goo blog サービス終了のお知らせ 

舞い上がる。

日々を笑い、日々を愛す。
ちひろBLUESこと熊谷千尋のブログです。

映画「彼女の好きなものは」観てきました。

2021-12-14 23:32:59 | Weblog




ユナイテッド・シネマ新潟で「彼女の好きなものは」を観てきました。

ゲイであることを隠している純と、BL好きを隠している紗枝の出会いから始まる青春映画。
ゲイとBLという似て非なるものをあえて出会わせることで、互いの隠し持つ孤独や生きづらさを浮き彫りにしつつ、最後は本当の意味で人と人が分かり合うことや愛し合うことという普遍的なテーマを描いた映画だと思いました。

自分は昔から、実際のゲイの人達とBLは一見似ているようで全然違うし、そういうものを「ネタ」として消費するBLという文化に微妙に違和感がずっとあったのですが、まさにその、まだ世の中で言語化されてない微妙な違和感みたいなものを見事に描いていたと思いました。
同性愛を題材に、この切り口で描くのは画期的すぎる。

ゲイであり年上の同性の恋人がいることを隠して生きている純の視点から世の中を見ることで、例えばクラスの男子同士の下ネタ会話など、日常の中のちょっとした性にまつわるデリカシーのなさなどがすごく際立つ。
特に、ゲイに偏見を持ってる人との会話は、自分は同性愛者ではないけれど見ていてつらかった。

そういう風に人と違う生き方に悩む純は、ある意味ちょっと達観してしまっている部分があり、だから紗枝のBL好きを隠していることなんて本当に些細なことにも見える。
でも、紗枝には紗枝でちゃんと一人の人間として、人に言えない悩みや生きづらさがあって、それを軽視も否定もしない、という作風が素晴らしい。

例えば、純を好きな紗枝が、純に「彼氏」がいると知る場面。
紗枝にとっては、「彼の好きなものは彼であって私じゃない」と気付いてしまう場面であり、同時に純にとっては「彼女が好きなものは僕であってホモじゃない」と気付いてしまう場面。

紗枝の気持ちの切なさはストレートに伝わると同時に、純は純で紗枝の気持ちを知っているのに冷たく接することしかできない、そういう孤独を抱えてしまう。
その二人のすれ違いが本当に切ないわけですが、こういう風に、常に同性愛者と異性愛者である二人それぞれの気持ちを、どちらも置いていくことなく、同じ重さでしっかり描いていくのが素晴らしかったと思います。

でも、そこですれ違ったあとに露骨に修羅場を描くのではなく、お互いが怒りや気まずさを感じつつも、二人が分かり合おうとする場面に、この物語が「人と人が分かり合おうとすること」の大切さを描いていると感じました。
肉体的には男性と女性であり、同性愛者と異性愛者という、異なる立場である二人ですが、その違いを理解した上で、それでも分かり合おうとする。

また、ちょっと細かい説明は省きますが、最初は「こいつウザいな」「こいつは嫌な奴だな」という人物も登場するのですが、そこで終わらず、必ず見えていなかったいい一面も描くという、人間の多面性をしっかり描いた映画になっていたと思うし、そこになんというか、この物語の「優しさ」を感じました。
「優しさ」と言えば、途中で本当に切ないすれ違いと偏見から、とある悲劇が起こってしまうわけですが、そこでバッドエンドにせずに、その先をちゃんと描いていたのも、「優しさ」を感じる部分でした。

何よりこの映画、僕は同性愛者ではないのに、自分のことみたいに気持ちが分かる場面がたくさんあって驚いたのです。
その最たるものが紗枝の「最初は異性として好きになったけど、今は男女どっちでもいい、人として好き」みたいな台詞、本当にその通りだと思いました。

「彼の周りには壁がある、その壁は自分ではなく、私達を傷付けないためにあった」みたいな台詞も、ここまで誰かの想いを受け取れることってあるだろうかと思ってしまった。
人が人を好きになることの普遍性を描いている映画だと思いました。

その台詞が登場する場面は、「学校へ行こう!」の未成年の主張か!ってくらい紗枝が全力で自分のBL好きのことも純への想いも自分の気持ちを「告白」するという場面で、見ていて本当に涙が出るほど心が動かされてしまいました。
紗枝はもちろん、純も自分の気持ちと向き合うきっかけとなり、それまでのちょっとした登場人物達が、彼らのことを本気で想っていることも伝わるという名場面でした。

とにかく同性愛や異性愛を超えて、人と人が分かり合うこと、許し合い、愛し合うことという、普遍的なテーマを描いた映画だったと思う。
ラストの二人の台詞にそれが現れていたなと思いました。

あと、同性愛者の人達の生きづらさという残酷な現実を、BLという視点で一見ギャグっぽくも鋭く風刺した台詞も、そのちょっと前に登場してきて、それも良かったです。
そうだよなあ、みんなゲイという人達のことをBLみたいな軽いノリで見ちゃうけれど、当事者にとっては重い問題なんだよなあ…ということです(ネタバレ防止で書かないでおきます)。

この映画は「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」という小説が原作で、以前NHKで「腐女子、うっかりゲイに告る。」というドラマ化もしていてそれも良かったのですが、是非原作も読みたいです。
人生、恋愛における悩みを、落ち着いて受け止めるのも大事だよなと教えてくれる一冊になりそうです。

それにしても、今作といい、「ひらいて」といい、ドラマ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」といい、もっと言えば暴力映画「ミスミソウ」といい、山田杏奈さんの出演作はどうしてこんなに自分の心に深く刺さり、自分の中の深い気持ちと向き合うようなきっかけを与えてくれる作品ばかりなのか。
自分の中で今一番、心を動かす力のある役者さんです。

あと、役者で素晴らしかったのは、クラスで同性愛について話し合う場面の、名前もなき高校生達。
みんな本当にリアル高校生にいそうだし、このテーマで高校生が授業で話し合ったら、こういう雰囲気になりそうだな…(とりあえずいいこと言う奴、茶化す奴など)ってのがリアルすぎてびっくりしました。
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 映画「アニメーションの神様... | トップ | 「ちひろdeアート2021」、チ... »
最新の画像もっと見る

Weblog」カテゴリの最新記事