俺に合わせて生返事なんぞするんじゃない!!
ホントに分かってましたと半泣きになる。
泣いて済ませられる話じゃない!……。
ココは大人がビジネスしてる場所だ。ガキが発熱して寝込もうが関係ねぇんだよ!
人にモノを習うならそれなりのマナーがある。
君は誰かに頼まれたから来てやってる?そんな態度だな?……帰れ!帰れ!
ゆ、許して下さい。もう一度だけチャンスを下さい……。そして本格的に泣き出しやがった。
泣いて済ます気か?泣くんなら帰れ!
必死で涙を拭いてキッとこちらを見て来た。
勘違いすんなよ……一度ドタキャンしても、懲りずに誘った君んとこの社長ほど俺は優しくない。何よりプライドはある。
ガキに引っ掻き回されて堪るか!
どうしたら?良いですか?
騒動起こし迷惑作ったのは君だ。自分で考えろ!……そして自分で決めろ!
『お前さん得意の逃げ』を打ちゃ楽になるぜぇ……。
もう一度だけ、教えて下さい!お願いします……。
恐らく?大人の本気で以て詰められた事なんぞ無いんだろうな?……そう思った……。
コイツもまた親からもガッコのセンセからも本気で愛されなかった?んだろうなあ……と。
何時だったか書いた。
この世界は『コンビニエンスな愛』とやらで溢れてる……と。
大人のお仕事の現場にガッコのサボタージュ技術で通用すると?このガキにタカを括らせたのは親を初めとする世の大人達なのである。
可哀想だから一期一会の精神でその日一日と決めて本気で教えた。
帰り際に……ガッコのこと、前の勤め先のこと、嘘ばかりで実は自分には何も無いと怯えてたこと……何から何まで全〜部見透かされたことがショックでしたと彼は呻くように言った。
良いか?よく聞け。
お前さんの嘘なんて誰も本気で聞いちゃいなかったんだよ。
何も無く中身空っぽの君なんてどうでも良いと『興味が全く無かったから』何も言わなかっただけだと知りなさい。
大人の流儀第一条!
真っ先に自分が自分を許すなら……身に付くのは堕落と横着だけだ。誰も君なんて叱らない。
今迄のそんな生き方で身に付けた『横着と堕落』が君の不安の正体なのだ!……と僕は言った。
それなりのオシャレ?カッコ付けた喋り方?
今の君にあるのは『ガキのコケオドシ』って奴しか無いのだと……。
何度も頷きながら彼は帰って行った。
期待は一切していない。
どっちに転ぼうとそれは彼しか決められない事だからである……。